金の香種と黒の貴種 異世界中華オメガバース

ゆまは なお

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飛煌の誘い4

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 ふと飛煌の手が伸びてきて、ペルルノアの髪に触れた。
「ノア、葉っぱがついてる」
 手に取った葉を揺らした時、その手の白さに昼間の飛煌フェイファンを思い出した。
 滑らかな白い体。あんな速さで剣を繰り出すとは信じられないほど細身なのに、しっかり筋肉はついていて均整の取れた体をしていた。
 ペルルノアを誘うような魅惑的な香りがしていて、抱きしめたいという衝動を初めて感じた。きれいな顔はしていても男子だとわかっているのに。

 いや、オメガに男女の意味などない。オメガはオメガとして特別な種という扱いだ。
 だからこんなにもペルルノアを惹きつける。
 思い出したら心臓がドキドキして、一気に頬の熱が上がった。ふわりと飛煌の香りが届く。
「どうした、ノア? 顔が赤い」
「いや、平気だ」
「もしかして酔ったのか? そんなに強くない果実酒なんだが」
 顔が赤いのは酒のせいじゃない。ペルルノアが首を横に振ると、飛煌は両手でペルルノアの頬を包むようにして手のひらを当てた。
「熱いな」
 頬を軽く挟まれているだけなのに、カーっと体に熱がこもる。

「やめろ」
 思わず顔を振って手を外させようとするが、飛煌の手は緩まなかった。
「なんで? おれに触られるの、気持ちいいだろ?」
 確信犯の顔をして飛煌が笑う。くそ、なんだその悪い笑顔は。
「もうすぐ満月だ」
 飛煌は両手で頬を挟んだまま、真っ直ぐに視線を合わせてくる。
「発香期はお前と過ごす」
 その宣言にペルルノアは目を瞬かせた。どういう意味だ? 

「覚悟しとけよ」
 ささやくように告げて、唇がそっと押しつけられた。一瞬、やわらかな感触が唇にあたって、口づけられたと思う間もなく離れていった。
「……え?」
 呆然とするペルルノアを見て、飛煌は楽しそうな笑い声をあげた。
「かわいいな、ノアは」
 その発言にムッとする。さっきから、からかわれっぱなしだ。

「俺がかわいいわけ、ないだろう」
「いや、かわいいよ」
 断言されて、どんな顔をしていいかわからない。五歳も年上の飛煌から見れば、可愛げがあるんだろうか?
「ノアは大陸の貴種なのに全然すれてないな」
「どういう意味だ?」
「貴種上位の国では貴種がやりたい放題だって聞いたんだけど」
「そんなのはごく一部のアルファの話だ」
「誰かと閨を供にしたことは?」
「ないよ」
「意外だな。そんな見た目でいくらでも女性が寄ってきそうなのに」
 飛煌はからかうような表情で酒を飲んだ。

 ペルルノアは誰ともそんな関係になったことがない。王族は十代のうちに婚約するのが普通だが、後見もない貧乏王子のペルルノアに結婚の申し込みはなかった上に、アルファと判明してからはブラッシア二世がどんな上位貴族の申し入れも断っていた。
「昨日言ったように、王族の結婚は王が決める。俺の意志でどうこうできることじゃない」
「そうなんだ。王子様って不便なんだな」
 飛煌はのんびりと干し葡萄を口に入れる。

 それより、満月はいつだ?
 アルファのペルルノアはそこまで満月を意識しておらず、正確にはわからない。夜空に浮かぶ月は、あと数日で満月になるように見える。
 ソブラリアではその時期のオメガは人前には絶対に出てこない。番がいればその相手と過ごすし、いなければ抑制薬を飲んで部屋に閉じこもる。
 というか、あれは「香種が招いた」ってことだよな? 
 想像すると頭がくらくらした。

 普通の男女の経験もないのに、いきなり異国人のオメガと? しかも何だか身分が高そうな相手だ。
 閨の作法などどの国でも大差ないかもしれないが、何しろこれまで聞いた塔麗国の常識がペルルノアの常識とはかけ離れていることが多々あるので不安は拭えない。……大丈夫か、俺。
 とはいえ、断るという選択肢はないし、誘われて喜んでいるのも事実だ。
 対策を考えかけたが、すぐに放棄した。オメガのフェロモンはアルファの理性を破壊するとソブラリアでは言われている。そんな状況になるなら、何を考えたところで無駄だろう。

 それに香種に優先権があるここでは飛煌に従うしかない。
 飛煌は上機嫌に酒杯を傾けて、干し肉やチーズをつまんでいる。
 その夜、ペルルノアは寝台に入る前にお守り袋を握って祈りを捧げた。さほど熱心に神殿に通っていなかったソブラリアの神に祈りが届くかわからないが、この状況で神頼みくらいしかできることがなかった。
 どうか無事に塔麗国へ着けますように。できれば友好的な関係を築けますように。そして何より、無事に飛煌との発香期が終わりますようにと。


 翌日、隠れ家の片づけをしてから飛煌とともに出発した。
 益獣に乗るのは初めてで緊張したが、意外にも乗り心地はよかった。
「相乗りするといつもおれが前なんだよな」
 飛煌は不満そうに背後のペルルノアを見上げる。この順番が気に入らないらしいが、背の高さからいってペルルノアが前に座るのは無理だ。
「誰か相乗りする相手がいるのか? 前に話していたアルファの相方か?」
「まあな。香種は小柄だから仕方ないけど」
 相乗りのことはムッとするが、唇を尖らせる飛煌はかわいかった。

 昨日は手が触れた時に痺れたような衝撃が走ったので恐る恐る相乗りしたが、手綱を持った手が触れても何も起こらなかった。
 そして密着するとどうにも気持ちがそわそわした。飛煌からはいつもよりあまくていい香りがするし、洗濯に使った石鹸の香りも心地いい。
 そう言えば、この香りも不思議だ。フェロモンは発情期にしか感じないはず。だったらこれは香水の類か? 
 ソブラリアでは女性たちの香水の香りは苦手だったのに。飛煌がオメガだからか?
 飛煌のことが気になって仕方ない。こんなにも気になる存在は初めてで、ペルルノアは自分に戸惑っている。飛煌を見ていると、抱きしめたいとか守りたいとか、これまで感じたことのない感情が出てきて困惑するのだ。
 落ち着け。フェロモンのせいだ。冷静になれ。
 念じながら駮の背に揺られた。
 益獣は馬よりかなり速い。飛飛は気持ちよさそうに森や草原を駆け抜け、小さな滝に着いた。

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