あの日、北京の街角で4 大連デイズ

ゆまは なお

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「キャバクラ的な店でいいんですか?」
「そうだな。とりあえずは…。そこはお触りありなの?」

 青木が首をひねりつつ、孝弘に質問する。訊かれた孝弘は平然としている。これも仕事のうち、エッチな店の情報もいくらでも持っていそうだ。

 頼りになると言っていいのか、これ。5年前はとても困ったらしいが今ではもうそんなことは何とも思ってませんみたいな顔をして。

「建前上ダメです。チップ次第でサービスしてくれますけど」
「ふーん。…もっと黄色いサービスをする店を用意したほうがいいのか?」

 黄色いサービス、というのは性的なものやエッチなものを指すときの言い方だ。エロ本なども黄色い本と言ったりする。日本で言うところのピンク色がこちらでは黄色なのだ。

 清朝時代には皇帝しか身に着けることが許されなかった高貴な色が、今やエッチなことを意味する代表色だなんてどういう皮肉だろう? 

 そんなことを考えながら、なんとなく二人の会話を聞く。別に聞き耳立ててるわけじゃない。二人は普通の声で会話しているし。って誰に言い訳してるんだか。

 さすがに会話の内容に配慮したのか、中国人スタッフはもう帰った後だ。

「じゃあ、マッサージですか?」
 マッサージと言ってももちろん肩や背中を揉み解してくれるわけではない。

「うーん。先方がそのつもりなら案内したほうがいいのかな」
「どうでしょうね。食事して、その後ですよね?」

「ああ。こういう時はどんな感じになるのが一般的なんだ?」
「まあその場の流れもありますけど、こことかここでいいんじゃないですか?」

 孝弘が店の資料らしいものを見せて、青木がふうんと頷いた。

「…ほっそりした美人が多いんだな」
 女の子の写真一覧でも見たらしい。


「東北人《トンベイレン》は背が高くてスマートだって言いますからね」
「ああそうか。南方のほうが背が低いんだっけ?」

「そうです。もっとぽっちゃりした感じが好みでした?」
「いやいや、僕の好みはどうでもいいよ」

 青木が少し慌てたように手を振った。

「日本人受けする店がいいかと思っただけ」
「こっちも日本企業が多く使ってて、わりと評判いいですよ」

「そうか。じゃあ、ここにするか」

 会社の接待でその手の店に行くのなんか仕事の一環で、いちいち嫉妬するほどのことではない。祐樹だって取引先に夜総会やナイトクラブに連れて行かれて女の子にちやほやされたことくらいある。

 ゲイの祐樹にとって別に楽しくはなかったが、女の子たちはきれいで優しかったし、場を白けさせないように楽しそうを装うくらいはもちろんできる。

 一緒に行った上司や同僚は本当にでれでれと楽しそうに飲んでいたが。

 …孝弘はどうなのかな。日常では見られないほど露出の高いきれいな女の子たちが横に座ってくれるのだ。酒を注いでくれて話を聞いて盛り上げてくれて…。

 普通の男ならそりゃやっぱ嬉しいよな?
 元々孝弘はストレートだ。

 接待なのだから孝弘が楽しみに行くわけではない。でも何となくムカつく。こんなことくらいでそんなふうに思う自分に驚いた。

 これも仕事だ。自分だってそういう場面では酔ったふりして取引先のご機嫌を取ったりする。孝弘もそれと同じだ。そう言い聞かせても、嫌なものは嫌だ。

「もしもっと別の店って言われたら、安全に遊べる店を教えておきましょうか?」
「ああ、そうしてくれ」

 そこまで付添うつもりはないらしい。一瞬ほっとして、ていうか安全に遊べる店? それは誰情報なんだろう。ひょっとして自分でも調べたりした? いやいやまさか。

 くだらない考えを止めてくれたのは取引先からの電話だった。バカなことを考えるのはよそうと思いながら受話器を取った。



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