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第2章の1 新天地
第24話 師匠との別れ
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「ナーゼがした事の影響って、どう言う意味?」
俺は、ジャームに言われた事が凄く気になった。
(おまえは、オウゼを知ってるか?)
「聞いた事ない。 誰か偉人の名前か?」
(タント王国で信仰のある神の名前だ。 言い伝えでは500年に1度、現世に人として生まれると言われている。 見た目は可愛らしい女子だが、その魔力たるや凄まじいものがある。 あくまでも伝説の世界での話だがな。 でも、イースの中に、人智を超えた魔力の脈動を感じる。 おまえは男だから、オウゼの生まれ変わりじゃない。 そうなると、陽気の発動に関わった者が怪しい。 ナーゼがオウゼなのか分からないが、一度、彼女と会ってみたいものだ)
「ナーゼは、ムートで唯一良い思い出をくれた人だ。 とても可愛い女の子だった。 俺も会いたい」
(どんな感じの人だった?)
「俺には優しかったけど、他の人からは恐れられていた。 魔法も剣術も飛び抜けて優れていた。 確かに普通の人と違っていたけど、さすがに神の生まれ変わりじゃないと思う」
神が人に生まれ変わるなんて、あり得ない事だと思った。
(どうやらナーゼは、おまえにコアの一部を与えたようだ。 とても上質の魔力だぞ)
「ナーゼは、自分の何かを犠牲にして俺にくれたのか?」
(おまえは、彼女の力の根源を受け継いだ。 でも、ナーゼに取っては減った分を回復するだけの話だから、何の影響もない)
「ナーゼが困らなければ良いんだ。 安心したよ。 ところで …。 ジャーム、聞いてくれ! 俺は弱かったから、前の国で、シモンに良いようにあしらわれた。 だから強くなりたい!」
(そうか …。 良し! 持てる力の全て使って、おまえを鍛えてやろう! 覚悟して耐えろ!)
ジャームは、ドクロのような顔を俺に向けて気合いを入れた。
その日から、俺はジャームの厳しい修行に耐えた。今までなら根を上げるような事でも、歯を食いしばって耐えた。
最初の頃は、魔術のコントロールが思うようにできず話にならなかったが、それでも頑張っていると、いつしか魔術の上達が顕著になり、剣術より得意になっていった。
僅か3週間程度で、無詠唱により連続魔法を繰り出せた時は、普段褒めないジャームも拍手して喜んでくれた。
(イースよ。 魔術の上達の速さが素晴らしい。 まさに天才的だ。 俺の弟子の中で、最も優れているぞ!)
ジャームは驚きを隠さず、俺の事を賞賛した。
俺は、他に居たと言う弟子の事が気になり尋ねたが、それについては何も教えてくれなかった。
そんな修行が続いたある日、熱系魔法を放出している時に、それは起こった。
突然、酷く胸が苦しくなり、思わず膝をついてしまった。
その時に、不思議な光景が目の前に広がった。まるで、その場面に居るような感覚だ。
目の前に、ナーゼがいた。
彼女は暗い岩場の中で、凍りついた人形のように手を上げたまま固まっている。よく見ると、その後ろにナーゼに似た大人の女性の姿が見えた。とても不思議な光景だった。
ナーゼは、悲しそうな悔しそうな表情を浮かべていた。そして、美しく見開いた目から、涙がスーと流れると、この不思議な光景が消えた。
(どうかしたか?)
俺は、今見た幻覚のことをジャームに説明した。
(おまえとナーゼの魔力がシンクロしたようだ。 もしかすると、おまえに何かを伝えたかったのかも知れない。 だが、今のおまえの力ではどうする事もできない。 早く強くなる事だな)
ジャームは、吐き捨てるように言った。俺はナーゼの事が心配で、しばらく修行に身が入らなかったが、ジャームに鼓舞されて耐えた。
◇◇◇
そして5年の歳月が流れ、俺は20歳になった。
ジャームが感慨深げに俺を見つめている。
(イースよ。 おまえは俺が育てた3人目の弟子だ。 その中で、おまえは最も優秀な弟子だ。 生まれ持った才能と、ナーゼから受け継いだ人智を超えた魔力があったからこそ、ここまで強くなれたのだ。 おまえにはもう教える事はない。 明日の朝、ここを出て自分が思う通りに生きるのだ)
「師匠。 俺は、まだ此処に居たい」
(ダメだ。 出て行くのだ!)
俺は、ジャームの強い意志を感じ、出て行くしかないと思った。
そして、覚悟を決めた。
「これまで、ありがとうございました。 この御恩は一生忘れません。 ところで最後に、他の弟子について教えてほしいのですが、ダメでしょうか?」
(ああ、最後の餞別に教えてやる。 1番目の弟子は、ワムと言う男だ。50歳になる。 魔術が得意な奴だ。 サイヤ王国に魔道士として招かれている。 野心家で信用ならぬ男だ。 近づかん方が良い。 2番目の弟子は、マサンと言う女だ。 25歳になる。 彼女は魔術も剣術も得意で、おまえと似ている。 優しくて面倒見が良いから、頼れば力になってくれるだろう。 多分、この国にいるはずだ)
「俺は、マサンを訪ねて見たい」
思わず、口から出てしまった。
それにしても、1番弟子が50歳と言うとジャームは何歳なのか、新たな疑問が浮かんだ。
(おまえが良いようにしろ。 それより、今夜はお祝いをするぞ。 とっておきの酒もある。 あと、この剣をおまえに授ける。 これは魔法の杖の役割も果たす特殊な魔道具だ)
ジャームから、長剣を渡された。俺は、嬉しくて泣いてしまった。
そして、その後、2人で肉を食べ、酒を酌み交わした。
最初に会った頃と違い、今ではジャームの事を父親のように思える。俺に取ってはジャームは唯一の家族だった。
だから、別れが辛かった。
俺は、ジャームに言われた事が凄く気になった。
(おまえは、オウゼを知ってるか?)
「聞いた事ない。 誰か偉人の名前か?」
(タント王国で信仰のある神の名前だ。 言い伝えでは500年に1度、現世に人として生まれると言われている。 見た目は可愛らしい女子だが、その魔力たるや凄まじいものがある。 あくまでも伝説の世界での話だがな。 でも、イースの中に、人智を超えた魔力の脈動を感じる。 おまえは男だから、オウゼの生まれ変わりじゃない。 そうなると、陽気の発動に関わった者が怪しい。 ナーゼがオウゼなのか分からないが、一度、彼女と会ってみたいものだ)
「ナーゼは、ムートで唯一良い思い出をくれた人だ。 とても可愛い女の子だった。 俺も会いたい」
(どんな感じの人だった?)
「俺には優しかったけど、他の人からは恐れられていた。 魔法も剣術も飛び抜けて優れていた。 確かに普通の人と違っていたけど、さすがに神の生まれ変わりじゃないと思う」
神が人に生まれ変わるなんて、あり得ない事だと思った。
(どうやらナーゼは、おまえにコアの一部を与えたようだ。 とても上質の魔力だぞ)
「ナーゼは、自分の何かを犠牲にして俺にくれたのか?」
(おまえは、彼女の力の根源を受け継いだ。 でも、ナーゼに取っては減った分を回復するだけの話だから、何の影響もない)
「ナーゼが困らなければ良いんだ。 安心したよ。 ところで …。 ジャーム、聞いてくれ! 俺は弱かったから、前の国で、シモンに良いようにあしらわれた。 だから強くなりたい!」
(そうか …。 良し! 持てる力の全て使って、おまえを鍛えてやろう! 覚悟して耐えろ!)
ジャームは、ドクロのような顔を俺に向けて気合いを入れた。
その日から、俺はジャームの厳しい修行に耐えた。今までなら根を上げるような事でも、歯を食いしばって耐えた。
最初の頃は、魔術のコントロールが思うようにできず話にならなかったが、それでも頑張っていると、いつしか魔術の上達が顕著になり、剣術より得意になっていった。
僅か3週間程度で、無詠唱により連続魔法を繰り出せた時は、普段褒めないジャームも拍手して喜んでくれた。
(イースよ。 魔術の上達の速さが素晴らしい。 まさに天才的だ。 俺の弟子の中で、最も優れているぞ!)
ジャームは驚きを隠さず、俺の事を賞賛した。
俺は、他に居たと言う弟子の事が気になり尋ねたが、それについては何も教えてくれなかった。
そんな修行が続いたある日、熱系魔法を放出している時に、それは起こった。
突然、酷く胸が苦しくなり、思わず膝をついてしまった。
その時に、不思議な光景が目の前に広がった。まるで、その場面に居るような感覚だ。
目の前に、ナーゼがいた。
彼女は暗い岩場の中で、凍りついた人形のように手を上げたまま固まっている。よく見ると、その後ろにナーゼに似た大人の女性の姿が見えた。とても不思議な光景だった。
ナーゼは、悲しそうな悔しそうな表情を浮かべていた。そして、美しく見開いた目から、涙がスーと流れると、この不思議な光景が消えた。
(どうかしたか?)
俺は、今見た幻覚のことをジャームに説明した。
(おまえとナーゼの魔力がシンクロしたようだ。 もしかすると、おまえに何かを伝えたかったのかも知れない。 だが、今のおまえの力ではどうする事もできない。 早く強くなる事だな)
ジャームは、吐き捨てるように言った。俺はナーゼの事が心配で、しばらく修行に身が入らなかったが、ジャームに鼓舞されて耐えた。
◇◇◇
そして5年の歳月が流れ、俺は20歳になった。
ジャームが感慨深げに俺を見つめている。
(イースよ。 おまえは俺が育てた3人目の弟子だ。 その中で、おまえは最も優秀な弟子だ。 生まれ持った才能と、ナーゼから受け継いだ人智を超えた魔力があったからこそ、ここまで強くなれたのだ。 おまえにはもう教える事はない。 明日の朝、ここを出て自分が思う通りに生きるのだ)
「師匠。 俺は、まだ此処に居たい」
(ダメだ。 出て行くのだ!)
俺は、ジャームの強い意志を感じ、出て行くしかないと思った。
そして、覚悟を決めた。
「これまで、ありがとうございました。 この御恩は一生忘れません。 ところで最後に、他の弟子について教えてほしいのですが、ダメでしょうか?」
(ああ、最後の餞別に教えてやる。 1番目の弟子は、ワムと言う男だ。50歳になる。 魔術が得意な奴だ。 サイヤ王国に魔道士として招かれている。 野心家で信用ならぬ男だ。 近づかん方が良い。 2番目の弟子は、マサンと言う女だ。 25歳になる。 彼女は魔術も剣術も得意で、おまえと似ている。 優しくて面倒見が良いから、頼れば力になってくれるだろう。 多分、この国にいるはずだ)
「俺は、マサンを訪ねて見たい」
思わず、口から出てしまった。
それにしても、1番弟子が50歳と言うとジャームは何歳なのか、新たな疑問が浮かんだ。
(おまえが良いようにしろ。 それより、今夜はお祝いをするぞ。 とっておきの酒もある。 あと、この剣をおまえに授ける。 これは魔法の杖の役割も果たす特殊な魔道具だ)
ジャームから、長剣を渡された。俺は、嬉しくて泣いてしまった。
そして、その後、2人で肉を食べ、酒を酌み交わした。
最初に会った頃と違い、今ではジャームの事を父親のように思える。俺に取ってはジャームは唯一の家族だった。
だから、別れが辛かった。
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