金の香種と黒の貴種 異世界中華オメガバース

ゆまは なお

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異国の王子様1

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 ペルルノアが王宮に来て半月ほどが過ぎ、西の離れは異国の客が住んでいると王宮内の者たちにすっかり周知されて、滅多にない客人にざわついていた者たちも落ち着きを取り戻しつつある。
李誠リチョンはどう思う?」
 飛煌フェイファンは行儀悪く出窓の格子に片足を上げてもたれていた。下ろした片足を子供のようにぷらぷらと揺らしている。
 主の問いに、柔和な顔立ちの侍従は首を垂れて答えた。
「王宮内の評判は悪くありません。侍従や下働きにも態度が変わらず、勉強熱心で塔麗語を話そうとされますから」
 初めは遠巻きにされていたペルルノアは、優しげな容貌と誰にでも話しかけていく気安い態度で徐々に受け入れられてきている。
「そうね。最初は殺したほうがいいって意見も多かったのに」
 長いすに座った翠耀ツイヤオがくすりと笑う。

「異国人は余計な騒動を引き起こすと思ったけど、そうでもないわね」
 手にはペルルノアから献上された首飾りを持っている。薔薇が彫りこまれた紅玉の飾りが美しく、眺めているだけでも楽しいのだ。
「王宮の変化を嫌う者も多いですからね」
 先代の王から仕えている李誠リチョンはいつも通り、穏やかに返事をする。
 鎖国状態で何百年も続いてきた塔麗国は閉鎖的な考えを持った者も少なくない。
「しかも武の国ソブラリアから来た貴種の王子ということで警戒されていましたが、誰に対しても驕った様子がありませんから」
「それにあいつ、護衛隊の訓練に参加してるだろ。だから護衛貴種たちは親しみを感じてるみたいだな」
 ペルルノアが「体がなまってしょうがないから訓練に参加したい」と言い出したのは、彼が目覚めて五日ほど経った頃だった。瀟音シャオインの治療のおかげで肋骨の骨折がかなり良くなったこともあり、体を動かしたくなったらしい。

 翠耀ツイヤオはあっさり「構わないわ」と許可を出し、その日からペルルノアは訓練に参加した。
 全体的に小柄な塔麗人からすれば、ペルルノアは背が高いので堂々として見える。しかし護衛貴種たちは体格もよく力もあって、訓練に混ざっても違和感はなかった。
 言葉が通じなくても関係がないのもよかったのだろう。まだ左腕の骨折は完治していないが、できる範囲で参加して護衛たちとは親しげに笑い合っている姿を見るようになった。
「香種たちも注目してるわ。次の発香期に誰が誘うか水面下で争ってるみたいよ」
「ノアには手出し無用だ」
「あら、そんなに王子との発香期がよかったの?」
「まあな」
 何もかも初めてだったらしいペルルノアは、とても大切なものを扱うように飛煌の体に触れてきた。それは飛煌には新鮮でドキドキした。情熱的に熱心に抱きしめられて幸せな気持ちで過ごした。
 翠耀にはまだペルルノアが伉儷こうれいとは知らせていない。

 発香期を過ごしたから、確信がないわけではない。でもペルルノアはどう思っているんだろう? ソブラリアでは運命の番という言い方をすると聞いたが、ペルルノアがどう感じているのか飛煌にはわからなかった。
 そもそもあいつ、初体験だったしな……。滅多に出会うものじゃないし、気づいてないってこともあり得るよな。
 そして伉儷こうれいだとしても、それを公表していいのか? 異国人が相手でも?
飛煌フェイファン、どうしたの? 変な顔しちゃって」
「ノアがあんまり無防備でイライラするだけ」
 翠耀ツイヤオ李誠リチョンと顔を見合わせて、くすりと笑った。香種が気に入った貴種に声をかけるなんていつものことで、普段の飛煌ならそんなことは歯牙にもかけない。
 しかしこのまま放っておけば、他の香種たちがペルルノアを狙うだろう。誘うなといちいち言って回るような面倒はしたくない。

 全員に手出し無用と思わせる機会はないものかと考えて、そういえばペルルノアが来てから公式行事を何もしていないと気づいた。
「翠耀、ノアの歓迎の宴を次の満月に開くのはどうだ?」
 月見の宴を開こうと言うと翠耀と李誠は眉をひそめた。
「宴を開くのは構わないけど、わざわざ満月に?」
「ああ。他国の王子だし、礼儀として宴くらい開くべきだろ?」
「それはそうですが、何も満月じゃなくてもよろしいのでは?」
 李誠もそう口を添えた。
 塔麗国では香種が出席できない発香期には公式行事は開かないものだ。
「べつに欠席しても構わない。そんなに多くないだろ?」
 言い張った飛煌に翠耀は呆れた顔でぴしゃりと言った。
「無茶言わないで。少数だろうと発香期は無理。王子の歓迎会なら抑制薬を飲んででも出席する者だっているでしょ。子が欲しい者もたくさんいるのに、その機会を奪えないわ」
 確かにその通りだ。発香期は年に六回しかない。欠席していいと通知しても、参加してくる者もいるだろう。

「王子が恨まれても飛煌はいいの?」
 子を望む者にとってはこの機会を奪われるのは恨みの種になりかねない。それは宴を開催した飛煌ではなくペルルノアに向かうことになる、翠耀はそう指摘したのだ。
「あー、そうか。そうだよな」
 子を望んでいない飛煌は、そこまで思い至らなかった。
「ノアが恨まれるのは困るな」
 せっかくみんなといい関係を作ろうと努力しているのに、その邪魔はしたくない。
「でしょ。どうせ来月の発香期は飛煌が指名するんでしょ。今月は誰かと番ってもいいじゃない」
 しごくまっとうな意見だったが、飛煌は唇を尖らせた。
「それが嫌なんだろ」
「へえ。そんなに王子がよかったの? ほかの香種を抱かせたくないくらい?」
 翠耀が興味津々の顔になったので飛煌は急いで釘を刺した。

「おれが指名するからな」
「えー、べつにいいじゃない。異国の貴種ならわたしも興味あるわ」
「だめだ。ノアはおれの」
 強く主張すると、翠耀は驚きとからかいをにじませた。
「それで王宮にいるの? 誰かに取られちゃうんじゃないかって心配で、新月期の見回りにも出ないほど?」
 数日前が新月だった。新月前後がもっとも妖魔の出現が少ない時期だから、いつも樹海の祠巡りはこの時期に行っている。それなのに王宮に留まっていることをからかうように言われて、思わずムッと唇を噛んだ。
 李誠は口を挟まずに主人たちの様子を静かに傍観している。
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