あの日、北京の街角で4 大連デイズ

ゆまは なお

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 祐樹に指摘されて気がついたが、こうしてスーパーで日常の細々したものを見るのが孝弘は結構好きだ。一緒に暮らしているみたいだなと思う。

 祐樹はどう思うだろうか。

 いつか一緒に暮らしたいって言ったら、困った顔で躱される? それともそうしようって笑う? そんなの無理って警戒する?

 どれもありそうで、まだ言う気はないけれど孝弘はすこしの間、空想にふける。

「ここのベーカリーのパン、けっこうおいしいって水元さんが言ってたね」
「ああ、そうだな」

 金曜日にランチを食べた店でばったり水元に会ったのだ。

 彼は今日、孝弘が教えたモンブランを食べに行くと言っていた。今ごろ中山広場の店にいるだろうか。おいしかったらいいんだけど。次に会えたら感想を聞いてみよう。

「せっかくだから買って帰る?」
「そうだね。たまにはパンもいいね」

 おいしいパンになかなか巡り会えないので、孝弘たちの食事はほぼ米だった。麺のこともあるが、パンはほとんど食べない。パサパサしていて水分が抜けているのだ。

 それでもベーカリーには香ばしい匂いが漂っていた。おいしそうな匂いにつられていくつか見繕って買ったあと、隣接したフードーコートで休憩する。

 それほど広くないフードコートには牛肉麺や水餃、チャーハンやアイスクリームなどの店が並んでいた。ペットボトルのドリンクを買って、見るともなく人々の行列を眺めた。

 ふと見たらコーヒーが売っていたので、味見のために一杯買った。熱々だから飲めなくはないが、やはりおいしいものではない。一口でやめておく。

「そういえばね、広州に日系スーパーが進出して来たときのことなんだけど」
 祐樹が行列を眺めながら言う。

「うん」
「上のフロアにフードコートができて、その中に回転寿司の店があったんだ」

「へえ、広州に回転寿司なんてあったんだ」
「うん。もしかしたら中国初だったのかも。で、同僚に誘われて食べに行ったんだけどね」

「不味かった?」
「いや、案外おいしかったよ。広州も海沿いだから魚介は新鮮だったし」

「そうなんだ」
「でも米がね、味はおいしいんだけど、しゃりの部分がもうぎゅーってかたーく握ってあって、おにぎりみたいっていうか。ものすごく食べごたえのある寿司だった」

「料理人は中国人?」
 思い出したらおかしくなったのか、祐樹はくすくす笑っている。

「そう。カウンターの中で中国人が寿司握ってた。何とかロールみたいなのも多かったけど、普通の握りもけっこうあって」

「でもしゃりが固いんだ」
「うん。何皿か食べたらお腹いっぱいになったよ」

「コスパのいい寿司屋だなー」
「ホントだね。今もあんなの出してんのかな」

「どうだろ、寿司職人の技術指導が入ったかもな」
「日本であんなの出したら滅茶苦茶怒られそう」

「また行きたい?」
「え、どうかな。広州行くなら飲茶のほうがいいな」

「飲茶に負ける寿司か」
「だって絶対そのほうがおいしいよね」

「まあな。こっちでも寿司は意外とあるけど、値段高いわりにうまくないしな」
 たいていはホテルの中だからいいお値段なのだ。


 ホテルの日本料理店なら料理人は日本人か指導を受けた中国人なので不味くはないが、同じ金額で中華を食べればかなりいい食事ができると知っているから、孝弘はホテルの日本食に行く気になれない。

 開発区内の日本料理屋は日本人駐在員向けにまあまあの味の日本料理を出すから、それなりに満足しているという理由もある。

 もっとも接待の場では孝弘の気持ちなど関係ないので、どこに連れて行かれても「ありがとうございます」と礼を言うわけだが。





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