【神とも魔神とも呼ばれた男】

初心TARO

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第3章 孤独の先に

第88話 パル村の片隅で

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 パウエルは、おもむろに長剣を抜いて構えると、水平方向に勢いよく振りきった。
 すると、剣の軌跡に沿って黄金色の光の環が出現し、まるで自分の意志があるかのように弧を描きながら、対象となる岩の出っ張りと重なった。


ズサッンーン


 鈍い大きな音と共に、岩の出っ張りが滑るように落ちて行った。
 そして、地上に到達したタイミングで地面が振動した。


「今度は、イースがあれを斬るんだ」

 パウエルは、先ほどとは違う出っ張りを指差した。


「斬ることは出きると思うが、岩の近くに飛んでも良いか?」


「ああ、方法は問わない。 岩を切断できれば合格だ」

 パウエルは、少し呆れたような顔をして俺を見据えた。


 俺は、岩の出っ張り付近まで結界を張ると、その上を目がけ高く跳躍した。
 そして、一瞬で長剣を抜き、そのまま上段から斜め下方向に向けて振り抜くと、黄金色の光が出現し弧を描いた。


ズサンッーン


 次の瞬間、激しい音と共に大きな岩が滑り落ちた。

 俺は、自分が張った結界の上に着地すると、そのまま結界を岩山の頂上へ向けて延長させた。
 そして、パウエルの横に飛び降りると、斬った岩の付近を指差した。

 彼から見ると、俺の姿は、まるで空中を飛んでいるように見えた事だろう。

 しかし、パウエルは、眉間にシワを寄せて不満そうな顔をしている。


「斬るだけの事に、大袈裟な動作が多すぎる。 見世物ではないぞ! でも、合格だ。 君を、私の親衛隊に配属する。 隊長のヒュウガの指示に従え」

 そう言うと、パウエルは愉快そうに笑った。
 

◇◇◇


 その頃、マサンは暗闇の岩場に立っていた。
 眼下には、街の灯りが見える。

「ここは地上のようだな。 しかし、あのタルガっていう魔族の女、凄まじく強かったが、全く忌々しい奴だ。 まあ、良い。 取り合えず、あの灯りの方に行って見るか。 しかし、魔法のマントを失ったのは痛いな …」

 マサンは、自分を鼓舞するかのように声を上げた。

 岩場を下ると、そこには小さな村があった。よく見ると、周辺にある建物の半分以上が空き家になっている。
 好都合な事に、夜で人通りがないから、身を隠す必要もない。

 マサンは、大きめの空き家に忍び込んだ。この家は、つい最近まで人が住んでいたのか、生活感がある。
 寝室に入ると、大きなベットが置かれていた。
 

「このベットは、夫婦が寝ていたのか? まあ、良い。 ここを拝借させてもらおう」

 マサンは、そのままベットに倒れ込むと寝込んでしまった。
 珍しく、かなり疲れていたようだ。

 翌日、小鳥のさえずりで目を覚ますと、マサンは大きく背伸びをした。超人的な魔道士とはいえ、彼女も人間である。
 腹が減れば食べたくなり、身体を酷使すれば、疲れて眠くなる。

 マサンは、ポーチから干肉を取り出して口に詰め込むと、手で髪をボサボサにして、わざと汚いフードを被った。


「よし、これで完璧だ」

 そう言うと、マサンは周囲を注意深く見回して、さっと外に出た。

 昼をとうに過ぎているのに、相変わらず人通りがない。
 ここが、どこかも分からず、ひたすら歩いていると、前方から2人の兵士が近づいて来た。


「おい、おまえ。 どこから来た?」


「この村の者じゃなさそうだが、流れてきた浮浪者か?」


 マサンは、女だとバレないように、下を向いた。
 兵士は、彼女の思惑通り、男と思っているようだ。

 答えないでいると、そのまま連行されてしまった。


 しばらく歩くと、遠くに規模の大きな軍の施設が見えて来た。
 建物の周辺には多くの兵士が警戒しており、厳重な警備がしかれている。
 ここは、かなり重要な軍事施設のようだ。

 建物に入ると、2人の兵士に加え、さらに6人の兵士が付き添った。
 また、通路を歩いていると、数多くの兵士とすれ違った。
 施設の定員を超えた兵士がいるようだ。


「ここは、最前線の基地なのか?」

 マサンは、男のような低い声を出して尋ねた。


「うるさい、無駄口を叩くな!」
 
 兵士は、全く答えない。
 テキパキとした動きを見ると、かなり訓練されているようだ。 

 その後、マサンは地下牢に放り込まれた。
 牢内には、入りきれないほどの囚人が押し込まれている。中には、拷問を受けたのか、痛々しく怪我をした者もいた。

 頑丈な鉄格子に囲まれた牢の周辺では、多くの兵士が看守として、寝ずの番をしている。
 これまでに、見た事がないような厳重さだ。

 マサンは、牢内の男に小声で尋ねた。


「ここは、どこなんだ?」


「えっ、徴兵されて来たんじゃないのか?」

 男は、驚いたような顔をした。


「あちこちを渡り歩いている宿無しなんだ。 悪い事をしていないのに、いきなり捕まった」


「そうなのか?」

 男は、まだ信じられない様子だ。


「俺は浮浪者だから、どこかも分からずに、この地に迷い込んだんだ。 なあ、教えてくれよ」

 マサンは、わざと泣きそうな声を出した。


「俺は、国都で靴屋をやってるサムって言うんだが …。 ここは、パル村の最前線基地だぞ。 徴兵で連れて来られたが、訓練が厳しくて逃げたんだ。 脱走は、死罪と決まっているが、まだ生かされてるところを見ると、恐らくは、兵隊が足りないんだと思う。 なんとか逃げたい」

 男も、泣きそうな声を出した。


「そうか …。 パル村か。 じゃあ、ベルナ王国だな」


「えっ、あんた。 この国の者じゃ無いのか? 俺が助かるためには密告しかない。 悪く思うなよ …」


「なんだって?」

 マサンは、サムの言っている意味が分からず聞き返した。


「看守様! 靴屋のサムが見つけました! こいつはスパイです」

 サムは、突然、看守に向かって大声で叫んだ。
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