【神とも魔神とも呼ばれた男】

初心TARO

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【閑話】伝説と呼ばれた魔道士

その.6 纏わりつく呪い

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 ミレーヌは悲しそうな表情のまま、躊躇なく俺に斬り込んで来た。


カキーン、カン、カン


 互いの剣が、火花を散らし激しく交わり、いつまでも続く。

 しかし、ミレーヌは、突然、剣を投げ捨てた。

 よく見ると、彼女の両腕が剣に変化している。
 その状態で、再び、踏み込んで来た。

 あまりの速さに、避けるのが精一杯で、俺は転がってしまった。
 

「ミレーヌ、よせ!」

 彼女は答えない。それどころか、剣撃の激しさは増すばかりだ。

 いつしか、愛してるはずのミレーヌに対し、俺は全力の攻撃をしかけていた。

 不思議な事に、彼女には魔法が一切通じない。

 ミレーヌも、得意な魔法を使わずに、剣のみで攻撃をして来たが、それが手加減されていると分かった時、やり場のない屈辱に支配され、俺は冷静さを失った。

 身体が勝手に動き、ありったけの力で、最大最強の極大魔法を放ってしまった。
 国都を吹き飛ばすほどの魔法を、ミレーヌは全身で受け止めた。
 しかし、さすがに、彼女も苦しそうに顔を歪めている。

 俺は万策が尽き、茫然と立ち尽くした。


「ジャーム、今のは凄かったわ。 私のコアが破壊された。 でも、これで良かったのよ。 私が死ぬと、幾つかの魔道具が出現する。 だけど、それを最初に手にした者には、魔王の呪いが降り注ぐ事になるわ。 持ち去るのなら、その覚悟が必要よ。 それから、魔王と他の四天王は、今、深い眠りについているけど、70年後に目覚めるわ。 私の力を見て分かったと思うけど、今のあなたでは勝てない。 それまでに対抗できる力を付けないと、人は滅んでしまう。 こんな事を教えるなんて、私は、魔族の面汚しね」

 ミレーヌは苦しそうに話すと、口から、人と同じ赤い血を吐いた。
 俺は、側に駆け寄り、彼女を抱きしめてしまった。
 

「ジャーム、愛してるわ」

 ミレーヌの最後の言葉だった。


◇◇◇


 ミレーヌの亡骸は霧になって霧散し、その場所に幾つかの魔道具が出現した。
 見ていると、彼女の身体の一部のように思えてきた。
 
 俺は、魔王の呪いなど気にせず、全ての魔道具をポーチに入れて持ち帰った。


 最深部に来るのに、6年の歳月を要したが、空間移動ポイントの探索に慣れたのもあって、3年で地上に戻れた。
 その後、俺は、タント王国に帰り、国の守護者となった。

 人々は俺の事を、伝説の魔道士ジャームと呼んで崇めた。
 その人気は、国王を凌ぐほどであったが、それだけに謙虚である事に徹した。
 だから、国の権力者に取り込まれる事もなく、自分の思う通りに生きられた。

 魔王の呪いは、かなり強力なものであったが、俺の強大な魔力や陽気に阻まれたのか、特に症状はなかった。

 その間に、俺は、魔王に対抗し得る人材を必死に探した。

 そして、39歳の時に2歳になるワムを、64歳の時に同じく2歳になるマサンを見つけて、自分が引き取り育て、持てる力の全てを注いだ。
 弟子を育てる事により、俺のような男でも、家庭を持てたような気がした。
 特にマサンは、ミレーヌに容姿が似ていたため、我が娘のように思えた。

 また、魔王が目覚める話しは、終末思想に発展するから、誰にも言わなかった。
 弟子にさえである。


 魔王の呪いの影響により、81歳の時に突然寿命が尽きてしまった。
 魔道士であるのに、自らの死期を予見できず、恥ずかしい限りだ。
 死後の後始末をマサンがしてくれた。迷惑を掛けたと思う。

 また、魔王の呪いにより、俺の魂は現世を彷徨った。

 現世にいながら、人と交われない辛さに耐えていたら、交流ができる不思議な少年と出会った。

 名前を、イースと言った。

 彼には、オウゼ神の魔力の脈動があり、その影響で交流ができたようだ。
 神の魔力をナーゼという女の子から受け継いだと言っていたが、不思議な事象だった。

 俺は、ワムとマサンの時のように、イースにも、持てる力の全てを注いだ。
 

 この3人に、人類の命運を託す。
 来るべき、魔王が目覚めた時のために …。

~~~~~~~~~~~~~~

【閑話】伝説と呼ばれた魔道士 〈完〉

初心TARO
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