4 / 239
一章 孤児院卒業編
4話 壁師匠
しおりを挟む職業選択の儀式が終わって、私たちは無事に孤児院まで帰ってきた。
帰路を辿っている最中、私はずっとステホと睨めっこをしていたけど、どうして職業が二つもあるのか、答えが見つからない。
ズルをしたと思われるのも嫌なので、神父様には話さなかったけど、ちょっと不安だよ。
「マリアさん、実は……私の職業が二つもあるんですけど、これって大丈夫なんですか……?」
「二つぅ……? ありゃ、本当だね。職業が二つもある奴なんざ、初めて見たよ……」
こっそりとマリアさんにステホを見せたら、彼女も困惑してしまった。
「神父様には、黙っていたんです。不味かったですか……?」
「んー、そうさねぇ……。まぁ、あんたの職業が二つあることで、誰かが不利益を被る訳でもなし。気にしなくても、いいんじゃないのかい?」
「そう、ですかね……? うーん……。うんっ、そうですよね!」
私はマリアさんの言葉に納得して、不安な気持ちをポイッと捨てた。
もしかしたら、選べる職業が一つ多いのは、前世の私の分かもしれない。
ほら、前世では無職だったから、『今世では二人分働きなさい!』って、神様が言っているのかも。
「肝心のスキルは、どうなんだい? 最初に一つ、何か貰っているだろう?」
「あ、まだ確認してませんでした」
私はステホを握り締めながら、スキルを確認したいと念じた。
こうすることで、ステホに浮かび上がる文字が変化する。
アーシャ 魔物使い(1) 魔法使い(1)
スキル 【他力本願】【感覚共有】【土壁】
職業が二つあるし、スキルも二つあるよねって期待したけど、何故か三つもある。
一つ目のスキル【他力本願】の詳細を確かめると、『攻撃系以外のスキルの効力が増して、更には特殊効果が追加される』と書いてある。要するに、スキルを改良するスキルだね。
その代わりに、攻撃系スキルの取得不可、他者への攻撃不可という、大きなデメリットがあって──
「これが原因じゃんッ!!」
私は思わず、ステホを床に叩き付けそうになった。
私が呪いだと思っていた現象は、明らかにこのスキルが原因だよ。
蚊に刺されても、黙って見ていることしか出来ない無力感。それを思い返しながら、地団駄を踏んでいると、マリアさんが私のステホを覗き込んだ。
「スキルが三つってことは、二つが職業スキルで、一つは先天性スキルかい……。こりゃあ、珍しさの大安売りさね」
「先天性スキルって、生まれ持ったスキルってことですか……? そんなものが、あるんですね……」
どうしよう、全然嬉しくない。デメリットがなければ、諸手を挙げて喜んだのに。
「職業が二つなんて見たことないが、先天性スキルなら何度か見たことがあるさね。大抵、なんらかの欠点があるスキルだよ」
「うへぇ……。その、スキルを削除することって……」
「無理さね。諦めて、上手く付き合っていきな」
マリアさんにそう諭されて、私はガクッと項垂れた。
……でもまぁ、悪いことばっかりじゃないよ。攻撃系以外のスキルが、強化される訳だし。
気を取り直して、次は【感覚共有】というスキルの詳細を確かめる。
これは魔物使いの職業スキルで、従属させた魔物──『従魔』と私の感覚を共有出来るらしい。
自分の従魔以外には使えないし、私と従魔の距離が遠すぎても使えないけど、かなり便利だと思う。
このスキルに、【他力本願】の影響が及んでおり、感覚を共有出来る距離が大きく伸びていた。
更に、追加されている特殊効果は、五感を持たない従魔に対して、私と同等の五感を付与出来るというもの。
「目、耳、鼻がない魔物でも、私と同じように、見て、聴いて、嗅ぐことが出来るんだよね……? これ、凄いかも……」
このスキルに関して少し怖いのは、私が従魔の痛覚を共有してしまうことだ。
痛覚がない従魔に痛覚を与えたら、弱体化することになるかもだし、よく考えて使わないとね。
どの感覚を共有するのかは私が選べて、特殊効果はON/OFFの切り替えが出来る。だから、あんまり深刻になることでもないけど、きちんと留意しておこう。
最後に確認するのは、魔法使いの職業スキル【土壁】の詳細。これは名前の通り、土の壁を出す魔法だった。
魔法でも体技でも、スキルという大枠に入るんだけど、これらの違いは消耗するリソースだよ。魔力を消耗するか、体力を消耗するか、みたいな感じ。
【土壁】は【他力本願】の影響で、強度が増している。これは予想通りだったけど、追加されている特殊効果が斜め上だった。
この特殊効果に、名前を付けるとしたら、『壁師匠』だよ。
誰かが私の【土壁】を利用して修行すると、その効率が上がるらしい。
例えば、剣士が剣で【土壁】に攻撃した場合、レベルアップが早くなるってことかな。
「これで、ルークスを鍛えてあげるとか、悪くないのでは……?」
私はルークスのことが好きだ。恋愛感情は皆無だけど、親愛の情ならバケツ一杯分は溜まっている。
この世界で、彼に生き抜いて貰うために、後方腕組み師匠面をすることにしよう。
そう決めたところで、まだ私のステホを覗き込んでいるマリアさんが、渋い顔をしながら呟く。
「土壁とはまた、地味なもんを引いちまったねぇ……」
「もしかして、外れスキルですか?」
「いいや、悪くはないさね。ただ、魔法使いに何よりも求められるのは、攻撃力だからねぇ……。攻撃魔法が使える上で、土壁も使えるってんなら、重宝されるよ」
「残念ながら、攻撃魔法は私とは無縁ですね……」
マリアさんは【土壁】に低評価を入れたけど、私は特殊効果込みで満足している。
早速、ルークスを呼んで庭に出よう。
「──と、そんな訳で、今日はルークスを鍛えるために、協力者をお呼びしました」
「協力者? どこかな、見当たらないよ?」
私に連れ出されたルークスは、きょろきょろと辺りを見回している。
私は庭の地面に手を置いて、縦横五メートル、厚さ一メートルの【土壁】を出現させた。
この際に、身体からフワっとした何かが抜けていく。きっと、これが魔力だね。
「こちら、壁師匠です。まずは壁師匠に、一礼してください」
「う、うん。分かった。よろしくお願いします」
ルークスは律義に壁師匠へ向かって、深々と一礼した。
当たり前だけど、これはただの土塊だよ。生きてないからね。
さて、ここから具体的に、どう鍛えるべきか……。ルークスの職業は暗殺者だから、それっぽい攻撃を壁師匠にぶつけて貰うとか?
パッと思い付くのは、懐に忍ばせそうな暗器による攻撃。投擲なんかもそれっぽいね。
短剣があればいいんだけど、調理場にある包丁くらいしか、孤児院には刃物がない。
包丁を持ち出したら、絶対にマリアさんが怒るので、今のルークスに出来ることは──
「よしっ、決めた! ルークス、壁師匠に石を投げて。真ん中を狙ってね」
「分かった! えいっ、えいっ」
ルークスの拙い投石を受けても、壁師匠には掠り傷一つ付かない。
触ってみた感じ、鉄に匹敵するか、それ以上の硬さがある。
「うんうん、良い感じだね。……そういえば、ルークスはどんなスキルを貰ったの?」
「オレは【鎧通し】を貰ったよ! えいっ、えいっ」
そのスキルの詳細を聞いてみると、『防御力を無視する刺突攻撃を放つ』という、凄そうなものだった。
暗殺者のスキルって、他にどんなものがあるのか分からないけど、【鎧通し】は大当たりだと思う。防御力無視の攻撃なんて、弱い訳がないよね。
「実際に使っているところ、見てみたいかも。先端が尖った木の棒で、壁師匠を突き刺してみて」
「分かった! やってみる!」
ルークスは適当な木の棒を拾ってきて、壁師匠にスキル攻撃を行った。
すると、木の棒の先端が、十センチほど壁師匠に突き刺さる。
師にダメージを与えるなんて、中々やるね。師を越えて往け、ルークス……!!
「スキルを使った後の疲労感とか、どんな感じ?」
「はぁ……っ、はぁ……っ、かなり、疲れるよ。後三回も使ったら、動けなくなりそう……」
派手な動きをした訳でもないのに、ルークスは息を乱していた。体技だから、体力を消耗したんだ。
職業レベルを上げていくと、その職業に応じた能力も上がっていくらしい。
でも、暗殺者は体力の上昇がメインではないはず……。素早さとか、精神力とか、伸びるならそっちかな。
「うーん……。体力を鍛えるためのトレーニングも、したいよね……」
このまま、投石と刺突の修行を続けてもいいけど、一つ思い付いたことがある。
私は休憩を挟んで魔力を回復させながら、壁師匠を地面に寝かせるように生成して、何枚も繋げていった。
「──アーシャ、今度は何をすればいいの?」
「この上を走って。体力を付けるなら、走り込みが一番だからね。それと、足音を立てないように走るのもいいかも。それとそれと、余裕があるうちは走りながら、石も投げてね」
走るという動作は地面を蹴ることなので、その地面に壁師匠を敷けば、壁師匠が攻撃を受けている判定になる。
これなら『修行に利用している』から、ルークスの脚力と体力の向上に繋がるはずだよ。
足音を立てないように走ることは、かなり暗殺者っぽいので、これもレベルアップに繋がりそう。
走っている最中、起立させている壁師匠に向かって石を投げれば、投擲技術も伸びていく。
体力、脚力、隠密性、投擲技術を同時に鍛えられるという、素晴らしい効率の修行だ。
後はルークスの努力に任せて、私は木陰でのんびりする。頑張って、強くなってね。
「はぁ……っ、はぁ……っ、アーシャ……っ、ありがとう! 大好き!!」
「うん、どう致しまして」
一生懸命に修行しているルークスが、息を切らせながらも爽やかな笑顔で、お礼を言ってきた。
誇り高い彼には、強さに対する憧れがある。だから、明確に強くなれる道筋が見えて、とっても嬉しそうだ。
151
あなたにおすすめの小説
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。
不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。
14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる