金の香種と黒の貴種 異世界中華オメガバース

ゆまは なお

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飛煌の誘い1

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 次の日もペルルノアは樹海の見回りにつき合った。飛煌は森や草原を歩きながら危険な妖魔の対処法や食べていい木の実や果実なども教えてくれる。
 それを聞いていると樹海は危険ではあるが、状況を把握していればそれなりに安全に移動できるとわかってきた。
 鹿のような青い妖魔が出てきた時にはペルルノアも斬魔剣を振るって戦ったが、飛煌一人でも倒せただろう。
 飛煌の小柄な体でああも軽々と剣を扱えるのはどういうからくりなんだ? 使い手を選ぶ特注品だと聞いても不思議で仕方ない。

 ソブラリアではオメガは体力も知力も劣ると言われていたが、飛煌《フェイファン》はまったく違う。香種上位の国で育つとこうなのか? それとも巫術師が優秀なのか?
 倒した妖魔の弱点や性格を聞きながら、飛煌の声は耳に心地いいと思う。
「飛煌はいつも一人で回ってるのか?」
「いや、普段は組んでる奴がいるんだ」
 魔の樹海に入る時は二人以上で行くのが巫術師の鉄則だという。だから自分を連れ歩いているのかと納得した。
 何となくピンときて「相手はアルファ?」と訊ねた。
「ああ。貴種の護衛でめちゃくちゃ強い。でも今は用事で離れてる」
 それを聞いた途端、ペルルノアは胸がモヤモヤした。慣れない物を食べて飲み下せない時みたいに胸がつかえる。

 いつも組んでいるアルファがいるのか。こんなふうに毎日一緒に樹海を見回りしたり、食事を食べたりしてる相手がいるのか。
「そいつは飛煌《フェイファン》の番《つがい》なのか?」
 モヤモヤを抑えきれなくて訊いたら、飛煌はきょとんとした。
「つがいって何だ?」
「ここでは違う言い方をするのか? 発情期にアルファがオメガのうなじを噛むと番関係になる。番ができればフェロモンが抑えられて、ほかのアルファを誘わなくなるだろう?」
「ああ。そういう関係をおれたちは伴侶って言うけど、、彼は伴侶じゃない」
 それを聞いてペルルノアはほっとした。
 ……なんだ、ほっとしたって。飛煌《フェイファン》が番持ちだろうが、そうじゃなかろうがどうでもいいのに。

「そうか。伴侶というのか」
 だがそれなら自分にもチャンスはあるのか? そう思ってハッとする。何を考えているんだか。
 ペルルノアにはやるべきことがある。目標は彼じゃない。飛煌《フェイファン》が香種だからって彼と番うなんてことは考えないほうがいい。
 第一、ここは香種上位の国だ。「香種の許可がなければ寝台に上がってはいけない」と飛煌《フェイファン》は言っていた。
 発情したオメガを前にしてアルファが理性を保つのは難しい。色々なことがソブラリアと違うので不安になるが、発情期のことはやはり訊ねにくい。
 もしこの国のオメガが抑制薬を飲まないなら物理的に離れているしかない。時期が来れば、アルファの自分は隔離されるだろう。

「フェイファンは女王を見たことあるのか?」
 木がまばらに生えた林の中を歩きながら、ペルルノアが問いかけた。
 ソブラリアでは王都に住んでいても、庶民が国王の顔を見る機会はほぼない。国の式典や出陣の時、凱旋した時などに運がよければ沿道で見えるかもしれない。その代わり肖像画はどこにでもある。
「あるよ」
 気軽に答えるあたり、巫術師はやはり貴族以上の階級らしい。
「どんな方?」
「顔はきれいだ」
 香種の女性なら容姿が美しいのは当然だ。

「ほかには何か知ってるか? 年は?」
「年は二十五」
「二十五? ずいぶん若い女王だな」
 ペルルノアは「他には?」と続けた。
「んー、腕がいい巫術師だよ」
「は? 巫術師?」
「そうだよ。塔麗国の国王は代々、巫術師だ」
「へえ、巫術師の国王なのか。じゃあ飛煌みたいに強いのか?」
 まさかと思いながら訊ねたらあっさりうなずいた。
「うん、女王はめちゃめちゃ強いよ」
 ペルルノアは驚いて足を止めた。
 陽射しが木の隙間から差し込んで、飛煌の金の髪を照らしている。

「女王は戦闘の場に出るのか?」
「もちろん出る。国王だから」
 当然だろうという態度で返事があり、ペルルノアは自分の思い違いを知った。オメガの女王を侮ったつもりはないが、ソブラリアの感覚で美しくか弱いオメガの想像をしていたことを自覚した。
「そうか。国王か」
 やはり想像とはまったく異なる国だと、ペルルノアは気を引き締めた。

 夕食用の狩りを終えて、ウサギを片手に戻ってきたペルルノアは、丸太の横に妖魔が座っているのを見て息を飲んだ。
 見た目は馬に似ているが体が白く尾は黒い。頭には一本角があり、虎のような牙と爪を持っていて、襲われたらひとたまりもないだろう。
 緊張で鼓動が速くなる。
 結界の中に妖魔は入れないと聞いていたが、なぜ?
 とっさ斬魔剣を抜いて、いつでも斬れる態勢になる。
 しかし、妖魔はペルルノアが剣を構えたのを見ても座ったまま、襲うような気配は見せない。ただグルルルルと威嚇するように低く唸っているだけだ。

 理知的な目を見たペルルノアはそのまま後ずさり、泉で洗濯している飛煌を呼んだ。
「フェイファン」
 洗濯していたはずの飛煌は、ついでに体を拭いていたらしく上半身裸だった。
 ペルルノアがあわてて視線をそらした。ほんの一瞬なのに、きれいに筋肉のついた肩や胸が目に入って、鼓動がさらに跳ね上がった。
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