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第1章(序章)絶望の果て
第8話 恐怖の裁定
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午前中の修練のため、俺は、女子達に守られるように修練場に入った。
すでに多くの修習生が集まっており、部屋はごった返していた。
サーナは、周囲を見渡し、とりわけデカい屈強な男子に声をかけた。
その瞬間、周りが静まり返り、皆がこちらに注目した。
「おい、トラフ! こっちに来い!」
馬鹿でかい男は、慌てた様子で走って来ると、サーナに一礼した。
彼がEクラスのボスのようだ。
スパイのサーナの方が、かなり格上に見える。
「カザフ達を見なかったか?」
「いや、見てねえ。 普段なら、朝一番に挨拶しに俺んとこに来るんだが、今日は来てねえ。 どこに行ったんだろうか?」
「本当だろうな!」
「サーナに嘘をつく訳ないだろ! 信じてくれ! そういや、昨夜、可愛い奴隷が増えるとか言ってたが、それからは会ってない。 もしかして、女子に手を出したのか?」
トラフの額から、汗が流れ落ちた。
「白々しい。 ナーゼ様に報告するが、嘘を吐いてないだろうな! おまえも死にたくないだろ」
サーナは、信じられないような低い声を出した。
「不可侵条約を結んでから、女子に手を出してない。 配下の男子にも厳しく言い聞かせてるんだ。 俺らが手を出すのは男子に対してだけなんだ」
トラフは、サーナに深く頭を下げた。
体格が良い馬鹿でかい男が、か弱そうな女子に頭を下げている姿が滑稽に見える。さながら、女王様とその下僕といったところか。
「トラフに確認したい事がある。 この娘を見てどう思う?」
サーナは、俺を横に立たせた。
「可愛い女の子だと思うけど、それが何か?」
トラフは、本当に不思議そうだ。
「昨日から、騎士修練場の修習生になったイースだ。 教官が紹介しただろ」
「ああ。 放り投げられた娘だよな」
トラフに言われ教官を思い出し、嫌な気分になった。
「この娘、男のような名前だけど、れっきとした女の子だ。 よりによって、カザフ達はこの娘に乱暴したんだ。 さっき奴隷が何ちゃら言ってたが、どういう意味だ?」
「まっ、待ってくれ! 俺は、あいつらとは関係ねえ。 カザフ達が勝手にやったんだ。 そのイースって娘は、今、話があって思い出した程度だ。 俺の頭の片隅にもなかった」
トラフは、涙目になってきた。体はデカいが、まだ14歳の少年だから無理もない。
「午前中までにカザフ達4名を私の前に差し出せ。 そうしないと、おまえも同罪とみなす。 それから、イースに手を出したら死をもって償うことになると、Eクラスの男子全員に伝令しろ!」
「伝令はするが、カザフ達を捕獲するのは …。 午前中の修練をサボると教官にペナルティを課せられてしまうよ」
トラフは、泣きそうな声を上げた。
「ペナルティと自分の命と、どちらが大切か良く考えな!」
「分かった。 午前中の修練を抜けて、必ずやカザフ達をひっ捕えるよ」
そう言うと、トラフは数人の仲間を集めて、カザフ達の捜索に出かけた。
落ち着いて周囲を見ると、サーナを中心に女子達が整列していた。
このクラスは、完全に女子の天下のようだ。まさにアマゾネスの世界だった。
ふと見ると、整列した女子の後ろにベアスがいた。彼は、そこから、一心にこちらを見ていた。
◇◇◇
昼休みに入った。
カザフ達は、あっけなく捕まった。
いや、捕まったというより、自首して来たのだ。
しかも、自首して来たのはカザフ以外の3人であった。カザフは、この3人によって差し出された。素っ裸で縄で縛られている。気を失っているのか、全く反応しない。少し可哀想になってしまった。
その後、4人は就寝場に連行された。
「今回の件はナーゼ様に報告するが、おまえ達程度への始末なら私で十分だ。 何か、申し開きはあるか?」
「ボルトです。 代表で、言わせてください。 イースさんを乱暴した事を深く反省しています。 申し訳ありませんでした。 でも、それはカザフに騙されての事なんです。 こともあろうに、イースさんが男だと言うんです。 それを信じてしまって …。 男みたいな名前だからって …。 可愛い容姿を見れば女性だと分かったはずなのに、申し訳ありませんでした。 騙された3人でカザフを捕えました。 奴を差し出すので、どうかお許しください」
意識を失っているカザフを無視して説明しているが、まさに欠席裁判のようだ。
「なあ、イース。 あいつの言っている事は本当か?」
「あの3人が私の手足を押さえていたけど、私が女子だと叫んだら手を緩めたわ。 だから、カザフに騙されていたのかもしれない」
本当を言うと俺は男だが、ここまできて女子でなかったなんて、口が裂けても言えない。
また、さすがに4人を処刑するのは行き過ぎだから、カザフ1人に犠牲になってもらうしかないと思った。
「分かった。 カザフは魔法の門に投げ入れる。 実質的に、死刑と同じだ。 他の、ボルトとセルトとダキザの3人は、今すぐムートを去れ。 見かけたら、その場で死刑とする。 分かったな!」
「はい。 サーナ様、分かりました」
カザフの返事はなかったが、4人の刑が確定した。追放の3人は、直ぐに、この場を去った。
すると、入れ違いで、いつの間にかトラフが横に控えていた。良く見ると、その顔は恐怖に歪んでいる。
「トラフに命ずる。 これから直ぐに、カザフを魔法の門に放り込め! それから、今日の夜、ナーゼ様のところに行くから、トラフも来い。 分かったか?」
「ああ、分かったよ。 でも、俺は奴らとは無関係だ。 勘弁してくれよ」
トラフの大きな体は、小刻みに震えていた。
すでに多くの修習生が集まっており、部屋はごった返していた。
サーナは、周囲を見渡し、とりわけデカい屈強な男子に声をかけた。
その瞬間、周りが静まり返り、皆がこちらに注目した。
「おい、トラフ! こっちに来い!」
馬鹿でかい男は、慌てた様子で走って来ると、サーナに一礼した。
彼がEクラスのボスのようだ。
スパイのサーナの方が、かなり格上に見える。
「カザフ達を見なかったか?」
「いや、見てねえ。 普段なら、朝一番に挨拶しに俺んとこに来るんだが、今日は来てねえ。 どこに行ったんだろうか?」
「本当だろうな!」
「サーナに嘘をつく訳ないだろ! 信じてくれ! そういや、昨夜、可愛い奴隷が増えるとか言ってたが、それからは会ってない。 もしかして、女子に手を出したのか?」
トラフの額から、汗が流れ落ちた。
「白々しい。 ナーゼ様に報告するが、嘘を吐いてないだろうな! おまえも死にたくないだろ」
サーナは、信じられないような低い声を出した。
「不可侵条約を結んでから、女子に手を出してない。 配下の男子にも厳しく言い聞かせてるんだ。 俺らが手を出すのは男子に対してだけなんだ」
トラフは、サーナに深く頭を下げた。
体格が良い馬鹿でかい男が、か弱そうな女子に頭を下げている姿が滑稽に見える。さながら、女王様とその下僕といったところか。
「トラフに確認したい事がある。 この娘を見てどう思う?」
サーナは、俺を横に立たせた。
「可愛い女の子だと思うけど、それが何か?」
トラフは、本当に不思議そうだ。
「昨日から、騎士修練場の修習生になったイースだ。 教官が紹介しただろ」
「ああ。 放り投げられた娘だよな」
トラフに言われ教官を思い出し、嫌な気分になった。
「この娘、男のような名前だけど、れっきとした女の子だ。 よりによって、カザフ達はこの娘に乱暴したんだ。 さっき奴隷が何ちゃら言ってたが、どういう意味だ?」
「まっ、待ってくれ! 俺は、あいつらとは関係ねえ。 カザフ達が勝手にやったんだ。 そのイースって娘は、今、話があって思い出した程度だ。 俺の頭の片隅にもなかった」
トラフは、涙目になってきた。体はデカいが、まだ14歳の少年だから無理もない。
「午前中までにカザフ達4名を私の前に差し出せ。 そうしないと、おまえも同罪とみなす。 それから、イースに手を出したら死をもって償うことになると、Eクラスの男子全員に伝令しろ!」
「伝令はするが、カザフ達を捕獲するのは …。 午前中の修練をサボると教官にペナルティを課せられてしまうよ」
トラフは、泣きそうな声を上げた。
「ペナルティと自分の命と、どちらが大切か良く考えな!」
「分かった。 午前中の修練を抜けて、必ずやカザフ達をひっ捕えるよ」
そう言うと、トラフは数人の仲間を集めて、カザフ達の捜索に出かけた。
落ち着いて周囲を見ると、サーナを中心に女子達が整列していた。
このクラスは、完全に女子の天下のようだ。まさにアマゾネスの世界だった。
ふと見ると、整列した女子の後ろにベアスがいた。彼は、そこから、一心にこちらを見ていた。
◇◇◇
昼休みに入った。
カザフ達は、あっけなく捕まった。
いや、捕まったというより、自首して来たのだ。
しかも、自首して来たのはカザフ以外の3人であった。カザフは、この3人によって差し出された。素っ裸で縄で縛られている。気を失っているのか、全く反応しない。少し可哀想になってしまった。
その後、4人は就寝場に連行された。
「今回の件はナーゼ様に報告するが、おまえ達程度への始末なら私で十分だ。 何か、申し開きはあるか?」
「ボルトです。 代表で、言わせてください。 イースさんを乱暴した事を深く反省しています。 申し訳ありませんでした。 でも、それはカザフに騙されての事なんです。 こともあろうに、イースさんが男だと言うんです。 それを信じてしまって …。 男みたいな名前だからって …。 可愛い容姿を見れば女性だと分かったはずなのに、申し訳ありませんでした。 騙された3人でカザフを捕えました。 奴を差し出すので、どうかお許しください」
意識を失っているカザフを無視して説明しているが、まさに欠席裁判のようだ。
「なあ、イース。 あいつの言っている事は本当か?」
「あの3人が私の手足を押さえていたけど、私が女子だと叫んだら手を緩めたわ。 だから、カザフに騙されていたのかもしれない」
本当を言うと俺は男だが、ここまできて女子でなかったなんて、口が裂けても言えない。
また、さすがに4人を処刑するのは行き過ぎだから、カザフ1人に犠牲になってもらうしかないと思った。
「分かった。 カザフは魔法の門に投げ入れる。 実質的に、死刑と同じだ。 他の、ボルトとセルトとダキザの3人は、今すぐムートを去れ。 見かけたら、その場で死刑とする。 分かったな!」
「はい。 サーナ様、分かりました」
カザフの返事はなかったが、4人の刑が確定した。追放の3人は、直ぐに、この場を去った。
すると、入れ違いで、いつの間にかトラフが横に控えていた。良く見ると、その顔は恐怖に歪んでいる。
「トラフに命ずる。 これから直ぐに、カザフを魔法の門に放り込め! それから、今日の夜、ナーゼ様のところに行くから、トラフも来い。 分かったか?」
「ああ、分かったよ。 でも、俺は奴らとは無関係だ。 勘弁してくれよ」
トラフの大きな体は、小刻みに震えていた。
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