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第3章 孤独の先に
第81話 ガーラの下知
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ベルナ王国の南部最前線において、夕日が沈み辺りが暗くなった頃、雲ひとつ無い夜空には星が輝いていた。
そんな中、馬に跨る3人のシルエットが、遠くに浮かび上がる。
最初は、月明かりに照らされて細く長かった影が、だんだんと近づくにつれ、やがて、その姿を表した。
3人は、颯爽として、実に格好が良い。
よく見ると、中心に居る人物は、髪が長く細身で、見惚れるほどに美しい女性だった。
「何者だ!」
柵の手前で守衛らしき男が、馬上の3人に声を張り上げた。
「参謀のガーラ様だ! ここを通せ!」
左側の男が、大声で叫ぶように言う。
「大変、失礼をいたしました!」
守衛は直ぐに反応し、柵から出て一礼をすると、そのまま中に誘導した。
「これより先は、私がご案内いたします」
柵の中には、馬に跨る士官が待機しており、陣営の奥深くへ誘導した。
この最前線には、約10万もの兵がおり、大小のテントが1,500ほどあって、さながら、小都市のようだ。
だから、陣営内の移動に時間がかかるため、士官クラスは馬で移動するのが常であった。
案内の士官は、陣営の中程にある大テントの中に、馬に跨ったまま入って行き、外部から来た3人も、それに倣った。
この大テントは、かなりの大きさで、中には厩があり二百頭を超える馬が繋がれている。
中に入った3人が、そこで馬を降りると、待ちかねた様子で、大柄な男が近づいて来た。
「ガーラ参謀、ようこそいらっしゃいました。 将軍のザナトスです」
「大義である。 ところで、司令官のビクトリアはいかに?」
ガーラは、少し目を細めた。
「会場にて、お待ちしております。 師団の大隊長も、全員待機しております」
大柄なザナトスは、目線が合うように、腰を屈めて答えた。
ガーラに付き添って来た2人の男は、ザナトスと知り合いなのか笑顔で会釈した。
「騎士同士は、仲が良い事よの」
ガーラは、皮肉の籠った目で、ザナトスと2人の男を見た。
会場に入ると、中の者が一斉に立ち上がり拍手で招いた。
200名はいるだろうか、皆、入って来た3人に注目している。
上座には、簡易ではあるがステージがあり、そこには20名ほどの将軍クラスの士官が居並んでおり、ザナトスと連れの2人の男は、その中にある席に座った。
それより高い位置には、ひときは目を惹く美女が、1人座っている。
司令官のビクトリアであった。
ガーラは、彼女にチラッと目をやった後に、更に高い位置に用意された席に、ゆっくりと腰を下ろした。
それにしても、巨大なドームテントである。
中の空間を維持するため、魔石をエネルギー源とした、魔道具による照明や拡声器が備え付けられていた。
このテントは、国都の大型施設と遜色のないものであった。
「国都より、ガーラ参謀が来られた。 我が軍における重要な決定事項を下知されるとの事だ。 心して聞け!」
ビクトリアは立ち上がり、居並ぶ大隊長に向かって、気合いを入れるように叫んだ。
その直後、テントの中に、歓声が上がった。
ビクトリアが座ると、ガーラが立ち上がった。
彼女は、美しいのだが、どこか鋭利な刃物を彷彿とさせるような威圧感があるが、このような場においては、それが、特に有効に働く。
強面が多い大隊長連中ではあるが、ガーラの雰囲気に圧倒されていた。
「我が祖国のために、最前線において、命懸けの忠義に感謝する。 ベネディクト国王も、そなたらに感謝の意を表されておるぞ!」
ガーラの第一声に、会場は大歓声で応えた。その反応は、明らかに、ビクトリアを上回っていた。
ガーラは、手で抑えるようなポーズをした後に続けた。
「知っての通り、憎き敵国であるサイヤ王国の兵員増強に対抗するため、我が国は、徴兵枠を拡大し24万の聖兵を確保すべく動いておる。 最前線においては、すでに10万の聖兵が居るが、これを3万とし、その役割を、哨戒活動や後方支援に専念させる。 司令官のビクトリアの職責を解き、ザナトス将軍を新しい司令官とし、ビクトリア司令官は、我の配下の将軍として配置する!」
ガーラが喋った後、会場からどよめきが上がった。
「そのような話を、ここで、いきなり …。 私は、納得がいかない!」
ビクトリアは立ち上がり、ガーラに強く抗議した。
会場の大隊長連中も、心配そうに彼女の表情を見ている。
ビクトリアは、部下に信頼されているようだ。
「ガーラ参謀、その配置とする理由をお聞かせください!」
司令官に昇格するザナトス自らが、異を唱えた。
「理由は、国都のテロにおいて、魔道士のマサンに多重結界を破られたからだ! この件は、軍事機密として大隊長以上の幹部に周知してある通りだ。 すなわち、ビクトリアの結界術は、我の破壊魔法を補助するのが、最適であると判断した! 我は、参謀ではあるが、この国難解消のため、自らが戦地で指揮する!」
ガーラが、会場を伺うように見ると、再び、大歓声が起こった。
そして、彼女は、ひと呼吸おいて、再び、続けた。
どうやら、言葉に魔力を乗せているようだ。
「司令官として我が配下の聖兵は21万となるが、残り14万の聖兵を、ここへ引き連れるまでの間は、今まで通り、ビクトリアが司令官として、最前線を死守せよ。 分かったか!」
再び、大歓声が上がった。
その陰で、ビクトリアは悔しそうに唇を噛んだ。
彼女に、どれだけ実力があっても、また、人望があったとしても、参謀であるガーラには逆らえない。
立場において、天と地ほどの差があったのだ。
そんな中、馬に跨る3人のシルエットが、遠くに浮かび上がる。
最初は、月明かりに照らされて細く長かった影が、だんだんと近づくにつれ、やがて、その姿を表した。
3人は、颯爽として、実に格好が良い。
よく見ると、中心に居る人物は、髪が長く細身で、見惚れるほどに美しい女性だった。
「何者だ!」
柵の手前で守衛らしき男が、馬上の3人に声を張り上げた。
「参謀のガーラ様だ! ここを通せ!」
左側の男が、大声で叫ぶように言う。
「大変、失礼をいたしました!」
守衛は直ぐに反応し、柵から出て一礼をすると、そのまま中に誘導した。
「これより先は、私がご案内いたします」
柵の中には、馬に跨る士官が待機しており、陣営の奥深くへ誘導した。
この最前線には、約10万もの兵がおり、大小のテントが1,500ほどあって、さながら、小都市のようだ。
だから、陣営内の移動に時間がかかるため、士官クラスは馬で移動するのが常であった。
案内の士官は、陣営の中程にある大テントの中に、馬に跨ったまま入って行き、外部から来た3人も、それに倣った。
この大テントは、かなりの大きさで、中には厩があり二百頭を超える馬が繋がれている。
中に入った3人が、そこで馬を降りると、待ちかねた様子で、大柄な男が近づいて来た。
「ガーラ参謀、ようこそいらっしゃいました。 将軍のザナトスです」
「大義である。 ところで、司令官のビクトリアはいかに?」
ガーラは、少し目を細めた。
「会場にて、お待ちしております。 師団の大隊長も、全員待機しております」
大柄なザナトスは、目線が合うように、腰を屈めて答えた。
ガーラに付き添って来た2人の男は、ザナトスと知り合いなのか笑顔で会釈した。
「騎士同士は、仲が良い事よの」
ガーラは、皮肉の籠った目で、ザナトスと2人の男を見た。
会場に入ると、中の者が一斉に立ち上がり拍手で招いた。
200名はいるだろうか、皆、入って来た3人に注目している。
上座には、簡易ではあるがステージがあり、そこには20名ほどの将軍クラスの士官が居並んでおり、ザナトスと連れの2人の男は、その中にある席に座った。
それより高い位置には、ひときは目を惹く美女が、1人座っている。
司令官のビクトリアであった。
ガーラは、彼女にチラッと目をやった後に、更に高い位置に用意された席に、ゆっくりと腰を下ろした。
それにしても、巨大なドームテントである。
中の空間を維持するため、魔石をエネルギー源とした、魔道具による照明や拡声器が備え付けられていた。
このテントは、国都の大型施設と遜色のないものであった。
「国都より、ガーラ参謀が来られた。 我が軍における重要な決定事項を下知されるとの事だ。 心して聞け!」
ビクトリアは立ち上がり、居並ぶ大隊長に向かって、気合いを入れるように叫んだ。
その直後、テントの中に、歓声が上がった。
ビクトリアが座ると、ガーラが立ち上がった。
彼女は、美しいのだが、どこか鋭利な刃物を彷彿とさせるような威圧感があるが、このような場においては、それが、特に有効に働く。
強面が多い大隊長連中ではあるが、ガーラの雰囲気に圧倒されていた。
「我が祖国のために、最前線において、命懸けの忠義に感謝する。 ベネディクト国王も、そなたらに感謝の意を表されておるぞ!」
ガーラの第一声に、会場は大歓声で応えた。その反応は、明らかに、ビクトリアを上回っていた。
ガーラは、手で抑えるようなポーズをした後に続けた。
「知っての通り、憎き敵国であるサイヤ王国の兵員増強に対抗するため、我が国は、徴兵枠を拡大し24万の聖兵を確保すべく動いておる。 最前線においては、すでに10万の聖兵が居るが、これを3万とし、その役割を、哨戒活動や後方支援に専念させる。 司令官のビクトリアの職責を解き、ザナトス将軍を新しい司令官とし、ビクトリア司令官は、我の配下の将軍として配置する!」
ガーラが喋った後、会場からどよめきが上がった。
「そのような話を、ここで、いきなり …。 私は、納得がいかない!」
ビクトリアは立ち上がり、ガーラに強く抗議した。
会場の大隊長連中も、心配そうに彼女の表情を見ている。
ビクトリアは、部下に信頼されているようだ。
「ガーラ参謀、その配置とする理由をお聞かせください!」
司令官に昇格するザナトス自らが、異を唱えた。
「理由は、国都のテロにおいて、魔道士のマサンに多重結界を破られたからだ! この件は、軍事機密として大隊長以上の幹部に周知してある通りだ。 すなわち、ビクトリアの結界術は、我の破壊魔法を補助するのが、最適であると判断した! 我は、参謀ではあるが、この国難解消のため、自らが戦地で指揮する!」
ガーラが、会場を伺うように見ると、再び、大歓声が起こった。
そして、彼女は、ひと呼吸おいて、再び、続けた。
どうやら、言葉に魔力を乗せているようだ。
「司令官として我が配下の聖兵は21万となるが、残り14万の聖兵を、ここへ引き連れるまでの間は、今まで通り、ビクトリアが司令官として、最前線を死守せよ。 分かったか!」
再び、大歓声が上がった。
その陰で、ビクトリアは悔しそうに唇を噛んだ。
彼女に、どれだけ実力があっても、また、人望があったとしても、参謀であるガーラには逆らえない。
立場において、天と地ほどの差があったのだ。
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