他力本願のアラサーテイマー ~モフモフやぷにぷにと一緒なら、ダークファンタジーも怖くない!~

雑木林

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三章 スライム騒動編

71話 風纏脚

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 ニュート様がルークスたちのパーティーに入ってから、早いもので一週間が経過した。
 みんなのダンジョン探索は頗る順調で、問題らしい問題は発生していない。

 ニュート様は私のお店で、住み込みのアルバイトをするつもりだったけど、ルークスたちのパーティーの一員になったから、予定変更。今はパーティーの資金を使って、宿屋に泊っているよ。
 その資金で装備も買い揃えたから、私がお世話をする必要はなくなった。
 でも、庶民のイロハはたまに教えているんだ。

 みんなは以前まで、毎日のようにダンジョン探索をしていたけど、最近は定期的に休日を設けている。
 まぁ、身体を休めるための日じゃないから、厳密に言えば休日じゃないかもしれない。何をしているのかというと、特訓だよ。

「──ふぅ。この速度にも、ようやく慣れてきた」

 ずっと走り込みをしていたルークスが、その場で息を整えながら、額の汗を拭った。
 私の従魔であるティラが、やや遅れてルークスに追い付き、その後ろからトール、ニュート様、シュヴァインくん、フィオナちゃんの順番で追い付く。

 私たちは朝早くから、冒険者ギルドの練習場に集まって、延々と走っては休憩、走っては休憩を繰り返しているんだ。
 私だけは休憩の頻度が多いけど、冒険者じゃないから仕方ないね。

 この特訓の目的は、私のスキル【風纏脚】を利用した移動に慣れることだよ。
 このスキルは私が指定した対象の脚に風を纏わせて、走る速度を四倍まで上昇させてくれる。ゲーム風に言うなら、迅速状態のバフを付与するって感じかな。

 一般的な【風纏脚】だと二倍速が限界なんだけど、私の場合は攻撃系以外のスキルを強化するという、先天性スキル【他力本願】があるから、四倍速なんて滅茶苦茶な速さになっていた。
 しかも、宙を踏み締めて跳躍出来るという、特殊効果まで追加されている。

 無論、これらは喜ぶべきことなんだけど……いきなり四倍の速さで走れるようになっても、足が縺れたり、体力が足りなかったり、とにかく身体が追い付かない。
 今のみんなは、ジェットエンジンを搭載した軽自動車みたいなものだよ。
 宙を踏み締めて跳躍するのだって、姿勢の制御が難し過ぎるという問題がある。

「そんな訳で、特訓が必要なんだよ。みんなー、頑張ってー」

「テメェも頑張れや!! なンで早々に、自分のスキルを使いこなすこと諦めてンだァ!?」

 長々と休憩している私が声援を送ると、トールに怒鳴り付けられてしまった。
 私は運動音痴だから、【風纏脚】の四倍速に慣れるなんて無理だよ。
 私の代わりにティラが頑張っているから、それで許して貰いたい。魔物使いと従魔は一心同体だからね。
 
「はぁ……っ、はぁ……っ、アーシャ……っ、あんた、特訓しないのに、なんで来たの、よ……?」

 魔法使いだから体力が人並みなフィオナちゃん。彼女は盛大に息を乱しながら、私にそう問い掛けてきた。

「私は運動音痴だけど、運動不足にはなりたくないからね。適度に走っておこうと思って」

「こっちは、必死だってのに……っ、近くでのんびりされると、ムカつくわ……!! あたしだけっ、脚が太くなったら……っ、恨むんだからね……っ!!」

「まぁまぁ、涼しい風を送ってあげるから、落ち着いてよ」

 私はスキル【微風】を使って、フィオナちゃんに扇風機の設定『強』くらいの風を送った。
 このスキルにも【他力本願】の影響で、特殊効果が追加されている。それは精神を安定させる効果で、プリプリしていたフィオナちゃんが、あっという間に平常心を取り戻したよ。
 私が怒りっぽいトールにも【微風】を送っていると、ニュート様がルークスに一つ提案する。

「ルークス、そろそろ流水海域の第三階層に挑まないか? アーシャの支援を貰っている状態なら、余裕を持って探索出来るはずだ」

「そうだね、オレは賛成だよ。反対の人はいる?」

「いるワケねェだろォがッ!! 行くぜェッ!! 第三階層ッ!!」

 平常心を取り戻していたトールが、一瞬で闘志を漲らせて、賛成しながら拳を突き上げた。

「あたしも別にいいけど……難易度的には、無機物遺跡の第一階層が先じゃないの?」

 冒険者のセオリー通り、簡単なところから順番にダンジョン探索をするなら、フィオナちゃんの言う通りだ。
 無機物遺跡はこの街にあるダンジョンの一つで、鉱物の塊みたいな魔物が出現する場所だね。
 そっちの第一階層が、流水海域の第二階層と同程度の難易度だから、今のルークスたちなら問題ないと思う。

「無機物遺跡は人気の稼ぎ場だ。ただし、稼げるのは金だけで、レベル上げには適していない。ワタシは実際に行ったことがあるが、人が多すぎて敵を見つけるのも一苦労だった」

「なら却下だ!! 俺様はレベルを上げてェンだよ!!」

 ニュート様が齎した情報を聞いて、トールはムスッとしながら仲間たちを睨み付けた。一考の余地すらないって態度だね。
 ここで、普段はパーティーの方針に対して、あんまり口を挟まないシュヴァインくんが、勇気を振り絞ったような挙手をする。

「ぼ、ボクもっ、流水海域の、第三階層……っ、行きたい……!!」

「シュヴァイン……? らしくないわね。どうしたのよ、そんなに張り切って」

「ボクっ、強くなりたいんだ……!! 弱いままじゃ、誰も守れないし……それに……」

 実は、シュヴァインくんには新たな目標がある。
 それは、スイミィ様の寿命を延ばすための、何かを見つけることだ。
 あの子はスキル【生命の息吹】を使って、自分の生命力の半分をシュヴァインくんに譲渡している。

 それは寿命が半分減ることと同義だから、シュヴァインくんは恩義と罪悪感と下心に駆られて、スイミィ様に『必ずどうにかする!』という内容の手紙を送ったんだよ。
 どうして私が知っているのかというと、手紙の推敲を頼まれたからだね。

 その手紙には口説き文句が散見していたから、彼のハーレム作りを手伝っているみたいで、物凄く嫌だったけど……ソウルイーターの事件で頑張ってくれたから、多少は甘くなってしまう。

「よしっ、じゃあ決まり! 明日から、流水海域の第三階層へ行こう!」

 ルークスがそう宣言して、パーティーの方針が決定してしまった。
 正直、私はこの決定を好意的に捉えることが出来ない。
 みんな、今のままでもそれなりに、お金を稼げているんだ。未知の危険になんて飛び込まず、現状維持で平穏に暮らして貰いたい。

 こんなことなら、特訓を長引かせれば良かった。そう思って、私は地面に敷いていた【土壁】を軽く睨む。
 私のスキル【土壁】──通称『壁師匠』は、修行に利用すると経験値効率が上がるという、とても有難い特殊効果が追加されている。これも【他力本願】の影響だよ。
 【風纏脚】のバフ効果に慣れて貰うために、壁師匠を頼ったんだけど、余計なことだったかも……。みんなのモラトリアムを削っちゃった。
 
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