剣に愛されていても僕は回復魔法を愛します。

喜ノアサ

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与えられた遺伝子

託されるチカラ

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 時は流れ、ヘルス・ストロフの生誕祭が執り行われていた。この開幕は同時に開戦の証でもあった。
 先程からの祝福ムードは去り、妙めざわめきと緊張感が漂っていた。
 そんな周囲を割るように、汽笛のような高温が鳴り響く。静寂。
「行きましょう、ヘルス様」
「はぃ、お、おう。」
 慣れない返事に慣れない格好。ガチャガチャと音を立てながら馬が歩みを始める。 過剰かもしれないが、威厳をかもし出す(?)ように喋り方を変えてみた。それをセーフィムさんはクスッと笑う。そんな姿を横目に見ながら左右に体を揺すられる。乗馬の稽古はしてきたが、それでもこの揺れは少し堪えるものがある。
 セーフィムさん、それに少しの護衛の兵士など、少数精鋭である。その中の自分の場違い感が否めない。
 もうすぐ村の関所に差し掛かる。門兵がきちっとした敬礼をし、段取りよく開門していく。
 門がもうじき開き切るところ。
「無事を祈っています!ヘルス様、頑張ってください!」
村のあちらこちらで、自分に対する激励が飛ばされる。
 自分の知らないところで自分は心配され、応援されている。急激な緊張が、しかしそれと同時に不思議な勇気が湧いてくる。
 自分を信じろ。
声援に答えるように一声、
「いってきますっ!!」
体中から絞り出した勇気と覚悟が荒々しく叫ばれた。

「…威厳は大丈夫ですか?」
セーフィム皮肉。
「うるしゃい!!」


 今回の行程はいたって単純。ゴブリンに会いに行き、討伐して帰還。
 しかし、ヘルス・ストロフにとっては単純であっても簡単ではないのだ。
 ゴブリンの居場所は、事前に調査済みで今はそこに向かって馬を走らせている。今は走っているのは森の街道で、住処は森の中にある。馬を繋ぎ徒歩での移動となる。
 先頭の兵士が馬を止め、後ろにもそれを促す。
 馬を気に繋ぎ、隊列を組み歩き出す。前日に降った雨で地面はぬかるんでいた。様子を伺いながら慎重に歩みを進める。
___ガサガサ
 前方の茂みが震え、不快な音が響く。恐る恐る、茂みの奥を見ると、そこには青白い肌のゴブリン、50体ほどの、俗に言うゴブリン集落隊の姿があった。それも全ての個体がこちらを見ている。奇襲を受けたのだ。
「キィァーイッ!」
 一体のゴブリンが声を上げると、ゴブリンが一斉に懐に飛び込んできた。抜刀が間に合わない、ゴブリンの爪が肌をかすめる。攻撃の手は止むことは無く追撃、しかしそれはセーフィムさんによって弾かれる。
 この場面でセーフィムさんはいち早く反応し、対応を終えていた。しかし、周りを見れば数に押され苦戦を強いられている兵士もいた。セーフィムさんも何体かのゴブリンを切りつけるが限界があるようで、
「ヘルス様、正直この数を片手間で抑えることは至難です、今すぐここからは離れてください!」
「わ、分かりました!」
 どこまでも自分は約立たずで足を引っ張っているようだ。
 とにかく、元来た道に戻ろうと走る。しかし、目の前にはゴブリンの姿があり進むことが出来ない。仕方なく別の方向へと僕は走り続けることとなった。

 10分程走り続けただろうか。重かった装備も道中に脱ぎ捨てて走り続けた。もう追っ手の姿は見えない。というか最初から追いかけられていたのかさえも分からない。一心不乱に走ってきた。
 だいぶ遠くに来てしまった。今では方向さえ定かではない。この先のことはセーフィムさんがどうにか対処してくれるだろうと、目に入った洞窟へと身を寄せる。
「はぁっはぁ、もう大丈夫だよね?ゴブリンは来て、無い」
 この洞窟も、偶然草木によって隠されていて、見つけられたのは奇跡とも言える。とにかく日が暮れるまでここにいよう。ゴブリンは見が悪い。
 
 この洞窟は、誰かが入ったような形跡はなく、地下水が滴り落ちる音だけが響いていた。
 『あなたは誰?』
声が聞こえた。恐る恐る後ろを振り返ってもそこに姿はない。
 『なんだ、どうしたファニエル?』
先程とは違う声。それにファニエル?どこかで聞いたことのあるような名前だ。
「だ、誰ですか?それにどこにいるんですか!?」
 『まさか声が聞こえたわけじゃないよな?』
「聞こえてます、すいません僕はヘルス・ストロフと言います。あなた、いえあなた達は?」
見えない存在に対し名を名乗り、名をたずねる。傍から見たらどのように見えているのか。
 『ま、まじか!やったなファニエル!!うっひょー、500年待った甲斐があったな!!』
500年?
「え、えっとなんのことですか?それに500年って何言ってるんですか?」
 『あぁすまん、俺はシトラス・アルセ。でこいつがファニエル・ルトロ。500年ってのは私たちが死んでからの年月な。』
「シトラス・アルセにファニエル・ルトロ!?伝説の勇者じゃないですか!?本物ですか?」
 『本物っちゅーか死んじまってるから、もう物はねェけどな。まぁ、大勇者御一行様にで間違いはないぜ』
勇者というのは、かつて魔王を倒した伝説の三家系の人物である。
剣聖キシリア・ストロフ、魔賢ファニエル・ルトロ、精王シトラス・アルセ。そのうちの2名が今、目の前にいる(?)。
 
 『で、戸惑ってるところ悪いし、いきなりなんだが、これからお前に俺たちの

「はい?」


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