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第3章 贋作師のテクニック
第9話 幽霊の少女
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青年画家に真正面から見つめられた少女は、はにかんだような笑顔を浮かべた。
「だって、キースにまた、会いたくなっちゃたし、私とこの娘の波長って、すごく合うのよね」
足元に中型犬をはべらせた青年は、かなり複雑な顔をした。
確かに、去年のクリスマスに、この娘が天に帰ってしまった時には、『もう少し一緒にいたかった』なんて思いもしたけど、あれはあれで、俺の中ではハッピーエンドってことになってたんだ。
すると、ミルドレッドの中の幽霊の少女は、こんなことを言い出したのだ。
「その絵の中に入り込んでしまっている少年のことは、ちょっと後回しにして、あのバイクの男! 私は彼を知ってるわよ。キースだって、見てたでしょ。あの男が私の肖像画を見て笑ったのを!」
「あの男を知ってる……って? おかしいじゃないか。お前が死んだのって40年も前の話だろ。あのイヴァンって野郎は、どうみても20代にしか見えないが……それとも、アンナが幽霊になってからの知り合いってことか」
「ううん。私があの男、イヴァン・クロウに初めて会ったのは、40年前の……私が病気で死んだ日のちょうど1ヶ月前のことよ」
「ちょ、ちょっと待ってくれよ。それって……」
思わず、足元にいるパトラッシュと目をかわしたが、彼の相棒も、この展開に、きょとんと目を瞬かせている。
ミルドレッドの中のアンナは言った。
「あれは、40年前の11月終わりのことだった。体が弱かった私は、具合が悪かったのに、どうしてもクリスマスの聖歌隊の練習がしたくて、親に無理を言って教会に出かけていったの。結局、その時にひいた風邪がもとで、私は死んでしまったんだけど……あの男……イヴァン・クロウと私が会ったのが、その教会の中だったのよ。彼は教会の壁に飾られた宗教画を見上げていた」
「宗教画?」
「その教会で、イヴァンが私を見つけた時に、彼は私に何て言ったと思う? やけに優しげに微笑んで私のそばに歩み寄ってから……あいつは、こう言ったのよ」
キースは、少女の真剣な瞳に一瞬、沈黙する。イヴァン・クロウ? それが、あいつのフルネームか? すると、アンナはふぅと一つ冷たい息を吐き、
「お前、もうすぐ、死ぬぞって」
「何ぃ……!」
「私が生きている間に彼と会ったのは、それが最初で最後。でも、あの時と格好は違っていても、あいつは、あのバイクに乗ってた男よ! 私は絶対に見間違えたりしないわ」
聞けば聞くほど訳がわからない話が多すぎて、キースは頭が痛くなってしまった。
その時、アトリエの窓が、風に吹かれてがたんと音をたてて開いた。それとともに、室内に入り込んできた夜風が、首筋に薄ら寒い感触を残して通り過ぎていった。
「だって、キースにまた、会いたくなっちゃたし、私とこの娘の波長って、すごく合うのよね」
足元に中型犬をはべらせた青年は、かなり複雑な顔をした。
確かに、去年のクリスマスに、この娘が天に帰ってしまった時には、『もう少し一緒にいたかった』なんて思いもしたけど、あれはあれで、俺の中ではハッピーエンドってことになってたんだ。
すると、ミルドレッドの中の幽霊の少女は、こんなことを言い出したのだ。
「その絵の中に入り込んでしまっている少年のことは、ちょっと後回しにして、あのバイクの男! 私は彼を知ってるわよ。キースだって、見てたでしょ。あの男が私の肖像画を見て笑ったのを!」
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「ううん。私があの男、イヴァン・クロウに初めて会ったのは、40年前の……私が病気で死んだ日のちょうど1ヶ月前のことよ」
「ちょ、ちょっと待ってくれよ。それって……」
思わず、足元にいるパトラッシュと目をかわしたが、彼の相棒も、この展開に、きょとんと目を瞬かせている。
ミルドレッドの中のアンナは言った。
「あれは、40年前の11月終わりのことだった。体が弱かった私は、具合が悪かったのに、どうしてもクリスマスの聖歌隊の練習がしたくて、親に無理を言って教会に出かけていったの。結局、その時にひいた風邪がもとで、私は死んでしまったんだけど……あの男……イヴァン・クロウと私が会ったのが、その教会の中だったのよ。彼は教会の壁に飾られた宗教画を見上げていた」
「宗教画?」
「その教会で、イヴァンが私を見つけた時に、彼は私に何て言ったと思う? やけに優しげに微笑んで私のそばに歩み寄ってから……あいつは、こう言ったのよ」
キースは、少女の真剣な瞳に一瞬、沈黙する。イヴァン・クロウ? それが、あいつのフルネームか? すると、アンナはふぅと一つ冷たい息を吐き、
「お前、もうすぐ、死ぬぞって」
「何ぃ……!」
「私が生きている間に彼と会ったのは、それが最初で最後。でも、あの時と格好は違っていても、あいつは、あのバイクに乗ってた男よ! 私は絶対に見間違えたりしないわ」
聞けば聞くほど訳がわからない話が多すぎて、キースは頭が痛くなってしまった。
その時、アトリエの窓が、風に吹かれてがたんと音をたてて開いた。それとともに、室内に入り込んできた夜風が、首筋に薄ら寒い感触を残して通り過ぎていった。
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