ぐ~たら第三王子、牧場でスローライフ始めるってよ

雑木林

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四章

9話 黄色メイド

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 ──父との対話が終わり、俺は王城の客室で一夜を過ごした。

 最初は王城の使用人に、俺が嘗て使っていた自室に案内されそうになったが、それはこちらから断っている。敢えて客室に寝泊まりすることで、第三王子としての地位に固執はしていないと、上二人の兄にアピールしようと思ったのだ。

 ルビーとゼニスは隣室で寝泊まりしており、俺たちが寝ている間は白百合騎士団の面々が、交代で夜間警備を行ってくれた。一応連れてきたペリカンも、俺を守ろうと気合が入っている。

 そうして、翌朝。俺の部屋にルビーとゼニスがやって来て、一緒に朝食をとっていたところで、父が死去したという知らせが届いた。

「アルス様……。わたくしの胸なら、いつでもお貸し致しますわ……。どうぞ、存分に涙を流してくださいまし」

「ルビーはんの乳が大きすぎて嫌やったら、ウチの程良い大きさの乳でもええんやで……? 今なら貸し出し料金は、オマケしたるよ」

 ルビーとゼニスが両腕を広げて、いつでも俺の悲しみを受け止められる姿勢を取った。

 ルビーの巨乳とゼニスの美乳。どちらも甲乙付け難いが……、俺は毅然とした態度で遠慮する。

「胸の貸し出しは不要だ。覚悟は出来ていたからな……。とりあえず、俺は帰る前に情報収集をしたい。二人とも、協力して貰えるか?」

 父の昨晩の様子や使用人の話から、死期が近いことは十分理解していた。そのため、俺はそこまで衝撃を受けていない。無論、悲しくない訳ではないが、今は悲しみに浸るよりも、兄たちの今後の動きが気になる。

 一応、俺たちの牧場もイデア王国の一部なので、動乱に巻き込まれてしまう恐れがあるのだ。

 魔物が活性化している今こそ、王侯貴族が一致団結して、問題に向き合うべきだとは思うが……まあ、それは望み薄だろう。

「喜んで協力させていただきますわ! とは言っても、わたくしには大した伝手なんてありませんが……」

 この王都はイデア王国の中央に位置しているので、辺境在住のルビーに伝手がないのは仕方ない。

 都会に住んでいる貴族は基本的にお高く留まっており、田舎者との付き合いがあると自分のステータスが下がると考えている。そんな連中とルビーが交友関係を築くのは、どうしても難しい。

「ウチも協力したるけど、正味ウチらの助けなんていらんやろ? 王城での情報収集なら、アルスはんの笑顔一つで楽勝やで!」

 ゼニスはそう言って、まずは王城で働いているメイドたちから情報を聞き出そうと提案した。

「うーん……。ゼニスは俺の0円スマイルを過信していると思うなぁ……」

 今世の俺の顔面偏差値は、有難いことに途轍もなく高い。この顔を生かして、メイドたちから情報を聞き出すというのは、平時であれば悪くない手だ。

 しかし、今は動乱直前の不穏な気配が漂っている。俺に情報を流している現場を第一王子派か第二王子派の誰かに目撃されたら、メイドたちだってどうなるのか分からない。だから、嘸かし口が重たくなっているはず……。

 そもそも、俺としては善良なメイドを巻き込むのは本意ではないのだ。

 出来ればコソコソと、盗み聞き等で情報を集められれば良いのだが──と、そう思った矢先、壁に備え付けられている大きな鏡が、盛大な音を立てて向こう側から割れた。そして、そこから二人の人物が縺れ合いながら、部屋の中に飛び込んでくる。

「な──ッ!?」

「アルス様っ!! 下がってくださいまし!!」

「飛び道具への備えはウチがやるで!! それとっ、白百合騎士団の子ら!! はよ来てーーーっ!!」

 俺が唖然としながらも席を立って身構えると、即座にルビーとペリカンが俺を庇う位置に立った。ゼニスは風魔法による結界を俺たちの周囲に展開して、飛び道具の警戒を行ってくれる。

 こうして、ある程度の安全が確保出来たところで、俺は努めて冷静に、侵入者の確認を行う。

 鏡を割って、その向こう側から部屋に侵入してきたのは、片方が白百合騎士団の女性で、もう片方は黄色い髪と瞳を持つおかっぱ頭のメイドだ。後者は自分のイメージカラーに合わせているのか、着用しているメイド服まで黄色を基調としており、俺はこの少女を何処かで見た気がした。

 一体何処で見掛けたのか……。それを考えている間に、扉を壊す勢いで外から他の白百合騎士団の面々が雪崩れ込んで来て、メイドは瞬く間に捕縛される。

 そして、メイドの身包みが容赦なく剥がされ、暗器の類を持っていないと確認出来た後、ルビーは最初にメイドと縺れ合っていた騎士に話を聞いた。

「──それで、このメイドは何処に潜んで居たんですの?」

「実は、部屋の壁の裏に隠し通路のような狭い空間がありまして、そのメイドはそこから皆様の会話を盗み聞きしていたのです。もしかしたら、襲撃する隙を伺っていたのかも……」

 これを聞いたメイドは頭を振って、大慌てで自らの無実を訴える。

「ちっ、違うんです!! 私はいざという時のためにっ、姫様を逃がすための道を探していただけなんです!!」

「姫様……? 姫様……。あっ、思い出した!」

 そうだ、このメイドはルーミアのお付きの三色メイドの一人だ。

 ちなみに、ルーミアとは血みどろ色の赤黒い髪と、淀んだ鉛色の瞳を持つ少女で、何の因果かラーゼイン公爵家の娘として転生した魔王のことである。

「アルスはん、このメイドは知り合いなん?」

「いや、俺が一方的に知っているだけだ。それも、顔と所属を知っている程度だな」

 俺がどうして、このメイドの顔を知っていたのかと言うと、ルーミアが召喚魔法を用いて、俺の家畜のパンツァーコッコーを連れ去ったことが原因となっている。

 俺には遠方の家畜の様子をテレビ画面越しに確かめて、更には指示まで出せる第七の牧場魔法があるので、それを使ってルーミアの私生活を監視していたのだ。ルーミアの方は、自分が召喚した魔物が俺の家畜だなんて知らないし、当然だが自分が監視されていることにも気付いていない。

 ルーミアが魔王であることは、ルビーとゼニスには教えていないので、この辺りの事情を詳しく説明しても良いものか、非常に悩ましいところだ……。

 ルーミアを殺してしまえば魔物の活性化という問題は解決するのだが、俺は自分の心身に負担を掛けるような必要悪にはならないと決めている。

 今のルーミアは危険な魔王ではなく、心優しい小公女として生きており、能動的に悪さをしている訳ではない。ただ、天職由来のパッシブスキルのような力が、悪さをしているだけなのだ。

 果たして、そういう諸々の事情をルビーとゼニスに説明したとき、この二人はどう動くのか──。これは偏見だが、この二人は何となく、良い意味でも悪い意味でも『大人』としての価値観を持っていて、大のために小を切り捨てることを厭わない気がした。

 俺がルーミアの正体を教えることで、ルビーかゼニスがルーミアを排除してしまう可能性を考えると、どうしても口が重たくなる。……せめて、ルーミアを排除しなくても魔物の活性化問題を解決する術を見出してから、詳しい事情を説明したい。

「──アルス様、アルス様? 大丈夫ですの? いきなり黙り込んでしまって……」

「あ、ああ、悪い。大丈夫だ」

 ルビーに呼び掛けられたので、俺は考え事を一旦やめて、黄色メイドに意識を向け直した。

「無理は禁物ですわよ? えっと、それで、このメイドの処遇ですが……」

「断言は出来ないが、悪人ではないと思う。それに、こいつはルーミアの専属メイドだから、俺たちが独断で処罰するのは角が立つな」

 まずはルーミアを呼んで、黄色メイドを引き渡すとしよう。

 こいつが俺たちの会話を盗み聞きしていたのか、それとも本当に逃走経路を探していただけなのか、それは分からない。だが、後者にしても誤解を招く行動を取っていたことになるので、非はあちらにある。

 その弱みに付け込んで、現在の王城内の情勢について、有益な情報を聞き出せるかもしれない。ルーミアは俺よりも早く王城に来ていたので、持っている情報も俺より多いはずだ。

 それと、この機会に一度、ルーミアとは二人きりで、腹を割って話してみようと思う。
 
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