あの日、北京の街角で4 大連デイズ

ゆまは なお

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「最初は見た目でつられても、常連になる人も出てくるんじゃない? 北京の五ツ星ホテルのカフェで初めて飲んだコーヒーの味はいまだに忘れられないくらいだし」

「祐樹さん、何飲んだの?」
「普通のコーヒー」

「普通? あー…、劇甘インスタントコーヒー?」
「うん。かなり衝撃的だった。甘い烏龍茶も緑茶も」

 缶入り飲料もペットボトルも加糖してあるのが一般的だから、無糖でと言わなければ甘いものが渡される。

「日本人は甘くない飲み物に慣れてるもんね」
「あれ? 香港のお茶も甘いんだった?」

「基本は甘くないけど、甘いお茶やコーヒーもけっこうあるよ」
「そうだった? 気がつかなかったな」

 何度か香港に行っていたが、そういう飲み物には出会わなかった。さほどメニューをみることもなくさっさとコーヒーを頼んでしまうからだろう。今度行く機会があればじっくり見てみようと思う。

「櫻花珈琲ではコーヒーメインだよね? お茶は出してる?」
「コーヒーを飲めない人のために紅茶のホットとアイスは置いてる。あとは北京だから一応、花茶と菊花茶も」

「わざわざ花茶を頼む人いるのか?」
 孝弘の質問にレオンは首を横に振った。

「ほとんどいない。王府井店は外国人観光客のほうが断然多いから、普通のコーヒーが一番出てるね」
 そのあとはメニューについてあれこれ話をした。

 現在のところ、フードメニューはまだ少ないが今後の課題としていることや、店によってコンセプトを変えていることのメリットデメリットなど、祐樹もしばしば意見を求められた。完全に素人の意見だが、二人の仲間に入れてもらえたようでなんだか嬉しい。


「祐樹さんの意見って参考になるね。こういうジャンル、興味ある?」
 しばらく話していたらレオンがにこにこと尋ねた。

「こういうジャンル?」
「カフェとかレストラン経営とか店舗展開とか?」

「うん、面白そうだと思う」
「ホント? やってみたいって思う?」

「そうだね。やりがいありそう。外食産業はこれからの経済発展につれて確実に伸びる分野だし、カフェだけじゃなく日本食やイタリアンレストランなんかも今みたいなもどきじゃなくて、ちゃんとしたものが出来たらきっと流行ると思うよ」

 何の気負いもなく答えた祐樹は、レオンの目がきらりと光ったことには気づかない。

「そうだよね。これから伸びる分野だし、面白い展開ができそうだよね?」
「うん。人口がこれだけ多い国だから、そのうちコーヒー文化や海外の食事が根付いてくれば消費が爆発的に拡大するだろうし」

 都市部ではすでにその兆しは見えている。今はじわじわ広がっているその波は、いつ大波になってもおかしくない。 

 櫻花公司もその波を捕まえようとしているうちの一社と言える。この先10年で、きっと国内の消費は飛躍的に伸びるだろう。

 コロ ナビールを口に運んだ孝弘が何も言わないので、それ以上のことはレオンも控えた。祐樹を口説くなら孝弘がするだろうし、いずれ祐樹をスカウトするとしてもまだ時期じゃない。何しろ新規事業を任されて赴任してきたばかりなのだ。

 楽しく飲んでたくさん話をして、明日の朝の会議が控えているからと、少し早いが10時半にバーを出た。

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