【神とも魔神とも呼ばれた男】

初心TARO

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第2章の2 新天地

第27話 魔道士ワム

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 南の大国であるサイヤ王国は、隣国であるベルナ王国からの軍事侵攻により、窮地に立たされていた。
 
 北部の一部領土を奪われ、その中には、国力の源泉となる魔石鉱山も含まれており、その被害たるや計り知れないものがあった。

 これは、明らかな侵略戦争であったが、ベルナ王国では、戦争と言わず特別軍事作戦と呼んでいた。
 サイヤ王国に住むベルナ系住民を解放するために、やむ無く戦っているのだと、偽りの正義を振りかざしていたのだ。
 ベルナ王国は、ならず者国家に成り下がっていた。


 昔からサイヤ王国は、北方の小さな国でしかないベルナ王国を、なぜか過剰に恐れていた。
 軍の規模では圧倒するのに、得体の知れぬ力を発揮する上級魔法使いが多くいたからだ。

 この事を危惧したジョンソン国王は、高名な魔法使いであるジャームの弟子に目をつけた。
 今から20年以上前となるが、宰相クラスの高い地位と高額な報酬を条件に、ジャームの1番弟子のワムを国に招き入れたのだ。

 ワムの魔力は、目を見張るものがあった。そこで早速、ベルナ王国の重鎮連中に呪詛を仕掛けると、怪我や病気になる等、著しい効果を発揮した。
 しかし、上級魔法使いに守られているベネディクト王には、手が届かなかった。
 

 長い間、魔法の小競り合いはあったが、両国の均衡は保たれていた。
 しかし、その関係は徐々に変化して行き、5年ほど前から、ベルナ王国より一方的に攻められる場面が増えてきた。
 そして今は、これ以上の侵略を看過できないところまで来ていた。


 このため、ジョンソン国王は、全面戦争に踏み切る覚悟を以って、国の重鎮達を王宮に招集したのだ。


「参謀よ、北部戦線の状況はどうなっておる?」

 王が厳しい顔で尋ねると、軍の参謀は冷や汗を流した。


「2万の兵を差し向けておりますが、ベルナの将軍の魔力により、ことごとく敗走する状況が続いております」


「して、ベルナの兵の数はいかほどだ?」


「兵の数は5千ほどと少ないのですが …。 敵は、強力な魔法の結界に守られているのと、小隊にも魔法を駆使する者がいて、手が出せない状況なのです」


「何と、たった5千の兵に負けておるのか? しかも、攻めより有利な守りにも関わらずか …」

 王は、呆れたような声を発した。


「手は尽くしているのですが、得体の知れない強力な魔法が邪魔をするので …」

 参謀は、下を向いた。


「この状況を打開するための策はあるか?」


「犠牲を覚悟する必要がありますが、今より10倍の20万人の兵と、200人規模の魔道士がおれば、押し返せるかと …」

 参謀の額から汗がこぼれ落ちた。


「我が国には、騎士を中心とした100万もの兵がおるから良いのだが …。 しかしながら魔道士は300人にも満たない。 これを200人も送るとなると、国都の守りに支障をきたすぞ?」

 宰相が口を挟むと、それを聞いた王は、諦めたかのように目を瞑った。


「そうだ! 魔道士のワム殿が居るではないか! 我が国の将軍となり、20万の兵を率いて北部戦線へ出兵していただけないか?」

 王の困った様子を見て、宰相が代わりに、熱のこもった眼差しでワムに話した。


「少し待っていただきたい。 自分は元々、この国の人間では無い。 この私では、兵の士気が下がるのでは?」

 ワムは、手のひらを向けて、露骨に嫌な顔をした。


「そのような事は無い。 ワム殿はサイヤ王国に来て20年以上になる。 その実績からしても、皆の信頼は厚い。 何を遠慮する事があろう!」

 宰相は、わざと呆れたような顔をして周りを見た。
 すると、王とワム以外の一同が頷く。


「正直に申すが、我は国王に招かれてこの国におる。 従って王を守る義務はあるが、この国を守る義務はない」

 ワムは、淡々と涼しい顔で言ってのけた。しかし周りの者は、その様子を見て、苦々しい表情になった。
 
 ワムの地位は宰相クラスであったため、対抗し発言できるのは、王と宰相くらいだ。このため、誰も反論できず、しばらく沈黙が続いた。


「このまま北部での敗走が続くと、敵は王都まで攻めて来る事になる。 即ち王の命に危険が及ぶのだ。 ワム殿が戦線に加わる理由になるはず!」

 何も言わない王に痺れを切らし、宰相が口を開いた。


「王が、自らが戦線に赴くのであれば、我は、それを補佐しよう。 我の身体は、常に王と共にあるのだ。 ところで、北部で敗走が続くと言うが、敵の分析はできているのか?」


「うむ、そうだな …。 情報相よ、報告せよ!」

 目を瞑っていた王が、目を見開き、突然発言した。


「それが、そのう …。 スパイを差し向けているのですが、ことごとく見破られてしまい消息を絶っている状況です。 この5年については、全く情報が入らない …。 恐らくは、ムートと言う騎士と魔法使いの養成機関から、相当に優秀な者が現れたのだと思います」

 情報相は、青い顔をして答えた。

 その様子を見て、ワムはバカにしたように机を叩いた。


「我は、すでに把握しておるぞ! 北部戦線で、我が方の軍が手を焼いている敵の将軍はビクトリアという女だ。 そして、軍の参謀はガーラという女だ。 宰相はシモンという男だ。 この3人は、いづれもムートの卒業生で、相当の魔力を有する。 いわば、生まれながらの天才だ。 ベルナ王国は、この3人の魔法使いが動かしていると言っても過言ではない。 この程度の事は、我でも調べているのに、あなた方は緩いのう!」

 ワムは、意地悪く周りを睨んだ。
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