57 / 95
9-4
しおりを挟む
それにその頃知り合ったゲイの友人と言うなら、恋人の交友関係で知り合ったほうがはるかに多かった。10歳も年上の初めての同性の恋人は、祐樹をあちこち連れて歩いてたくさんのことを教えてくれた。
彼は祐樹をとても可愛がってくれて、恋愛って楽しくて嬉しくていいものだと祐樹は初めて実感した。
後にその東雲とはやむを得ない事情で別れてしまったけれど、今思い出しても大人の彼からはとても大切にされた記憶が残っている。
別れて以来音信不通だった東雲とは、思いがけないきっかけで大連赴任直前に会うことになり、7年ぶりに話ができた。妻と二人の子供に恵まれて、仕事も順調な彼は幸せそうに微笑んだ。
孝弘の話をすると、祐樹にパートナーがいてほっとしたと安堵のため息をついていた。あの頃、この人が本当に好きだったなあとしみじみ思い、この恋愛がこうして穏やかな決着を迎えたことが素直に嬉しかった。
「そうなんだ。でも大学時代は彼氏がいたって言ったよな?」
ちょうど東雲のことを思い出していたから、祐樹はうろたえながら返事をする。
「うん。その人は学生じゃなかったけど。…ていうか、そんな話したっけ?」
「その先輩って人が北京に来たあと倒れて病院つきそったりした時に。学生時代の話聞いた時に言ってた」
大急ぎで記憶をたどって、そういうことがあったことを思い出した。研修中に祐樹が職場で倒れたときのことだ。北京生活のストレスや夏バテが重なって病院に運ばれたのだ。
孝弘が病院に迎えに来て部屋まで送ってくれた。大澤の気持ちにこれっぽっちも気づかなかったことで落ち込んでいた祐樹は過去のあれこれを話して孝弘に慰められたことがあった。
そうだ、あの時は孝弘とつき合うことになるなんて思わなかったから、かなり赤裸々な打明け話をしてしまった。だから孝弘が大澤のことや大学時代の恋人のことを知っているのだ。
思い出したら強烈に羞恥がこみ上げて、祐樹は真っ赤になってうつむいた。今考えたら色々まずかったよな。
まあしゃべってしまったことは今さらどうしようもないし、過去だから変えようもない。隠さなくてもいいんだと開き直るしかないだろう。孝弘はべつに気を悪くしているわけではないようだし。
「……もう忘れて」
「んー。普段はそんなこと忘れてるけど、でもあの頃の祐樹との思い出は大事にしまっておきたい感じだから、忘れないでおく」
それを聞いて祐樹は顔を上げた。
孝弘は思いがけず、やさしい目をして祐樹を見ていた。
祐樹も同じだった。孝弘との思い出は祐樹の胸の奥にひっそりしまわれていて、時おり思い出しては切なくなったものだった。
「じゃあお互い様だね。おれもそう思ってたよ」
「そう思ってたって?」
「孝弘のことは大事な思い出で、胸の中にしまってて時々取り出してみる感じだった。いま何してるかな、まだ学生なのかな、もう社会人で仕事してるかなって」
「…ヤバい、なんか照れる」
孝弘が困ったように眉を寄せる。
照れた顔が珍しくて何となくじっと見てしまう。
「なんで急にそんなこと言いだしたの?」
不思議だったので訊いてみたら「社内報見たから」と気まり悪げな返事があった。
「社内報?」
確かに先週届いていて、祐樹もさらっと読んだが大澤に関する記事などなかったように思う。分析レポートなどは署名入りで載せてくれるが、そもそも孝弘は大澤の名前も知らないだろう。
彼は祐樹をとても可愛がってくれて、恋愛って楽しくて嬉しくていいものだと祐樹は初めて実感した。
後にその東雲とはやむを得ない事情で別れてしまったけれど、今思い出しても大人の彼からはとても大切にされた記憶が残っている。
別れて以来音信不通だった東雲とは、思いがけないきっかけで大連赴任直前に会うことになり、7年ぶりに話ができた。妻と二人の子供に恵まれて、仕事も順調な彼は幸せそうに微笑んだ。
孝弘の話をすると、祐樹にパートナーがいてほっとしたと安堵のため息をついていた。あの頃、この人が本当に好きだったなあとしみじみ思い、この恋愛がこうして穏やかな決着を迎えたことが素直に嬉しかった。
「そうなんだ。でも大学時代は彼氏がいたって言ったよな?」
ちょうど東雲のことを思い出していたから、祐樹はうろたえながら返事をする。
「うん。その人は学生じゃなかったけど。…ていうか、そんな話したっけ?」
「その先輩って人が北京に来たあと倒れて病院つきそったりした時に。学生時代の話聞いた時に言ってた」
大急ぎで記憶をたどって、そういうことがあったことを思い出した。研修中に祐樹が職場で倒れたときのことだ。北京生活のストレスや夏バテが重なって病院に運ばれたのだ。
孝弘が病院に迎えに来て部屋まで送ってくれた。大澤の気持ちにこれっぽっちも気づかなかったことで落ち込んでいた祐樹は過去のあれこれを話して孝弘に慰められたことがあった。
そうだ、あの時は孝弘とつき合うことになるなんて思わなかったから、かなり赤裸々な打明け話をしてしまった。だから孝弘が大澤のことや大学時代の恋人のことを知っているのだ。
思い出したら強烈に羞恥がこみ上げて、祐樹は真っ赤になってうつむいた。今考えたら色々まずかったよな。
まあしゃべってしまったことは今さらどうしようもないし、過去だから変えようもない。隠さなくてもいいんだと開き直るしかないだろう。孝弘はべつに気を悪くしているわけではないようだし。
「……もう忘れて」
「んー。普段はそんなこと忘れてるけど、でもあの頃の祐樹との思い出は大事にしまっておきたい感じだから、忘れないでおく」
それを聞いて祐樹は顔を上げた。
孝弘は思いがけず、やさしい目をして祐樹を見ていた。
祐樹も同じだった。孝弘との思い出は祐樹の胸の奥にひっそりしまわれていて、時おり思い出しては切なくなったものだった。
「じゃあお互い様だね。おれもそう思ってたよ」
「そう思ってたって?」
「孝弘のことは大事な思い出で、胸の中にしまってて時々取り出してみる感じだった。いま何してるかな、まだ学生なのかな、もう社会人で仕事してるかなって」
「…ヤバい、なんか照れる」
孝弘が困ったように眉を寄せる。
照れた顔が珍しくて何となくじっと見てしまう。
「なんで急にそんなこと言いだしたの?」
不思議だったので訊いてみたら「社内報見たから」と気まり悪げな返事があった。
「社内報?」
確かに先週届いていて、祐樹もさらっと読んだが大澤に関する記事などなかったように思う。分析レポートなどは署名入りで載せてくれるが、そもそも孝弘は大澤の名前も知らないだろう。
0
あなたにおすすめの小説
死ぬほど嫌いな上司と付き合いました
三宅スズ
BL
社会人3年目の皆川涼介(みながわりょうすけ)25歳。
皆川涼介の上司、瀧本樹(たきもといつき)28歳。
涼介はとにかく樹のことが苦手だし、嫌いだし、話すのも嫌だし、絶対に自分とは釣り合わないと思っていたが‥‥
上司×部下BL
有能課長のあり得ない秘密
みなみ ゆうき
BL
地方の支社から本社の有能課長のプロジェクトチームに配属された男は、ある日ミーティングルームで課長のとんでもない姿を目撃してしまう。
しかもそれを見てしまったことが課長にバレて、何故か男のほうが弱味を握られたかのようにいいなりになるはめに……。
【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】
彩華
BL
俺の名前は水野圭。年は25。
自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで)
だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。
凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!
凄い! 店員もイケメン!
と、実は穴場? な店を見つけたわけで。
(今度からこの店で弁当を買おう)
浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……?
「胃袋掴みたいなぁ」
その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。
******
そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
【完結】それより俺は、もっとあなたとキスがしたい
佑々木(うさぎ)
BL
一ノ瀬(27)は、ビール会社である「YAMAGAMI」に勤めていた。
同僚との飲み会に出かけた夜、帰り道にバス停のベンチで寝ている美浜部長(32)を見つけてしまう。
いつも厳しく、高慢で鼻持ちならない美浜と距離を取っているため、一度は見捨てて帰ろうとしたのだが。さすがに寒空の下、見なかったことにして立ち去ることはできなかった。美浜を起こし、コーヒーでも飲ませて終わりにしようとした一ノ瀬に、美浜は思いも寄らないことを言い出して──。
サラリーマン同士のラブコメディです。
◎BLの性的描写がありますので、苦手な方はご注意ください
* 性的描写
*** 性行為の描写
大人だからこその焦れったい恋愛模様、是非ご覧ください。
年下敬語攻め、一人称「私」受けが好きな方にも、楽しんでいただけると幸いです。
表紙素材は abdulgalaxia様 よりお借りしています。
今日もBL営業カフェで働いています!?
卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ
※ 不定期更新です。
【完結】毎日きみに恋してる
藤吉めぐみ
BL
青春BLカップ1次選考通過しておりました!
応援ありがとうございました!
*******************
その日、澤下壱月は王子様に恋をした――
高校の頃、王子と異名をとっていた楽(がく)に恋した壱月(いづき)。
見ているだけでいいと思っていたのに、ちょっとしたきっかけから友人になり、大学進学と同時にルームメイトになる。
けれど、恋愛模様が派手な楽の傍で暮らすのは、あまりにも辛い。
けれど離れられない。傍にいたい。特別でありたい。たくさんの行きずりの一人にはなりたくない。けれど――
このまま親友でいるか、勇気を持つかで揺れる壱月の切ない同居ライフ。
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
鈴木さんちの家政夫
ユキヤナギ
BL
「もし家事全般を請け負ってくれるなら、家賃はいらないよ」そう言われて鈴木家の住み込み家政夫になった智樹は、雇い主の彩葉に心惹かれていく。だが彼には、一途に想い続けている相手がいた。彩葉の恋を見守るうちに、智樹は心に芽生えた大切な気持ちに気付いていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる