金の香種と黒の貴種 異世界中華オメガバース

ゆまは なお

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深夜の密会2

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「まあいい、後で本人に詳しく聞いてみる」
「王宮に招く気なんですか?」
「別にいいだろ。お前はどうなんだ? 五日も一緒にいたならノアがどういう人間かおれよりわかってるだろ?」
 水を向けられた呉央ウーヤンはサバサバと答えた。
「そうですね、弓と剣はかなりの腕前でした。王子って立場で育ったわりに気が優しく大らかな性格のようです。騎士団の雑談で聞いたんですが、ソブラリア王宮では貧乏王子と呼ばれていて不憫な身の上らしいですが」
「貧乏王子? 後ろ盾のない王子だって聞いたけど、それは酷いな」
 と言っても本人はあまり気にしなさそうではある。

「樹海の不便な野営でも一切、文句言わないし、意外と肝が据わってる感じでした。不満たらたらの使節団を止めてくれて、俺はやりやすかったですけど」
「確かに庶民の食事を出しても平気だったし、おれの態度にも怒ったりしないな。あまり貴種らしくないというか」
「ええ、貴種上位の国で育ったのに意外です。護衛の俺にも親切でしたよ。街道を外れて樹海に連れて行くのが申し訳ないと思うくらいに」
 それを聞いた飛煌フェイファンはじろりと呉央ウーヤンを睨んだ。
「お前、勝手に道をそれただろ」
「はい。でも飛煌フェイファン様は王子さえ守れば好きにしていいって言ったでしょ」
「確かにそうだけど、これはやりすぎだろ」

 まさか呉央ウーヤンが使節団と騎士団を全滅させるとは思わなかった。もちろん呉央ウーヤンが直接手を下したわけではないが、街道をそれて樹海に踏み込めば妖魔に襲われることはわかっていたはずだ。
「俺はそうは思いません。でもまあ、さすがに俺も全滅させる気はなかったんですけど。まだ満月まで十日もありましたし、妖魔は少ない時期だから大丈夫だと思ったんですよ」
 満月前後の十日間ほどが妖魔の活動が活発な時期だが、それ以外の時期にはそこまで多く出て来ない。


 呉央ウーヤンとしてはすこし怖い思いをさせて、気勢を削いでおこうというつもりだったらしい。しかし呉央ウーヤンは妖魔と初めて遭遇する彼らの恐慌ぶりを見誤ったのだ。
 不慣れな樹海の中で、宰相補佐を長とした使節団は半ば恐慌状態になり、そこへ運悪く凶悪な妖魔が出現した。ペルルノアと魔術騎士が使節団をなだめてどうにかその場を収めたが、結局翌日には使節団と騎士数名が妖魔の餌食になった。
 騎士たちは剣で斬れない怪物を目の前にして動揺し、ろくに反撃できなかったのだ。

「妖魔を初めて見たらそうなるだろ。おれたちはその辺りの感覚が麻痺してるんだ。今後は考慮しろ」
「はい。だけど使節団は自分たちが大国出身だからって香種が治める国なんてすぐに征服してやれるってぼろくそに言ってたんですよ。許せません」
「そんなことを?」
「ええ。宰相補佐って嫌な奴がね。ちなみに王子は止めてました。友好関係を築くための使節団なのに失礼なことを言うなって」
 もっともペルルノアがどうあれ、本国にいるブラッシア二世がどう考えているかはわからない。塔麗国を征服するのは物理的に無理だが、どんな狙いで王子を派遣したのか。

 ペルルノアは薬や毒の話題に反応していたからそれが目的なんだろう。ブラッシア二世は戦闘好きな王で、ソブラリア国境は常に小競り合いが起きていると聞いている。暗殺用の毒でも欲しいのか?
「でもお前をハベナリアに派遣したのはおれだ。おれの指示だったって知ったら、ノアはやっぱり怒るよな」
「怒るでしょうね。全滅は俺も予想外だったんですが、そこはすみません」
 いくらかしおらしい顔になって呉央ウーヤンが謝罪したが、飛煌フェイファンは胡散臭そうに彼を見た。
「お前さほど悪いと思ってないだろ」
「あんな奴らを王宮に入れるくらいなら殺してよかったと思ってるのは否定しません」

「まあいい。知られたらその時だな。王宮に来れば、そのうち呉央ウーヤンと遭遇するだろうし」
 そうさせないために呉央ウーヤンを遠ざけておく手もあるが、どうするか。
「俺はてっきり王子も情報を取ったら殺すんだと思ってたんですが? 王宮に呼ぶんですか?」
 飛煌はあぐらを組んで、月を見上げた。満月まであと数日。
「……殺すには惜しいんだよな。ノアって人がいいというか、話してると面白いんだ」
 呉央ウーヤンの手前、そう強がったが、正直に言うならかなり気に入っている。貴種だから本能的に惹かれるのは当然だが、ペルルノアとの会話は楽しくてもっと彼を知りたいと思う。何か隠しているのはわかっているがそれを暴いてみたいとも思う。

「またそんなことを。このまま遊んでいると翠耀ツイヤオ様が様子を見に来ますよ」
「え、それは困る。足止めしといて」
「なんで困るんですか」
「絶対、翠耀ツイヤオも好みだと思う。ノアって女子のほうが好きだよな?」
「知りませんよ。貴種にとって香種に男女の意味なんてありますか?」
 香種は男子でも女子でもなく香種として扱われる。
「そうだよな」
 同じ顔の姉と並べば、ペルルノアは女子が好きかもしれないなんて一瞬でも思った自分は馬鹿だ。自分が指名すればいい。絶対に夢中にさせてやる。
「発香期に誘う気ですか?」
「そうだな」
 呉央は片眉を上げて飛煌を見たが、何も言わずに肩をすくめた。香種がこうと決めたら、貴種の呉央には何を言う権利もないからだ。

 飛煌フェイファンはペルルノアの鍛えられた体を思い浮かべた。泉で体を拭いているときに見かけたが、思いがけずきちんと筋肉のついた体をしていた。
 あの体に抱かれるのはどんな感じか想像すると、とても楽しい気持ちになった。
 ソブラリアでは香種が少なく、滅多に出会えないと言っていた。もしかしてペルルノアは未経験だろうか。希少な 香種は有力貴族の貴種と婚約するらしいし、それもあり得る。
 おれが誘ったらどんな顔をするだろう? 

「異国人の貴種って塔麗人と何か違ったりするのかな」
「俺に訊かないでください」
 何気ないつぶやきに冷ややかな返答が聞こえて、飛煌フェイファンはハッとして幼なじみの側近の顔を見上げた。
「すみません、やっぱりいい気分はしないので」
「だよな、悪い」
 呉央ウーヤンの気持ちを知らないわけじゃない。気配りが足りなかったと反省する。

「そう言えば、あの斬魔剣の遺族はわかったか?」
 話を変えると打てば響くように返事があった。
「ええ。骨はすでに遺族の元に届けました。剣は後ほど届けると言ってあります」
「ああ、ありがとう。王宮に着いたらすぐに届けてやらないとな」
 飛煌は岩場から下りると、指笛で飛飛フェイフェイを呼んだ。
「くれぐれも気をつけてくださいよ。人が良さそうに見えてもあの大国の王子です。何を思っているかなんてわかりませんから」
「わかってる。何かあれば青鳥で知らせてくれ」 
 駁に乗った飛煌フェイファンは片手を振り、真夜中の樹海を駆け抜けて行った。
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