17 / 56
第6章-1 一年後の約束
しおりを挟む
「ここ? これって自宅?」
「そうみたい。すてきなおうちね。生花教室なんだから和風の家かと思ってたから、なんかびっくり」
目の前にはオレンジ色っぽいあたたかい色のレンガと白い壁が配色された、かわいい外観の洋館がある。綾乃とふたりで名刺の住所を見て、東雲の生花教室を訪ねてきたのだ。
門扉のところには2枚の案内プレートがかかっていた。しゃれた書体の東雲フラワーアレンジメント教室のものと木製の生花教室のものと。東雲は2つの教室を持っているのだろうか。
チャイムをならすと、インターホンではなく東雲本人が庭のほうから顔を見せて、こっちだよと直接声をかけてきた。玄関ではなく庭へと続くアプローチに向かう。
「こんにちは」
祐樹が礼儀正しく頭を下げた。
横で綾乃もならう。
「電話で話した松原綾乃さんです。大学で華道部に入ってます」
「松原綾乃です。きょうはよろしくお願いします」
東雲は展示会で会ったときと同じように、やわらかな笑みで歓迎してくれた。
あの生け花展から2週間がたっていた。
「祐樹くんから話は聞いてます。若い子が生け花に興味を持ってくれるって、とてもうれしいよ。ゆっくり見ていって。松原さんはお花も用意してあるからお稽古していってね」
「はい、ありがとうございます」
綾乃の返事にこっちでお稽古してるからと東雲が庭の一角にたつ建物を指した。ちいさな離れがあり、そこからにぎやかなおしゃべりの声が聞こえていた。
中に入ると数人の女性が棚から好きな花器を選んでテーブルに運び、枝や花を広げて活けていた。
見学者は珍しくないのだろう、こんにちはと気軽な挨拶をされた。女性ばかりなので、祐樹はちょっと居心地悪く思いながら手持無沙汰に室内を見まわした。
部屋はシンプルで、壁の一面が引き戸つきの棚になっていて、花器やハサミや剣山がしまってあるようだ。和風の花器ばかりではなく、ガラスの花瓶やオアシスなども置いてある。
それを見て表にあった看板を思い出した。
「東雲さんはフラワーアレンジメント教室もしてるんですか?」
「ああ、いや。そっちは母がやってる。というか、ここはもともと母の教室で、僕が後から生花教室もさせてもらうことになったんだ」
「お母さんはフラワーアレンジの先生ですか?」
「そう。もうキャリア30年くらいあるのかな。僕が子供のときからやってるから」
「へえ。でも東雲さんは生け花なんですね」
「うん。フラワーアレンジメントもやったけど、僕は生け花のほうが楽しかったんだ。枝ものと花の組み合わせが面白かったし、投げ入れとかフラワーアレンジにはない活け方もすごくアレンジの幅が広くて」
やわらかな語り口だが何を話しているのか、祐樹にはよく理解できなかった。ただ東雲が生け花が好きで情熱を傾けていることは伝わってきた。
並ぶと少しだけ東雲のほうが背が高い。でも肩幅や体つきは意外にしっかりしている。生け花展で見たような木のような枝や大量の花を活けることもあるなら、意外と体力もいる仕事なのかもしれない。
そこで先生お願いしますと生徒さんから声がかかり、東雲はその女性の作品を見に行った。綾乃のようすを見ると、棚のまえで真剣な顔して花器を見比べている。初めて見る綾乃の表情にちょっと驚いた。
「どうしたの?」
「花器をどれにするか迷ってるの。きょうの花材にどっちがいいかなって」
先に花を見てから花器を選んでいるらしい。花にも生け花にも興味のない祐樹にはどっちがいいか答えようもないので黙って見守ることにする。
「そうみたい。すてきなおうちね。生花教室なんだから和風の家かと思ってたから、なんかびっくり」
目の前にはオレンジ色っぽいあたたかい色のレンガと白い壁が配色された、かわいい外観の洋館がある。綾乃とふたりで名刺の住所を見て、東雲の生花教室を訪ねてきたのだ。
門扉のところには2枚の案内プレートがかかっていた。しゃれた書体の東雲フラワーアレンジメント教室のものと木製の生花教室のものと。東雲は2つの教室を持っているのだろうか。
チャイムをならすと、インターホンではなく東雲本人が庭のほうから顔を見せて、こっちだよと直接声をかけてきた。玄関ではなく庭へと続くアプローチに向かう。
「こんにちは」
祐樹が礼儀正しく頭を下げた。
横で綾乃もならう。
「電話で話した松原綾乃さんです。大学で華道部に入ってます」
「松原綾乃です。きょうはよろしくお願いします」
東雲は展示会で会ったときと同じように、やわらかな笑みで歓迎してくれた。
あの生け花展から2週間がたっていた。
「祐樹くんから話は聞いてます。若い子が生け花に興味を持ってくれるって、とてもうれしいよ。ゆっくり見ていって。松原さんはお花も用意してあるからお稽古していってね」
「はい、ありがとうございます」
綾乃の返事にこっちでお稽古してるからと東雲が庭の一角にたつ建物を指した。ちいさな離れがあり、そこからにぎやかなおしゃべりの声が聞こえていた。
中に入ると数人の女性が棚から好きな花器を選んでテーブルに運び、枝や花を広げて活けていた。
見学者は珍しくないのだろう、こんにちはと気軽な挨拶をされた。女性ばかりなので、祐樹はちょっと居心地悪く思いながら手持無沙汰に室内を見まわした。
部屋はシンプルで、壁の一面が引き戸つきの棚になっていて、花器やハサミや剣山がしまってあるようだ。和風の花器ばかりではなく、ガラスの花瓶やオアシスなども置いてある。
それを見て表にあった看板を思い出した。
「東雲さんはフラワーアレンジメント教室もしてるんですか?」
「ああ、いや。そっちは母がやってる。というか、ここはもともと母の教室で、僕が後から生花教室もさせてもらうことになったんだ」
「お母さんはフラワーアレンジの先生ですか?」
「そう。もうキャリア30年くらいあるのかな。僕が子供のときからやってるから」
「へえ。でも東雲さんは生け花なんですね」
「うん。フラワーアレンジメントもやったけど、僕は生け花のほうが楽しかったんだ。枝ものと花の組み合わせが面白かったし、投げ入れとかフラワーアレンジにはない活け方もすごくアレンジの幅が広くて」
やわらかな語り口だが何を話しているのか、祐樹にはよく理解できなかった。ただ東雲が生け花が好きで情熱を傾けていることは伝わってきた。
並ぶと少しだけ東雲のほうが背が高い。でも肩幅や体つきは意外にしっかりしている。生け花展で見たような木のような枝や大量の花を活けることもあるなら、意外と体力もいる仕事なのかもしれない。
そこで先生お願いしますと生徒さんから声がかかり、東雲はその女性の作品を見に行った。綾乃のようすを見ると、棚のまえで真剣な顔して花器を見比べている。初めて見る綾乃の表情にちょっと驚いた。
「どうしたの?」
「花器をどれにするか迷ってるの。きょうの花材にどっちがいいかなって」
先に花を見てから花器を選んでいるらしい。花にも生け花にも興味のない祐樹にはどっちがいいか答えようもないので黙って見守ることにする。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
37
1 / 3
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる