7 / 95
2-1
しおりを挟む
二次会はホテルのバーに行った。
窓際にゆったり配置したソファに体を沈めて、ジャズの生演奏を聴きながら北京の夜景を眺めた。東京や香港の明るさには及ばないが、こうして見るとそれなりにきれいだ。
「北京もずいぶん明るくなったよね」
「ホントだな」
「学生寮って今も計画停電してんのかな?」
「どうだろ? 最近、学校行ってないから俺も知らないな」
北京に住んでいた頃は後輩たちに誘われたり友人に会いに結構遊びに行っていたが、大連に赴任したらさすがにそんな時間はなかった。
「あれはあれで楽しかったよね」
「えー、夏は最悪だったって」
湿度がなくて日本よりは涼しいけれど、陽射しは案外強くて暑いことには変わりがない。もっとも夜になればエアコンがなくても扇風機でどうにかなる程度だ。最悪と言いながらも孝弘はどこか懐かしそうな表情だ。
「そう言えばいっぺんさ、シャワー浴びてる途中で断水と同時に停電したことあったよね」
「え? …ああ、あったな」
思い出した孝弘がげらげらと笑い出す。
「シャンプーで泡だらけのとこでいきなり電気消えて、お湯止まったんだよな」
「そうそう、ちょうど孝弘と隣のブースで浴びてて、どうしよっかって焦ったよね」
聞いていた祐樹は裸の二人が泡だらけの頭で焦っている姿を想像して微笑んだ。
「それで、どうなったの?」
「真っ暗だししばらく待ちながら、どうする? 寒いし風邪ひきそうだしもうこのまま服着る? とか相談してるうちに水だけどばーって出てきて、急いで流して出たんだよね」
「あれ、今ぐらいの時期だっただろ、すっげー寒かったもん」
この時期に水シャワーか、確かに冷たいだろうと祐樹は二人のしかめた顔を見てくすくす笑う。
「そうそう、体冷えて寒いのに部屋戻っても停電したままでドライヤーも電熱器も使えなくて最悪だった」
「毛布にくるまって震えながら寝たよな。あれはマジでやばかった」
二人が同室だったときの話らしい。
いいなと思う。学生時代を一緒に過ごしたって、何となく特別な感じがする。気心が知れてるというか、それこそ裸の付き合いって感じで。
孝弘の学生時代をほんの少ししか知らない祐樹には、同室で過ごしたレオンが羨ましい。毎日同じ部屋で、二人でどんな話をしていたんだろう。
二人が一緒に授業に出たり課題をしたり遊びに行ったりしたと思うと、何となく面白くないような気もする。そんなことを今さら思ってもどうしようもないのに。
そう言えば、研修中の祐樹が遊びに行ったときにはぞぞむが同室だった。そうやって知り合った3人が今は会社を興して頑張っているのだ。
「祐樹さんが初めて北京来たのっていつだっけ?」
「93年の春から秋に研修に来たのが初めての北京だよ」
あの研修を思い出すと祐樹はほんの少し、胸の痛みを覚える。
「だから6月の北京出張は丸5年ぶりくらいだった」
「5年前か。じゃあ、けっこう変わったよね」
「うん。街がきれいになった」
祐樹はくすりと思い出し笑いをした。
「研修で最初に北京に着いたとき、空港からの道が舗装されてない砂利道で、市内までのバスがすごいボロボロでびっくりしたの、覚えてるよ」
「そうなんだよね、北京って有名だけど都会じゃないもんね」
「うん。後から上海や広州のほうがずっと都会で発展してるって知ったくらい、何にも知らないで来たんだ」
あの研修が祐樹にとって最初の海外だった。
パスポートを取ったのも初めてなら、ビザを取ったのももちろん初めてだ。仕事での海外赴任だから祐樹は書類を書いて提出しただけで、実際の手続きは会社がしてくれたのだが。
中国と言えば4千年の歴史というくらいだし、首都北京は有名だから勝手に都会だと思い込んでいたら、実際の北京は祐樹が想像していたよりも遥かに田舎町だった。
まだ改革開放政策が始まってそう経っていなかったこともあり、社会主義国ってこんなふうなのかと驚くことがたくさんあった。
窓際にゆったり配置したソファに体を沈めて、ジャズの生演奏を聴きながら北京の夜景を眺めた。東京や香港の明るさには及ばないが、こうして見るとそれなりにきれいだ。
「北京もずいぶん明るくなったよね」
「ホントだな」
「学生寮って今も計画停電してんのかな?」
「どうだろ? 最近、学校行ってないから俺も知らないな」
北京に住んでいた頃は後輩たちに誘われたり友人に会いに結構遊びに行っていたが、大連に赴任したらさすがにそんな時間はなかった。
「あれはあれで楽しかったよね」
「えー、夏は最悪だったって」
湿度がなくて日本よりは涼しいけれど、陽射しは案外強くて暑いことには変わりがない。もっとも夜になればエアコンがなくても扇風機でどうにかなる程度だ。最悪と言いながらも孝弘はどこか懐かしそうな表情だ。
「そう言えばいっぺんさ、シャワー浴びてる途中で断水と同時に停電したことあったよね」
「え? …ああ、あったな」
思い出した孝弘がげらげらと笑い出す。
「シャンプーで泡だらけのとこでいきなり電気消えて、お湯止まったんだよな」
「そうそう、ちょうど孝弘と隣のブースで浴びてて、どうしよっかって焦ったよね」
聞いていた祐樹は裸の二人が泡だらけの頭で焦っている姿を想像して微笑んだ。
「それで、どうなったの?」
「真っ暗だししばらく待ちながら、どうする? 寒いし風邪ひきそうだしもうこのまま服着る? とか相談してるうちに水だけどばーって出てきて、急いで流して出たんだよね」
「あれ、今ぐらいの時期だっただろ、すっげー寒かったもん」
この時期に水シャワーか、確かに冷たいだろうと祐樹は二人のしかめた顔を見てくすくす笑う。
「そうそう、体冷えて寒いのに部屋戻っても停電したままでドライヤーも電熱器も使えなくて最悪だった」
「毛布にくるまって震えながら寝たよな。あれはマジでやばかった」
二人が同室だったときの話らしい。
いいなと思う。学生時代を一緒に過ごしたって、何となく特別な感じがする。気心が知れてるというか、それこそ裸の付き合いって感じで。
孝弘の学生時代をほんの少ししか知らない祐樹には、同室で過ごしたレオンが羨ましい。毎日同じ部屋で、二人でどんな話をしていたんだろう。
二人が一緒に授業に出たり課題をしたり遊びに行ったりしたと思うと、何となく面白くないような気もする。そんなことを今さら思ってもどうしようもないのに。
そう言えば、研修中の祐樹が遊びに行ったときにはぞぞむが同室だった。そうやって知り合った3人が今は会社を興して頑張っているのだ。
「祐樹さんが初めて北京来たのっていつだっけ?」
「93年の春から秋に研修に来たのが初めての北京だよ」
あの研修を思い出すと祐樹はほんの少し、胸の痛みを覚える。
「だから6月の北京出張は丸5年ぶりくらいだった」
「5年前か。じゃあ、けっこう変わったよね」
「うん。街がきれいになった」
祐樹はくすりと思い出し笑いをした。
「研修で最初に北京に着いたとき、空港からの道が舗装されてない砂利道で、市内までのバスがすごいボロボロでびっくりしたの、覚えてるよ」
「そうなんだよね、北京って有名だけど都会じゃないもんね」
「うん。後から上海や広州のほうがずっと都会で発展してるって知ったくらい、何にも知らないで来たんだ」
あの研修が祐樹にとって最初の海外だった。
パスポートを取ったのも初めてなら、ビザを取ったのももちろん初めてだ。仕事での海外赴任だから祐樹は書類を書いて提出しただけで、実際の手続きは会社がしてくれたのだが。
中国と言えば4千年の歴史というくらいだし、首都北京は有名だから勝手に都会だと思い込んでいたら、実際の北京は祐樹が想像していたよりも遥かに田舎町だった。
まだ改革開放政策が始まってそう経っていなかったこともあり、社会主義国ってこんなふうなのかと驚くことがたくさんあった。
6
あなたにおすすめの小説
甘くてほろ苦い、恋は蜜やかに。
米粉あげぱん
BL
紅い唇は、物足りなさそうに震えるーー。
御堂 和樹(みどう かずき)と三神峯 景(みかみね けい)は、都内の大手有名製薬会社に勤める営業部の主任と薬事研究課で日々研究を重ねる薬剤師。 普段の業務ではなかなか関わらない二人だが、大阪での仕事で一緒になったことがきっかけで互いに惹かれ合う。
同じ会社の社員同士で、男同士。これ以上踏み込んではいけないと思いつつ、その感情は止まることを知らない。感情のままに噛みついた唇は、拒まれればすぐに離すつもりだった。 彼に会うたび、触れるたび、夢中になっていく。 ーー嬉しいことも辛いことも、一緒に背負っていきたい。
甘くほろ苦い、二人だけの秘密の恋。
※表紙は漫画家の星埜いろ様に描いていただきました!!
エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。
宵にまぎれて兎は回る
宇土為名
BL
高校3年の春、同級生の名取に告白した冬だったが名取にはあっさりと冗談だったことにされてしまう。それを否定することもなく卒業し手以来、冬は親友だった名取とは距離を置こうと一度も連絡を取らなかった。そして8年後、勤めている会社の取引先で転勤してきた名取と8年ぶりに再会を果たす。再会してすぐ名取は自身の結婚式に出席してくれと冬に頼んできた。はじめは断るつもりだった冬だが、名取の願いには弱く結局引き受けてしまう。そして式当日、幸せに溢れた雰囲気に疲れてしまった冬は式場の中庭で避難するように休憩した。いまだに思いを断ち切れていない自分の情けなさを反省していると、そこで別の式に出席している男と出会い…
【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】
彩華
BL
俺の名前は水野圭。年は25。
自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで)
だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。
凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!
凄い! 店員もイケメン!
と、実は穴場? な店を見つけたわけで。
(今度からこの店で弁当を買おう)
浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……?
「胃袋掴みたいなぁ」
その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。
******
そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
死ぬほど嫌いな上司と付き合いました【完結】
三宅スズ
BL
社会人3年目の皆川涼介(みながわりょうすけ)25歳。
皆川涼介の上司、瀧本樹(たきもといつき)28歳。
涼介はとにかく樹のことが苦手だし、嫌いだし、話すのも嫌だし、絶対に自分とは釣り合わないと思っていたが‥‥
上司×部下BL
相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~
柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】
人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。
その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。
完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。
ところがある日。
篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。
「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」
一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。
いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。
合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる