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第3章 孤独の先に
第87話 英雄パウエル
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コスターから、しばらく休むように促されたが、気が昂っているせいか目が冴えていて眠れない。
窓の外を覗くと、相変わらずテントの灯りが、星のように輝いている。
その美しさが、ここが戦いの最前線である事を忘れさせる。
ふと、隣を伺うと、コスターの寝息が大きくなり、今では、蛙の大合唱のようなイビキになっている。
戦地において、寝首を掻かれないかと、余計な心配をしてしまう。
それにしても、夜景が美しかった。地平線に広がるテントの灯りの写し鏡のように、澄みきった夜空に星が輝いている。
俺は、ムート時代にビクトリアと過ごした亜空間の夜空を思い出してしまった。
今では、シモンに心酔している彼女だが、あの頃は本当に仲が良かった。
しかし、ムートで無実の罪を着せられた時に信じてもらえなかった事や、よりによって、最も恨みのあるシモンになびいた事を考えると、彼女に対する怒りが込み上げてきた。
「あっ、そのポーチの中で何か光らなかったか?」
コスターが眠そうな目を擦りながら、俺に話しかけてきた。
「これは、ごく普通の魔法の収納ポーチだ。 そんなハズは無いが …」
コスターに言われ、ポーチの中に手を入れると、長剣が手に吸い付いてきて、自分でも驚いた。
一瞬、コスターの目が鋭くなったので、俺は慌てて手を離した。
「おいおい、物騒な物に触るなよ。 ここだから許すが、他で同じ事をすれば、速攻で斬られるぞ。 とにかく気を付けな!」
「光ったと言うから、手を入れたんだが …。 分かった、気を付けるよ」
確かにコスターは寝ていたが、危険を察知すると直ぐに行動を起こす。
油断のならない男だと認識した。
出発してから3時間は経過しただろうか、突然、馬車が止まった。
「おい、着いたぞ」
コスターに促され、馬車を降りると、目の前には、高さが200メートルはあろうかと思える岩山が、垂直にそびえ立っていた。
「パウエル統括最高司令官に会うには、この岩山を駆け上がる必要がある。 マサンの弟子ならば、当然できるよな!」
コスターは、深く息を吸い込むと、次の瞬間、いきなり垂直の壁を駆け上がって行った。
それは、まるで昆虫が素早く岩山をよじ登るようだ。とても人間には見えない。
俺は、あのような真似はできない。
地面に素早く魔方陣を書くと、その上に立ち呪文を唱えた。
マサンから教えてもらった移動魔法を使ったのだ。
当然の結果だが、一気にコスターを抜き、岩山の頂上に飛び上がった。
頂上は、意外に広く、少し先に小さな洞窟があり灯りが見える。
そこへ向かいたいという思いを打ち消して、コスターを待つと、5分ほどしたところで、彼が到着した。
「さすがは、マサンの弟子だ。 しかし、魔法を使うのは反則だと思うが、まあ良いか。 あの洞窟の中に、パウエル統括最高司令官がいる」
俺は、コスターに先導され、洞窟に向かった。
「待ちかねたぞ、奥でパウエル様がお待ちだ」
洞窟の入り口付近で、コスターが声を掛けられた。
黒髪で目の色も黒く、肌が黄色みがかった異国人のようだ。
彼は、大小長さの違う刀を2本、脇にさして、いつでも抜けるような体勢でいる。
俺は、この男に見覚えがあった。
「やはり、そなただったか! あの時は嘘を言いおって …」
相手の男も、俺に見覚えがあるらしく激しく睨んでいる。
その男は、ベスタフの賃貸アパートを訪ねた道中で、声を掛けられた男だった。
「なんだ、ヒュウガ …。 イースと知り合いだったのか?」
コスターは、驚いたような顔で相手の男に話しかけた。
「知り合いなものか! そいつには、騙された口だ。 まあ、良い。 直ぐに来い!」
ヒュウガに連れられて、俺とコスターは、奥へ向かった。
洞窟の入り口は小さかったが、中には100人は入れる大空間があった。
しかも、非常に明るい。恐らくは、魔石を動力とする様々な設備があるのだろう。
洞窟の中は、快適そのものであった。
ヒュウガは、大空間を突っ切った後、奥の部屋の前で立ち止まった。
「パウエル様、マサンの弟子のイースをお連れしました」
「分かった、入れ!」
「ハッ」
中から、気合いの入った声がした後、俺たちはヒュウガに続いて部屋に入った。
出迎えたのは、見目麗しい好青年で、身長が高く、シモンを彷彿とさせる爽やかなイケメンであった。
「ヒュウガとコスターは、ここで待機していてくれ。 イースは、私と一緒に来い」
そう言うと、パウエルは黄金色に輝く豪華な長剣を手にして、足早に洞窟を出た。
そして、先ほど登った岩山の頂上から、眼下を見下ろした。
下には、無数のテントの灯りが見える。
「我が軍は、もうじきベルナ王国軍に打って出る。 相手は少数といえど精鋭が多い。 特に、3傑と言われる連中は侮れない。 数に優位といえど、恐らくは苦戦するだろう」
「はい」
俺は、自然に返事をしていた。
パウエルの言葉は、なぜか心に染みた。
「君を傭兵として迎えるにあたり、実力を確認させてほしい。 正直に言って、アモーン商会から派遣されたとはいえ、役に立たない者はいらない。 そなたが、マサンの弟子というなら、証拠を見せてくれ。 あれを見ろ」
パウエルは、断崖絶壁の中ほどにある、出っ張った岩を指差した。
窓の外を覗くと、相変わらずテントの灯りが、星のように輝いている。
その美しさが、ここが戦いの最前線である事を忘れさせる。
ふと、隣を伺うと、コスターの寝息が大きくなり、今では、蛙の大合唱のようなイビキになっている。
戦地において、寝首を掻かれないかと、余計な心配をしてしまう。
それにしても、夜景が美しかった。地平線に広がるテントの灯りの写し鏡のように、澄みきった夜空に星が輝いている。
俺は、ムート時代にビクトリアと過ごした亜空間の夜空を思い出してしまった。
今では、シモンに心酔している彼女だが、あの頃は本当に仲が良かった。
しかし、ムートで無実の罪を着せられた時に信じてもらえなかった事や、よりによって、最も恨みのあるシモンになびいた事を考えると、彼女に対する怒りが込み上げてきた。
「あっ、そのポーチの中で何か光らなかったか?」
コスターが眠そうな目を擦りながら、俺に話しかけてきた。
「これは、ごく普通の魔法の収納ポーチだ。 そんなハズは無いが …」
コスターに言われ、ポーチの中に手を入れると、長剣が手に吸い付いてきて、自分でも驚いた。
一瞬、コスターの目が鋭くなったので、俺は慌てて手を離した。
「おいおい、物騒な物に触るなよ。 ここだから許すが、他で同じ事をすれば、速攻で斬られるぞ。 とにかく気を付けな!」
「光ったと言うから、手を入れたんだが …。 分かった、気を付けるよ」
確かにコスターは寝ていたが、危険を察知すると直ぐに行動を起こす。
油断のならない男だと認識した。
出発してから3時間は経過しただろうか、突然、馬車が止まった。
「おい、着いたぞ」
コスターに促され、馬車を降りると、目の前には、高さが200メートルはあろうかと思える岩山が、垂直にそびえ立っていた。
「パウエル統括最高司令官に会うには、この岩山を駆け上がる必要がある。 マサンの弟子ならば、当然できるよな!」
コスターは、深く息を吸い込むと、次の瞬間、いきなり垂直の壁を駆け上がって行った。
それは、まるで昆虫が素早く岩山をよじ登るようだ。とても人間には見えない。
俺は、あのような真似はできない。
地面に素早く魔方陣を書くと、その上に立ち呪文を唱えた。
マサンから教えてもらった移動魔法を使ったのだ。
当然の結果だが、一気にコスターを抜き、岩山の頂上に飛び上がった。
頂上は、意外に広く、少し先に小さな洞窟があり灯りが見える。
そこへ向かいたいという思いを打ち消して、コスターを待つと、5分ほどしたところで、彼が到着した。
「さすがは、マサンの弟子だ。 しかし、魔法を使うのは反則だと思うが、まあ良いか。 あの洞窟の中に、パウエル統括最高司令官がいる」
俺は、コスターに先導され、洞窟に向かった。
「待ちかねたぞ、奥でパウエル様がお待ちだ」
洞窟の入り口付近で、コスターが声を掛けられた。
黒髪で目の色も黒く、肌が黄色みがかった異国人のようだ。
彼は、大小長さの違う刀を2本、脇にさして、いつでも抜けるような体勢でいる。
俺は、この男に見覚えがあった。
「やはり、そなただったか! あの時は嘘を言いおって …」
相手の男も、俺に見覚えがあるらしく激しく睨んでいる。
その男は、ベスタフの賃貸アパートを訪ねた道中で、声を掛けられた男だった。
「なんだ、ヒュウガ …。 イースと知り合いだったのか?」
コスターは、驚いたような顔で相手の男に話しかけた。
「知り合いなものか! そいつには、騙された口だ。 まあ、良い。 直ぐに来い!」
ヒュウガに連れられて、俺とコスターは、奥へ向かった。
洞窟の入り口は小さかったが、中には100人は入れる大空間があった。
しかも、非常に明るい。恐らくは、魔石を動力とする様々な設備があるのだろう。
洞窟の中は、快適そのものであった。
ヒュウガは、大空間を突っ切った後、奥の部屋の前で立ち止まった。
「パウエル様、マサンの弟子のイースをお連れしました」
「分かった、入れ!」
「ハッ」
中から、気合いの入った声がした後、俺たちはヒュウガに続いて部屋に入った。
出迎えたのは、見目麗しい好青年で、身長が高く、シモンを彷彿とさせる爽やかなイケメンであった。
「ヒュウガとコスターは、ここで待機していてくれ。 イースは、私と一緒に来い」
そう言うと、パウエルは黄金色に輝く豪華な長剣を手にして、足早に洞窟を出た。
そして、先ほど登った岩山の頂上から、眼下を見下ろした。
下には、無数のテントの灯りが見える。
「我が軍は、もうじきベルナ王国軍に打って出る。 相手は少数といえど精鋭が多い。 特に、3傑と言われる連中は侮れない。 数に優位といえど、恐らくは苦戦するだろう」
「はい」
俺は、自然に返事をしていた。
パウエルの言葉は、なぜか心に染みた。
「君を傭兵として迎えるにあたり、実力を確認させてほしい。 正直に言って、アモーン商会から派遣されたとはいえ、役に立たない者はいらない。 そなたが、マサンの弟子というなら、証拠を見せてくれ。 あれを見ろ」
パウエルは、断崖絶壁の中ほどにある、出っ張った岩を指差した。
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