金の香種と黒の貴種 異世界中華オメガバース

ゆまは なお

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飛煌の誘い3

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 風に揺れる焚火を反射して飛煌の緑の目がゆらりと煌く。誰かに似ていると思って、母だと思い当たった。そうか、飛煌に親しみを感じていたのは緑の目が母に似ているからか。
「何考えてる?」
 クルミを割っていた飛煌がかるく首をかしげた。
「何って?」
「ノアが笑ってるから」
「俺が? 笑っていたか?」
「ああ。何を思い出していた?」
 飛煌に問われて「母を思い出してた」と素直に答えた。

「お母さん? どうして?」
「母も緑の目をしていた。髪は飛煌よりも茶が多い金茶色だったが」
「そうなんだ。亡くなったのか?」
「そう、十年前に」
「どんな人だった?」
「明るくて楽しい人だったよ」
 母を思い出すと思わずほほ笑んでしまう。
「騎馬がじょうずで狩りがうまかった」
「へえ、さすが武の国ソブラリアに嫁ぐだけあるな」
「ああ、オメガのわりに元気だったな」
「ソブラリアにも活動的な香種がいるのか」
「母は馬の産地として有名な小国出身だったから」

 十歳の時に亡くなった母はとても大らかな人だった。金茶の髪に緑の目をしていて、かわいらしく整った顔にいつもいたずらっぽい笑顔を浮かべていた。
 祖国ディサを救うために輿入れしたのに約束は反故にされ、ディサは征服された。いわば敵国に囚われたも同然だったのに、恨みがましい言葉をひと言も言わなかった。
 その経緯から後見人も領地も持たない母は側妃の支給金以外の収入がなく、宮を維持する人員も必要最低限しかいなかった。つまりソブラリア王宮ではほかに例がないほど貧しかったが、雨露をしのげる宮と食事があれば十分だと笑って暮らしていた。

 幼い時には知らなかったそれらの事情がわかってくるにつれ、母は明るくのん気でたくましいと思うようになった。恨みや怒りを見せずに現状を楽しむ姿はペルルノアに楽観的な性質を与えた。
 貧乏王子と陰口を叩かれても生活を楽しんでいられたのは母のおかげだ。料理や繕い物ができる王子は自分だけだと自負しているくらいだ。
 だけど母はずっと隠し事をしていた。別れ際の乳母の告白を思い出して、ペルルノアはぎゅっと手を握りこんだ。

「それでノアは貴種っぽくないのか」
 飛煌の声に顔を向けると、納得したようにペルルノアをじっと見ていた。見つめられて、鼓動が速くなる。それをごまかすように肩をすくめた。
「そもそも俺はアルファと思われてなかったし、そんな行動も求められてなかったからな」
 王宮の片隅に住んでいる貧乏王子だったから、誰もペルルノアをアルファだなんて予想していなかったのだ。
「俺の従弟が侯爵家のアルファなんだが、もうこれ以上はないくらいアルファらしい男で、容姿端麗、頭脳明晰で騎士としても完璧なんだ。あれは侯爵家の教育の賜物だと思う」
「なるほどな。貴種は貴種らしく育てられて完成するわけか」
「アルファでもオメガでも環境が大きく影響すると思うよ」
 塔麗人の香種がまったくオメガらしくないように。ペルルノアが言わなかった言葉をわかったみたいに飛煌はにやりとした。

 立ち上がった飛煌が洞窟から酒瓶を持って来た。自分で作った果実酒だという。果実のはちみつ漬けや乳酪(チーズ)なども。洞窟の奥の貯蔵庫にあれこれ仕込んであるようだ。
 酒を飲んでる場合かとも思ったが、香種の飛煌が「飲もう」と誘えばペルルノアには断れない。山ブドウで作った酒はほのかにあまく、まろやかな味だった。
「うまいな」
「だろ? 去年の山ブドウは出来がよかったんだ」
 できた煮込みと保存用の焼餅で夕食にする。ちぎった焼餅をスープにひたしながら飛煌が訊ねた。

「ノアはソブラリアで塔麗人に会ったことってあるか?」
「ないな」
「一度も?」
「一度も。トウレイ国は大陸では幻の存在だし」
 話しているうちにひとつの噂を思い出した。
「ああ、そう言えば、カランセ国の貴族の館にトウレイ人のオメガがいたって噂になっていたな」
「へえ。それ、いつの話?」
「俺がソブラリアを出る少し前の話だから……、ふた月くらい前かな」

「その塔麗人には会ってないのか?」
「会ってない。ソブラリアに連れてくるまでに逃げたんだ。オメガとわかって騎士団が保護してたのにいつの間にか姿を消したって話が広まって、王にまでその噂が届いた。トウレイ人が魔術を使ったって」
 その香種は「ソブラリアの王子が塔麗国に派遣される」と青鳥で知らせてきた綿毛だ。騎士団から逃げた後、ソブラリアを放浪して報告を送ったのだ。
「それじゃ、本当に塔麗人だったのかわからないな」
「俺もそう思う」
「他に塔麗人と関わったことは?」
「ないと思う。何しろ噂だけの幻の国だからな」

 この先、塔麗国の女王に挨拶をして、さらにソブラリアに帰国できるのか全く予想できない。もし帰れなければ、魔の樹海で死んだとみなされて、やはり噂通りの伝説の国だと思われるだろう。
 山ブドウの酒を飲みながら、ペルルノアは女王ってどんな人だろうと思う。
 飛煌が言うには美しくて国いちばんの巫術師らしいが、巫術で国を治めるというのがペルルノアにはあまり理解できない。
 ソブラリアは騎士の国だ。各地の騎士団が領地を治め、領主は王に忠誠を誓っている。つまり武力で国を治めている。ブラッシア二世は戦闘に長けた歴戦の戦士だ。
 そんな国と塔麗国が国交を開いてくれるだろうか?
 強くて美しい巫術師の女王か。……飛煌の女性版みたいな? 

 魔の樹海を越えた奥は山がいくつも連なる山岳地帯になっていて、そこが塔麗国への入り口らしい。
「山頂にいくつも塔が建ってて、それが塔麗国の名前の由来だ」
 名前を教えてくれた時のように、飛煌が地面に文字を書いてくれた。
「麗しい塔の国? へえ、きれいな意味だな」
 夕刻になるとその塔に灯りがともっていくという。山岳地帯の塔の灯り。想像したらとても美しい光景のような気がした。
 ほろ酔い気分で飛煌の話を聞きながら、塔麗国を見てみたいと思う。
 オメガの女王が治める、幻の国。この樹海の奥にある王宮への道まではあと少しだ。

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