あの日、北京の街角で4 大連デイズ

ゆまは なお

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「人事異動の欄にロンドンから香港へって異動の人がいて」
「それが先輩かと思ったの?」

 いたかもしれないが祐樹は覚えていなかった。

「うーん、そういうんじゃなくて。違うだろうと思ったけど、そう言えばあの人どうしたのかなって思い出して」

「それで気になった?」
「うん。なんて言うか、ちゃんと元気なのかなって感じで」
 
「元気だと思うし、とっくにおれのことなんか忘れて家族のために一生懸命仕事してると思うよ」

 北京空港で別れたときの、大澤のさばさばした表情を思い返して祐樹はそう言った。

「そっか。そうだよな」
 ワインを飲み干して、孝弘は「変なこと訊いてごめんな」と微笑んだ。

「ううん。べつに平気だよ。もう全部、過去のことだから」


 その後は、仕事の話や取引先の人の面白い話なんかをして、穏やかに食事を終えた。パエリアはおいしかったし、機会があったらスペイン料理店にも行ってみよう。

 祐樹が洗い物をしている横で、孝弘はレンジで湯を沸かしてマグカップを温めている。孝弘は案外丁寧で、カップをちゃんと温める。

 祐樹はそんなことをしたことはなかったが、孝弘がしているのを見て、最近は温めるようになった。コーヒーの香りが漂うと、条件反射みたいに気持ちがリラックスする。

 片づけを終えてリビングに戻って日本の衛星放送を見ていたら、先月の江沢民国家主席訪日についてのニュースが流れた。

 日中平和友好条約締結20周年の記念すべき今年の11月25日から30日までという日程で史上初めての中国国家主席の公式訪日が実現した。日中共同宣言の詳細な内容をアナウンサーが伝えている。

 90年代に入って反日教育を進めてきた江沢民が日本で何を言うのかと発言が注目されていたが、やはり過去の歴史問題に言及する事態となったようだ。国家主席の発言は、今後の日中関係に大きな影響をもたらす。

 日中関係で摩擦が過熱するとすぐに反日デモや不買運動などに発展するため、在留邦人はこの手のニュースには敏感にならざるを得ない。

 大使館や領事館からも注意喚起が出たり、各地の日本人会を通じて様々な連絡が来たりする。中国のメディアは情報統制されているため、正確なニュースが伝わってこないことが多々あるからだ。

 歴史認識はさておき、経済方面においては今後さらに関係は深まることは間違いないと識者が解説を交えながら話している。

 駐在員としては経済政策に変更はないという点では安心できた。改革開放政策はこのまま推し進められ、日中貿易はますます活発になっていくだろう。

 大連へ進出してくる日本企業は年々増加しているし、それにつれて投資額も右肩上がりだ。当然、大連在住の邦人数も増加している。

 心配していた対日感情については、実際に住んでみればそれほど悪くはなかった。普段接する中国人が開発区で仕事をしている親日家が多いからかもしれないが。

 でも先日、町中に出て、見知らぬ人々に声を掛けて写真を撮らせてもらったときも、みんな親切にしてくれた。

 日本人と知って日本語で話しかけてくれた若者もいた。開発区に日本企業が多く進出しているせいもあり、大連外国語大学を初めとする大連の大学生たちには日本語専攻者がかなりいる。

 彼らは流暢な日本語を話し、日本のマンガやアニメ、ドラマや歌手に親しんで育ち、日本に憧れを抱いている者も多い。日本への留学経験者もかなりいて、日本文化に対する理解があって就職先に日系企業を目指している。

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