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花祭り3
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外に出ると、ずいぶんと人通りが増えている。通りをそぞろ歩いて、並んでいる屋台を眺めた。並んでいる食べ物はよくわからないが、楽しそうな祭りの雰囲気はソブラリアと変わらない。
おもちゃや菓子を売る屋台には子供たちが集まっている。子供たちのそばに父親がついていて、おねだりしてる光景は微笑ましかった。
それにしてもさっきからちらちらと探るような視線を周囲の人々から感じる。塔麗国の衣裳を着ていてもやはり異国人とわかるんだろうかと、ペルルノアは自分の姿を確かめた。
「どうしたんだ?」
「いや、なぜかじろじろ見られている気がして。特におかしなところはないつもりだが、やはり異国人とわかるのか?」
「ああ、いや。それはノアが」
飛煌が何か言いかけた時、
「そちらの若君たち、花飾りはどうですか?」
飾り売りの屋台から男の声がかかった。中年の店番がにこにこと二人を手招いている。
「若君たちは赤い花飾りですか? それとも白ですか?」
「そうだな、着けておくか」
屋台に近づいた飛煌は並んだ花飾りをざっと見て、二つ選んだ。
「え、俺はいらないぞ、花飾りは」
ペルルノアが小声で断るが、飛煌は構うことなく小銭を払った。
「こういう行事は参加するものだ。それに花をつけてないと何度も売り込まれる。ちょっとしゃがめ」
ペルルノアは仕方ないなと腰をかがめた。飛煌はペルルノアの胸元に花飾りを差した。
「飛煌、これ女性用じゃないのか?」
胸元に咲いた赤い花飾りを見て、ペルルノアが首をかしげる。男性は白い花飾りを差している者が多かった。
「これは相手がいるかどうかで色が変わるんだ。お前は赤だ。白い花飾りなんかつけていたら、あちこちから声を掛けられるぞ」
つまり恋人募集の意味があるのだ。白は募集中ということだという。
ふと、またあの貴種の気配を感じた。監視は外れていないらしい。さりげなく振り向こうとしたら、どん、と足に何かがぶつかってペルルノアは目線を下に向けた。
四歳くらいの子供が地面にしりもちをついていて、ペルルノアを見上げて「うわあん」と泣き出した。
「どうした、痛かったのか?」
ペルルノアは急いでしゃがむと子供を抱き起こした。
「怪我は? 手を擦りむいたのか?」
後ろについていた手のひらを確かめると赤くなっている。
子供はペルルノアのソブラリア語が理解できずに、きょとんとした顔で目をぱちぱちさせている。驚いたせいか涙も止まったらしい。
「あ、ごめんな。言葉がわからないよな。ええと、お母さんとお父さんは? はぐれたのかな?」
言葉が通じないとわかってもペルルノアは話しかけるのをやめずに子供を抱き上げた。
「見える? どこかにいるかい?」
背の高いペルルノアに抱き上げられた子供は「とうちゃーん!」と叫んだ。その声に父親が小走りに寄ってくる。
「ありがとうございます、助かりました」
互いに手を伸ばす親子ににこりと笑って、ペルルノアは子供を父親に渡した。
ほっとして振り向くと、様子を眺めていた飛煌がひらひらと手を振っている。
「背が高くてよかったな」
飛煌が言うと「そうだな」と二人で親子を見送った。
換金商で用事を済ませてから、茶屋に入った。それにしても父と子の姿が多い。塔麗国の父親は子供の世話をよく見るらしい。
「ノア、こっちだ」
茶の産地だと言った通り、通りには茶屋が多かった。木陰の席でのんびり将棋を指しながら茶を飲んでいる客や煙草をふかしている客もいる。
多くの茶葉がありすぎて、ペルルノアにはよくわからなった。飛煌が注文を決めて、ペルルノアは飛煌お勧めの「金環花茶」という茶を飲んだ。
「すごく香りがいいな。ジャスミン茶か」
「ああ。はちみつを入れてもうまい」
小さな壺に入っているのははちみつらしい。
どんな町にもこうした茶屋があって、塔麗国の民は毎日のように茶を飲むという。
「これはよもぎ?」
「ああ。よもぎは体を するから春になるとよもぎ団子を作るんだ」
「そうか。母がよもぎ入りの蒸しパンを作ってくれたのを思い出すよ。草花が好きだったんだ」
「ソブラリアにもよもぎがあるのか」
「でも雑草扱いで普通は食べない。母は裏山で摘んできて蒸しパンを作っておやつによく食べた。春の味って感じだ」
おやつのよもぎ団子を食べて落ち着いたところで、飛煌に茶屋代や宿代を支払おうとすると首を横に振った。
「べつにいらない」
「それはよくない。世話になってばかりなのに」
受け取ろうとしない飛煌に無理やり銀銭を受け取らせると、不機嫌な顔で握った拳を突き返された。
「覚えておけ、ノア。この国では基本的に年長者が払う。あるいは誘った者だ。茶屋も宿もおれが決めた。だからおれが払うものだ」
きっぱり言い切られて、これ以上は怒らせると理解した。しかし困った。
「じゃあ俺は飛煌にどんな礼をすればいいんだ?」
眉を下げてうかがうと、飛煌は平然と答えた。
「ありがとう、飛にいちゃんって笑えばいい」
ペルルノアはじっと飛煌を見つめた。本気だろうか。
「ほら、言ってみろよ」
にやにや笑ってそそのかす口ぶりに諦めた。言わせるまで引かないだろう。
「ありがとう、飛にいちゃん」
「笑顔が足りない」
「ありがとう、飛にいちゃん」
「もっと心をこめて」
「ありがとう、飛にいちゃん」
言われた通り、心を込めて思い切り笑顔で言ったのに、なぜか飛煌が黙りこんだ。口元を押さえて耳まで赤くなっている。
「照れるくらいなら言わせるなよっ」
こっちが恥ずかしくなるとペルルノアが文句を垂れた。
「いや、ちょっと予想以上に刺さったんだよ」
胸に手を当てた飛煌がわけのわからないことをもごもご言う。
照れる飛煌がかわいかったので、ペルルノアは「まあでも、ほんとに感謝してる」と本心を告げた。飛煌はそっぽを向いたまま茶を飲んだ。
おもちゃや菓子を売る屋台には子供たちが集まっている。子供たちのそばに父親がついていて、おねだりしてる光景は微笑ましかった。
それにしてもさっきからちらちらと探るような視線を周囲の人々から感じる。塔麗国の衣裳を着ていてもやはり異国人とわかるんだろうかと、ペルルノアは自分の姿を確かめた。
「どうしたんだ?」
「いや、なぜかじろじろ見られている気がして。特におかしなところはないつもりだが、やはり異国人とわかるのか?」
「ああ、いや。それはノアが」
飛煌が何か言いかけた時、
「そちらの若君たち、花飾りはどうですか?」
飾り売りの屋台から男の声がかかった。中年の店番がにこにこと二人を手招いている。
「若君たちは赤い花飾りですか? それとも白ですか?」
「そうだな、着けておくか」
屋台に近づいた飛煌は並んだ花飾りをざっと見て、二つ選んだ。
「え、俺はいらないぞ、花飾りは」
ペルルノアが小声で断るが、飛煌は構うことなく小銭を払った。
「こういう行事は参加するものだ。それに花をつけてないと何度も売り込まれる。ちょっとしゃがめ」
ペルルノアは仕方ないなと腰をかがめた。飛煌はペルルノアの胸元に花飾りを差した。
「飛煌、これ女性用じゃないのか?」
胸元に咲いた赤い花飾りを見て、ペルルノアが首をかしげる。男性は白い花飾りを差している者が多かった。
「これは相手がいるかどうかで色が変わるんだ。お前は赤だ。白い花飾りなんかつけていたら、あちこちから声を掛けられるぞ」
つまり恋人募集の意味があるのだ。白は募集中ということだという。
ふと、またあの貴種の気配を感じた。監視は外れていないらしい。さりげなく振り向こうとしたら、どん、と足に何かがぶつかってペルルノアは目線を下に向けた。
四歳くらいの子供が地面にしりもちをついていて、ペルルノアを見上げて「うわあん」と泣き出した。
「どうした、痛かったのか?」
ペルルノアは急いでしゃがむと子供を抱き起こした。
「怪我は? 手を擦りむいたのか?」
後ろについていた手のひらを確かめると赤くなっている。
子供はペルルノアのソブラリア語が理解できずに、きょとんとした顔で目をぱちぱちさせている。驚いたせいか涙も止まったらしい。
「あ、ごめんな。言葉がわからないよな。ええと、お母さんとお父さんは? はぐれたのかな?」
言葉が通じないとわかってもペルルノアは話しかけるのをやめずに子供を抱き上げた。
「見える? どこかにいるかい?」
背の高いペルルノアに抱き上げられた子供は「とうちゃーん!」と叫んだ。その声に父親が小走りに寄ってくる。
「ありがとうございます、助かりました」
互いに手を伸ばす親子ににこりと笑って、ペルルノアは子供を父親に渡した。
ほっとして振り向くと、様子を眺めていた飛煌がひらひらと手を振っている。
「背が高くてよかったな」
飛煌が言うと「そうだな」と二人で親子を見送った。
換金商で用事を済ませてから、茶屋に入った。それにしても父と子の姿が多い。塔麗国の父親は子供の世話をよく見るらしい。
「ノア、こっちだ」
茶の産地だと言った通り、通りには茶屋が多かった。木陰の席でのんびり将棋を指しながら茶を飲んでいる客や煙草をふかしている客もいる。
多くの茶葉がありすぎて、ペルルノアにはよくわからなった。飛煌が注文を決めて、ペルルノアは飛煌お勧めの「金環花茶」という茶を飲んだ。
「すごく香りがいいな。ジャスミン茶か」
「ああ。はちみつを入れてもうまい」
小さな壺に入っているのははちみつらしい。
どんな町にもこうした茶屋があって、塔麗国の民は毎日のように茶を飲むという。
「これはよもぎ?」
「ああ。よもぎは体を するから春になるとよもぎ団子を作るんだ」
「そうか。母がよもぎ入りの蒸しパンを作ってくれたのを思い出すよ。草花が好きだったんだ」
「ソブラリアにもよもぎがあるのか」
「でも雑草扱いで普通は食べない。母は裏山で摘んできて蒸しパンを作っておやつによく食べた。春の味って感じだ」
おやつのよもぎ団子を食べて落ち着いたところで、飛煌に茶屋代や宿代を支払おうとすると首を横に振った。
「べつにいらない」
「それはよくない。世話になってばかりなのに」
受け取ろうとしない飛煌に無理やり銀銭を受け取らせると、不機嫌な顔で握った拳を突き返された。
「覚えておけ、ノア。この国では基本的に年長者が払う。あるいは誘った者だ。茶屋も宿もおれが決めた。だからおれが払うものだ」
きっぱり言い切られて、これ以上は怒らせると理解した。しかし困った。
「じゃあ俺は飛煌にどんな礼をすればいいんだ?」
眉を下げてうかがうと、飛煌は平然と答えた。
「ありがとう、飛にいちゃんって笑えばいい」
ペルルノアはじっと飛煌を見つめた。本気だろうか。
「ほら、言ってみろよ」
にやにや笑ってそそのかす口ぶりに諦めた。言わせるまで引かないだろう。
「ありがとう、飛にいちゃん」
「笑顔が足りない」
「ありがとう、飛にいちゃん」
「もっと心をこめて」
「ありがとう、飛にいちゃん」
言われた通り、心を込めて思い切り笑顔で言ったのに、なぜか飛煌が黙りこんだ。口元を押さえて耳まで赤くなっている。
「照れるくらいなら言わせるなよっ」
こっちが恥ずかしくなるとペルルノアが文句を垂れた。
「いや、ちょっと予想以上に刺さったんだよ」
胸に手を当てた飛煌がわけのわからないことをもごもご言う。
照れる飛煌がかわいかったので、ペルルノアは「まあでも、ほんとに感謝してる」と本心を告げた。飛煌はそっぽを向いたまま茶を飲んだ。
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