金の香種と黒の貴種 異世界中華オメガバース

ゆまは なお

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異国の王子様2

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「違うって。ノアが王宮に不慣れだから見守ってただけ。明日から行こうと思ってたし」
「行かないで、飛煌フェイファン。たまには王宮でゆっくりしてくれたら、わたしも嬉しいし」
 飛煌の不機嫌を感じ取った翠耀はそう取りなしたけれど、飛煌は「明日から出かけてくる」と踵を返そうとした。その袖を翠耀はパッと掴んだ。
「ダメ、待って。ねえ、怒ったの? 何を隠してるの?」
「怒ってないし、何も隠してない」
「嘘。王子が来てから飛煌、おかしいんだもの。王子を好きになったの?」
 翠耀の真っ直ぐな問いかけに、飛煌は首をかしげて自問した。

 好き? おれはノアが好きなのか?
 確かに嫌いじゃない。特に顔が。優しげな顔立ちも好みだが、剣を構えた時の凛々しい顔や照れ笑いした顔もかなり好きだ。常識が違うせいで話が合わないことはよくあるが、互いの国の違いを知ることになってそれも意外に楽しい。
 だけどこれは違うんじゃないか?
「……好きって言うのとは違う気がする」
「そうなの? でもわたしが王子を誘うのは嫌なんでしょ? 今までそんなこと言ったことなかったじゃない?」 
 確かにそうだ。これまで翠耀にそんなことを禁じたことはない。誰がどの貴種を誘っても気にしたことはなかったのに。
「ただ、すごく気にかかるんだ。放っておけないというか」
「だから妖魔から助けてあげて、わざわざ王宮に運んで治療を受けさせたの?」
 塔麗国に入りこむ異国人がまったく居ないわけではない。
 薬草や妖魔狩りの者もいるが、多くは間諜で、魔の樹海をくぐり抜けて塔麗国の実情を探ろうとしている。その場合は見つけ次第、切って捨てることがほとんどだ。
 飛煌フェイファン呉央ウーヤンが使節団を全滅させたことについて咎められなかったのも、いつものことだと受け取られているからだ。

「呉央に探らせて、ノアはまともだったからな」
 袖を握る手をゆっくりほどいて、飛煌は思いついたことを言った。
「じゃあ、満月はノアを連れて出かけてもいいか?」
 ほかの香種に誘われないように王宮から連れ出すと聞いて、翠耀は呆れたようだが構っていられない。これまでこんな気持ちになったことがないのだ。
「まあそこまで言うならいいわよ。どこに行くつもり?」
「どこでもいいが、桂州か……、常州でもいいかな」
 どちらにも怪我に効く温泉がある。ふと、一緒に過ごした隠れ家を思い出した。露天風呂で抱き合って、ペルルノアの上気した顔が男っぽく艶めいてドキドキしたな。
 温泉に行ったとしても発香期じゃないからそれはないか? 誘ってもいいが、ノアはどうするだろ? いやいや落ち着け、おれ。
「わかったわ。歓迎の宴はどうするの?」
「その前に開いてくれ。後で鹿でも仕留めて来る」
 塔麗国の祝いの席では鹿肉が欠かせない。翠耀は「仕方ないわね」と飛煌の提案を受け入れた。

 私室に戻ると護衛貴種の呉央ウーヤンが護符の整理をしていた。普段は翡翠宮の護衛として王宮内を警護しているが、ペルルノアが来てからは飛煌の私室の警護をさせている。
 顔を合わせたらペルルノアが怒るだろうと思ったからだ。いつまでも隠しておけないが、まだその時期じゃないと様子を見ている。それが言い訳だと自分でもわかっているが。
「数日中にノアの歓迎の宴を開いて、それが終わったら祠巡りに行く」
 呉央に告げると片眉を上げた。
「王子と一緒に?」
「ああ。一度、王宮を離れたほうがいい気がするんだ」
 ペルルノアが誰かと一緒にいるのを見るのがよくないのかもしれない。こんなふうに心が乱れることが今までなかったので、飛煌は自分が戸惑っていることを自覚していた。

 気持ちを落ち着ける必要がある。
 二人きりになれば、それができる気がする。王宮に来る前はこんなにイライラしなかったのだ。
 護符や薬草など旅の準備をするよう呉央に言い置いて部屋を出た飛煌は、いつものようにペルルノアのいる西の離れへ向かった。
 回廊を曲がったところで明るい笑い声が聞こえてきて、飛煌は足を緩めた。ゆっくりと角を曲がると、予想通り、ペルルノアが蘭美ランメイと立ち話をしているのが見えた。
 中級巫術師の蘭美は水の巫術に長けた美少女で、ペルルノアと同い年だ。
 白い雪柳が満開の庭で美男美女が向き合っている姿はとても似合いの一対に見えた。
 最近、こんなふうにあちこちの庭で蘭美とペルルノアを見かける。元々、活発なたちで笑顔が多い少女だったが、ひときわ明るい表情に見えるのは気のせいではないだろう。
 やっぱりノアを狙ってるよな。
 ペルルノアのほうも楽しそうな笑顔を浮かべていて、飛煌は胸がムカムカした。香種相手にそんなににこにこするなよ。気があると誤解されるぞ。蘭美は発香月なのに誘われてもいいのか。
 貴種上位のソブラリアとは事情が違うんだぞと思いながら近づいた。

「ノア、ここにいたのか」
 何気ないふうを装って声を掛けると、蘭美は飛煌に向かって胸の前で両手を合わせる挨拶をした。明らかにがっかりした顔をするので、やはり危険だと思う。
「飛煌様、ご機嫌よう」
「ああ、ご機嫌よう。ところで蘭美、黎明の庭の池の水が詰まっているらしいぞ」
「あら、またですか。黎明の庭は数日前に瘴気を払ったばかりなのに、邪気の仕業でしょうね」
 可愛らしく首をかしげて、次にはきりっとした顔になり「すぐに見てきます」と飛煌とペルルノアに礼をして去っていった。
 仕事熱心なのが蘭美のいいところだ。まだ若いのに王宮付きの巫術師になれたのは、その熱心さを見込まれてのことだ。
 ノアにちょっかいかけなきゃいい奴なんだが。
 ほっそりした蘭美の後ろ姿を見送って、飛煌はペルルノアを見上げた。ペルルノアが片言の塔麗語で一生懸命に話している姿には飛煌もときめくが、あまりに無防備で心配になってしまう。
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