【神とも魔神とも呼ばれた男】

初心TARO

文字の大きさ
26 / 124
第2章の1 新天地

第23話 『感情の鎖』

しおりを挟む
 ベルナ王国の軍司令部に、若き女性の大隊長が招かれた。
 この背の高い女性は、参謀室の前で不適な笑みを浮かべた後、何食わぬ顔でノックして入室した。


「失礼します」

 部屋に入ると、大隊長のキリッとした態度が消え、いきなりフレンドリーな感じになった。


「シモン、何の用? 私も忙しいのよ!」


「ガーラ、そう言うなよ。 困った事が発生してな。 君の力を貸してほしいんだ」

 大隊長は、ガーラだった。この女性は美しいのだが、どこか鋭利な刃物を彷彿とさせるような威圧感がある。


「あんた、参謀なんでしょ。 自分で何とかしなさいよ!」

 ズケズケと言うガーラに、シモンは困ったような顔をした。


「秘密裏に動く必要があるんだ。 さすがに、今回は相手が悪い。 それに私的な案件だから、軍を動員できない」


「お断りするわ!」

 ガーラは、即答した。彼女は、自分に取ってメリットが無いと思うと、動かないのだ。


「まだ、何も言って無いぞ。 そもそもの原因だが …。 君がちゃんと別れさせなかったのが悪いんだ! あの時、過分な謝礼を払っただろ」

 シモンは、少し感情的になったのか声を荒げた。普通の者であれば縮み上がる場面だが、ガーラには通じない。


「ハハーん。 ビクトリアの件ね。 イースって男の子に別れるように伝えたけど、その後は知らないわ。 でも、あんた、まだグズグズしてたの? 色男が情け無いわね。 ビクトリアに『感情の鎖』を使って、隷属させれば良いだけの話しでしょ!」


「分かってるさ。 イースに罪を着せてムートから追い出し、配下の騎士に殺させた。 君も知っての通り、『感情の鎖』を仕掛けるには、相手の女を抱いてる最中に呪文を唱える必要がある。 当然、ビクトリアを堕とすつもりさ。 でも …。 その前に、不測の事態が起きてしまったんだ …」

 シモンは言葉を飲み込み、甘えるような仕草をした。


「何なのよ、気持ち悪い。 早く話しなさいよ!」


「ビクトリアが、ナーゼに面会したいと申し出たんだ。 ナーゼはイースに目をかけていたから、恐らく心眼を使って真実を探究するだろう。 そうなると、ビクトリアに信じ込ませた嘘が見抜かれちまう」


「変な事を言うのね。 ナーゼに『感情の鎖』をかけて隷属させたんでしょ! ナーゼは、あなたに逆らえないはず」

 ガーラは、愉快そうに笑った。


「それが、実は違うんだ。 ナーゼの両親の事をネタに脅して、彼女を一度抱いた時に『感情の鎖』をかけてやった。 確かに効いていた。 しかし彼女の強大な精神力と魔力によって、自力で解除されてしまったんだ。 本当に信じられない女だ。 その後、彼女に復讐されるかと思い、ずっと身の危険を感じていたが、さすがに耐えられなくて …。 だから、ナーゼを遠隔地の小隊に追いやったんだ」


「あんた最低な奴ね。 自業自得じゃない。 でも、あの偉大なるナーゼに、良く殺されなかったわね。 人質でも取ったの?」


「出身地のパル村の村長を懐柔し、彼女の両親を王都に連行し軟禁した。 それから、ナーゼの母親を抱いて『感情の鎖』をかけて操ってる。 最初、年増で少し抵抗はあったが、実物は美魔女だったから、まあまあ良かった。 ナーゼを抑えるための保険だな」


「うわー、母親を隷属するなんて鬼畜の所業だわ。 ナーゼにバレたら間違いなく殺される。 私は降りる!」


「待て! ガーラに悪いようにしない。 だから考え直せ!」

 シモンは、しぶとく食い下がった。


「一応、聞くけど、何をするの?」


「ナーゼを殺す。 制御できない強大な力は脅威でしか無い。 実は、ビクトリアの件が無くても、元々考えていたんだ。 あの力が敵国に渡ったら、大きな脅威になるだろ」


「でも、無理だわ。 私とシモンの2人がかりでもナーゼには勝てない。 分かるでしょ。 それこそ、軍を総動員しても勝てるかどうか?」

 ガーラは、興奮気味に話した。


「それなら心配ないさ。 彼女の母親を盾にして、怯んだところにガーラの最大攻撃魔法を浴びせ、親子ともども消滅させれば良い。 母親は俺に隷属してるから何でもする。 ナーゼは親を見捨てないはずだ」


「反吐が出るくらい卑劣なやり口ね。 シモンらしいわ。 それで見返りは何?」


「僕の、参謀のポストを君に譲る」


「あなたは、どうするの?」


「父上の跡を継ぎ、上級魔法使いとなって、宰相のポストを狙う。 そうなれば、僕とガーラとで、この国を牛耳れるぞ! どうかな?」


「悪くないわ。 分かった。 ビクトリアがナーゼを訪ねる前に、実行する必要があるわね」

 ガーラは、不敵な笑みを浮かべた。


◇◇◇


 タント王国での事、俺はジャームに剣術を教わっていた。
 彼の教え方は素晴らしく、短期間でかなり上達した。
 また、ジャームの心の声が聞こえる度に、得体の知れない力が湧いて来るような気がした。そのせいか、今では、大木も一刀両断できるようになっていた。
 ムートでは考えられない成果だ。

 そんな、ある日、ジャームに言われた。


(イースよ。 おまえの体に魔力の種を入れた者がおるが、その時の様子を聞かせてくれ)

 ジャームは、俺の背中に手を当てながら、心で話しかけた。


「ああ。 瀕死の状態の時に、ビクトリアから回復魔力を注入された事がある」
 
 ビクトリアの事を思い出すと辛かったが、過去の事と割り切って話した。


(ビクトリアとは、おまえを信じなかった恋人の事だな。 でも、それじゃない。 他にいたはずだ)


「ムートに入ったばかりの時に、陽気の発動を手伝ってくれた娘がいた」 

 俺は、ナーゼの優しい笑顔を思い出した。


(詳しく話してくれ?)


「彼女が俺の下腹に手を当てると、チクッと痛んだ。 毎日意識するように言われ、それを実行していたら、陽気がドンドン強くなった。 その娘はナーゼと言うんだ。 彼女は、俺を弟のように気にかけてくれた」


(そうか、この娘の影響だったのか)

 ジャームは、ドクロのような顔で俺を見た。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑 ネトロア
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。 - - - - - - - - - - - - - ただいま後日談の加筆を計画中です。 2025/06/22

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?

猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」 「え?なんて?」 私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。 彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。 私が聖女であることが、どれほど重要なことか。 聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。 ―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。 前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

処理中です...