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花祭り2
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食事をたっぷり食べて、トウ爺とレン婆に挨拶して館を出た。
ここから王宮までは二日で着く。人通りが増えるという理由から、益獣ではなく馬が用意されていた。
馬での移動は楽だった。街道には馬車も走り、人も歩いている。商人風の者も農村の者もいる。
馬に揺られながら考えるのは飛煌のことだ。
発香期が終わって香気が消えても、あまい香りは消えない。発香期を過ごしたから香気との違いは明らかだ。香でも香水でもなく、飛煌自身から香るものだ。
ソブラリアにはそういう相手の伝説がある。常時、相手の香気がわかる特別な相手。
異国人が「運命の番」ってことがあるのか。
ペルルノアは機嫌よさそうに並走している飛煌の横顔を盗み見た。小柄な体に紺の短袍を身につけて金の髪を結い上げた姿は、うっとりするくらい綺麗だった。
「どうした、おれの顔に何かついてるか?」
視線に気づいた飛煌が首をかしげる。
「いや。横顔も綺麗だから見とれてた」
正直に言ったら、眉を寄せて「だからお前はそんなことをそういう顔で言うな」と怒られた。顔が赤くなっている。
「そんな顔って?」
「お前の顔、すごく好みなんだよ」
嫌そうに顔をしかめて飛煌はため息交じりにこぼした。
「え?」
聞き間違いかとペルルノアは目を瞬いた。顔が好みって言ったか?
「だからノアから綺麗とかかわいいとか言われると、何ていうか、すごく照れる」
「そうだったのか」
知らなかった。もしかして、だから閨に誘ってもらえたのか?
「だから、そういうことを気軽に言うな」
わかったなと念を押す飛煌に向かって、ペルルノアはにこりと笑った。
「うん、じゃあこれからもどんどん言うことにする」
「なんでそうなるんだ?」
「照れる飛煌がかわいいから」
飛煌はあっけに取られた顔をして、それから「バカか、お前は」と怒鳴った。
そんな態度もとてもかわいい。これまで会った香種が貴族の差し金で打算的だったから避けていたが、飛煌は全然違う。
貴種が香種を囲い込む気持ちが理解できた。番なら絶対人前に出さないのもうなずける。
それにしても、あれほどの屋敷を隠れ家にできるって、飛煌はどんな立場なんだ? ソブラリアでは力のある魔術師は王に提言できる特別な立場を得ていたから、そんな感じかもしれない。
そうだとしたら、彼らは敵なのか? それとも味方か?
後ろからついてくる気配にペルルノアは感覚を研ぎ澄ませた。
微弱な魔力を持つペルルノアは貴種の気配に敏い。ソブラリアにいた頃からそうだった。だから屋敷を出てすぐに後ろを着いてくる貴種の存在に気づいた。
一定の距離を開けて貴種が追ってきている。もしあれが敵なら飛煌を守らなければ。
昼過ぎには集落に着いた。先日の茶屋と同じように四方を壁に囲まれた町だが、王都に近いせいかもっと規模が大きい。役人らしい男が出入りする者をチェックしているのでペルルノアは一瞬、どうしたらいいかと迷った。
「大丈夫だ、ノア。おれの助手ってことにするから」
「それで通れるのか?」
「問題ない」
その言葉通り、飛煌が通行証のようなものを見せて、ペルルノアを指してひと言ふた言、何か言い、特に引き留められることもなく門を通れた。
城門をくぐって町に入ると、通りにはずいぶんと人が多かった。大通りには露店が並び、呼び込みの声が賑やかに響いている。太鼓や鉦の音も聞こえてくる。
「今日は何かあるのか? それともいつもこんな感じか?」
「いや、普段はここまで賑やかってことはないはずだが……」
周囲を見回した飛煌は人々の様子を見て、ああという顔をした。
「今日は花祭りらしいな」
「花祭り?」
「春の訪れを祝う祭りだ。白木蓮の花が咲いたら春が来たってことで祭りをするんだ」
今年は少し寒くて、開花が遅れていたらしい。ちょうど昨日、開花して祭りの日に当たったのだ。
「だからみんな花飾りをつけてるのか」
通りを歩く人たちは男性も女性も頭や胸元に木蓮を模した簪や花飾りをつけている。
「ひとまず宿を取ろう」
「ああ。飛煌に任せるよ」
飛煌が宿を取る間、ペルルノアはそっと外の気配を探った。貴種はべつの宿に入ったのか、気配が消えている。追っていると思ったのは気のせいか?
二階の部屋に落ち着いてペルルノアはざっと部屋を眺めた。ベッドが二つ、低いテーブルと椅子、物を置く棚がついた部屋だ。贅沢でも質素でもない感じだと思う。
窓を開けて外を確かめる。大丈夫、いざという時には飛び降りても平気な高さだ。
「宿ってみんなこんな感じか?」
振り向いて訊ねると、飛煌が答えた。
「いや、町には大体三種類の宿がある。徒歩や乗合馬車の客が泊るものと、馬や馬車の者が泊るもの、それと益獣連れが泊る宿。ここは中の下ってところだな」
「つまり、厩舎の有無で宿の良さが決まるってことか?」
「そうだ。厩舎が立派だと宿も立派だ。どうした、この宿は気に入らなかったか?」
「まさか。どんな宿でも有難いよ」
樹海の夜営でも平気なのだ。屋根があって寝具があるだけで十分だ。そもそもペルルノアは金を払っていない。
ここから王宮までは二日で着く。人通りが増えるという理由から、益獣ではなく馬が用意されていた。
馬での移動は楽だった。街道には馬車も走り、人も歩いている。商人風の者も農村の者もいる。
馬に揺られながら考えるのは飛煌のことだ。
発香期が終わって香気が消えても、あまい香りは消えない。発香期を過ごしたから香気との違いは明らかだ。香でも香水でもなく、飛煌自身から香るものだ。
ソブラリアにはそういう相手の伝説がある。常時、相手の香気がわかる特別な相手。
異国人が「運命の番」ってことがあるのか。
ペルルノアは機嫌よさそうに並走している飛煌の横顔を盗み見た。小柄な体に紺の短袍を身につけて金の髪を結い上げた姿は、うっとりするくらい綺麗だった。
「どうした、おれの顔に何かついてるか?」
視線に気づいた飛煌が首をかしげる。
「いや。横顔も綺麗だから見とれてた」
正直に言ったら、眉を寄せて「だからお前はそんなことをそういう顔で言うな」と怒られた。顔が赤くなっている。
「そんな顔って?」
「お前の顔、すごく好みなんだよ」
嫌そうに顔をしかめて飛煌はため息交じりにこぼした。
「え?」
聞き間違いかとペルルノアは目を瞬いた。顔が好みって言ったか?
「だからノアから綺麗とかかわいいとか言われると、何ていうか、すごく照れる」
「そうだったのか」
知らなかった。もしかして、だから閨に誘ってもらえたのか?
「だから、そういうことを気軽に言うな」
わかったなと念を押す飛煌に向かって、ペルルノアはにこりと笑った。
「うん、じゃあこれからもどんどん言うことにする」
「なんでそうなるんだ?」
「照れる飛煌がかわいいから」
飛煌はあっけに取られた顔をして、それから「バカか、お前は」と怒鳴った。
そんな態度もとてもかわいい。これまで会った香種が貴族の差し金で打算的だったから避けていたが、飛煌は全然違う。
貴種が香種を囲い込む気持ちが理解できた。番なら絶対人前に出さないのもうなずける。
それにしても、あれほどの屋敷を隠れ家にできるって、飛煌はどんな立場なんだ? ソブラリアでは力のある魔術師は王に提言できる特別な立場を得ていたから、そんな感じかもしれない。
そうだとしたら、彼らは敵なのか? それとも味方か?
後ろからついてくる気配にペルルノアは感覚を研ぎ澄ませた。
微弱な魔力を持つペルルノアは貴種の気配に敏い。ソブラリアにいた頃からそうだった。だから屋敷を出てすぐに後ろを着いてくる貴種の存在に気づいた。
一定の距離を開けて貴種が追ってきている。もしあれが敵なら飛煌を守らなければ。
昼過ぎには集落に着いた。先日の茶屋と同じように四方を壁に囲まれた町だが、王都に近いせいかもっと規模が大きい。役人らしい男が出入りする者をチェックしているのでペルルノアは一瞬、どうしたらいいかと迷った。
「大丈夫だ、ノア。おれの助手ってことにするから」
「それで通れるのか?」
「問題ない」
その言葉通り、飛煌が通行証のようなものを見せて、ペルルノアを指してひと言ふた言、何か言い、特に引き留められることもなく門を通れた。
城門をくぐって町に入ると、通りにはずいぶんと人が多かった。大通りには露店が並び、呼び込みの声が賑やかに響いている。太鼓や鉦の音も聞こえてくる。
「今日は何かあるのか? それともいつもこんな感じか?」
「いや、普段はここまで賑やかってことはないはずだが……」
周囲を見回した飛煌は人々の様子を見て、ああという顔をした。
「今日は花祭りらしいな」
「花祭り?」
「春の訪れを祝う祭りだ。白木蓮の花が咲いたら春が来たってことで祭りをするんだ」
今年は少し寒くて、開花が遅れていたらしい。ちょうど昨日、開花して祭りの日に当たったのだ。
「だからみんな花飾りをつけてるのか」
通りを歩く人たちは男性も女性も頭や胸元に木蓮を模した簪や花飾りをつけている。
「ひとまず宿を取ろう」
「ああ。飛煌に任せるよ」
飛煌が宿を取る間、ペルルノアはそっと外の気配を探った。貴種はべつの宿に入ったのか、気配が消えている。追っていると思ったのは気のせいか?
二階の部屋に落ち着いてペルルノアはざっと部屋を眺めた。ベッドが二つ、低いテーブルと椅子、物を置く棚がついた部屋だ。贅沢でも質素でもない感じだと思う。
窓を開けて外を確かめる。大丈夫、いざという時には飛び降りても平気な高さだ。
「宿ってみんなこんな感じか?」
振り向いて訊ねると、飛煌が答えた。
「いや、町には大体三種類の宿がある。徒歩や乗合馬車の客が泊るものと、馬や馬車の者が泊るもの、それと益獣連れが泊る宿。ここは中の下ってところだな」
「つまり、厩舎の有無で宿の良さが決まるってことか?」
「そうだ。厩舎が立派だと宿も立派だ。どうした、この宿は気に入らなかったか?」
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