あの日、北京の街角で4 大連デイズ

ゆまは なお

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 二次会はホテルのバーに行った。

 窓際にゆったり配置したソファに体を沈めて、ジャズの生演奏を聴きながら北京の夜景を眺めた。東京や香港の明るさには及ばないが、こうして見るとそれなりにきれいだ。

「北京もずいぶん明るくなったよね」
「ホントだな」

「学生寮って今も計画停電してんのかな?」
「どうだろ? 最近、学校行ってないから俺も知らないな」

 北京に住んでいた頃は後輩たちに誘われたり友人に会いに結構遊びに行っていたが、大連に赴任したらさすがにそんな時間はなかった。

「あれはあれで楽しかったよね」
「えー、夏は最悪だったって」

 湿度がなくて日本よりは涼しいけれど、陽射しは案外強くて暑いことには変わりがない。もっとも夜になればエアコンがなくても扇風機でどうにかなる程度だ。最悪と言いながらも孝弘はどこか懐かしそうな表情だ。

「そう言えばいっぺんさ、シャワー浴びてる途中で断水と同時に停電したことあったよね」
「え? …ああ、あったな」

 思い出した孝弘がげらげらと笑い出す。

「シャンプーで泡だらけのとこでいきなり電気消えて、お湯止まったんだよな」
「そうそう、ちょうど孝弘と隣のブースで浴びてて、どうしよっかって焦ったよね」

 聞いていた祐樹は裸の二人が泡だらけの頭で焦っている姿を想像して微笑んだ。

「それで、どうなったの?」
「真っ暗だししばらく待ちながら、どうする? 寒いし風邪ひきそうだしもうこのまま服着る? とか相談してるうちに水だけどばーって出てきて、急いで流して出たんだよね」

「あれ、今ぐらいの時期だっただろ、すっげー寒かったもん」
 この時期に水シャワーか、確かに冷たいだろうと祐樹は二人のしかめた顔を見てくすくす笑う。

「そうそう、体冷えて寒いのに部屋戻っても停電したままでドライヤーも電熱器も使えなくて最悪だった」
「毛布にくるまって震えながら寝たよな。あれはマジでやばかった」

 二人が同室だったときの話らしい。



 いいなと思う。学生時代を一緒に過ごしたって、何となく特別な感じがする。気心が知れてるというか、それこそ裸の付き合いって感じで。

 孝弘の学生時代をほんの少ししか知らない祐樹には、同室で過ごしたレオンが羨ましい。毎日同じ部屋で、二人でどんな話をしていたんだろう。

 二人が一緒に授業に出たり課題をしたり遊びに行ったりしたと思うと、何となく面白くないような気もする。そんなことを今さら思ってもどうしようもないのに。

 そう言えば、研修中の祐樹が遊びに行ったときにはぞぞむが同室だった。そうやって知り合った3人が今は会社を興して頑張っているのだ。

「祐樹さんが初めて北京来たのっていつだっけ?」
「93年の春から秋に研修に来たのが初めての北京だよ」

 あの研修を思い出すと祐樹はほんの少し、胸の痛みを覚える。

「だから6月の北京出張は丸5年ぶりくらいだった」
「5年前か。じゃあ、けっこう変わったよね」

「うん。街がきれいになった」
 祐樹はくすりと思い出し笑いをした。

「研修で最初に北京に着いたとき、空港からの道が舗装されてない砂利道で、市内までのバスがすごいボロボロでびっくりしたの、覚えてるよ」

「そうなんだよね、北京って有名だけど都会じゃないもんね」
「うん。後から上海や広州のほうがずっと都会で発展してるって知ったくらい、何にも知らないで来たんだ」

 あの研修が祐樹にとって最初の海外だった。

 パスポートを取ったのも初めてなら、ビザを取ったのももちろん初めてだ。仕事での海外赴任だから祐樹は書類を書いて提出しただけで、実際の手続きは会社がしてくれたのだが。

 中国と言えば4千年の歴史というくらいだし、首都北京は有名だから勝手に都会だと思い込んでいたら、実際の北京は祐樹が想像していたよりも遥かに田舎町だった。

 まだ改革開放政策が始まってそう経っていなかったこともあり、社会主義国ってこんなふうなのかと驚くことがたくさんあった。

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