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六章 聖女の墓標攻略編
173話 顔合わせ
しおりを挟むスイミィ様とリヒト王子。この二人の面倒を見ることが決まったところで、スイミィ様から一つ注文があった。
「……スイ、もう貴族ちがう。……姉さま、気安くして」
「気安く……? それじゃあ、スイミィちゃん……?」
私が呼び方を変えると、彼女はコクコクと首を縦に振った。
今後はスイミィ様改め、スイミィちゃんと呼ばせて貰おう。
最初に出会ったときは、侯爵令嬢だなんて知らなかったから、『スイミィちゃん』って呼んでいたんだよね。なんだか懐かしい。
「ぬぅ!? 我にも気安く接して欲しいのだ!! 何故ならっ、友達だから!!」
「そうだね。リヒトくん、でいいかな?」
「うぬっ! それで構わぬ!! 採用!!」
リヒト王子改め、リヒトくん。彼の呼び方も改めたところで、ローズが私の肩をトントンと叩く。
「アーシャよ、一気に二人も同居人を増やすつもりかの? 家が随分と、手狭になってしまうのじゃが……」
「あ、そっか……。お金はあるし、そろそろ新居を買う頃合いかもね」
以前は表通りに面した家じゃないと、防犯の面で不安があったけど……従魔たちが頼もしくなったので、今なら立地条件には拘らなくてもいい。
スラ丸がいれば、お店と新居の行き来は簡単だから、冒険者ギルドの近くじゃなくても大丈夫だよ。
「嫌にゃあああああああっ!! 可愛いメスは大歓迎にゃ!! でもっ、そっちのオスは嫌にゃあああああああああああっ!!」
突然、今まで黙って成り行きを見守っていたミケが、癇癪を起こしてジタバタし始めた。
私はお馬鹿なミケを無視して、腕を組みながら思案する。
「うーん……。もういっそ、みんなで住めるお屋敷が欲しいなぁ……」
私、ルークス、トール、シュヴァインくん、フィオナちゃん、ニュート、ミケ、スイミィちゃん、リヒトくん。
そこに従魔たちが加わって、かなりの大所帯になるけど、白金貨が百枚もあれば、十分な大きさの家を買えると思う。
早速、みんなを集めて、不動産屋へ行ってみよう。
私はステホでルークスと連絡を取り、仲間たちを集合させることにした。
──夕方になってから、冒険者ギルドの表通りで、ニュートとスイミィちゃんが感動の再会を果たしたよ。
「スイミィ!? ここで何をしている!?」
「……兄さま、おひさ」
スイミィちゃんが両腕を広げながら、抱き着くためにトテトテと駆け出した。
ニュートは驚愕しながらも、大切な妹を抱き締める準備をして──何故か、スイミィちゃんはシュヴァインくんに、ギュッと抱き着く。
いや、何故も何も、彼女はシュヴァインくんに惚れているんだ。
しばらく会えなかった兄よりも、意中の男の子の胸に、飛び込みたかったんだろうね。
「……シュヴァイン、会いたかった」
「す、スイミィちゃん……!! ぼ、ボクも……その、会えて嬉しい、よ……?」
シュヴァインくんは顔を真っ赤にして、スイミィちゃんを抱き返そうとした。
しかし、彼の後ろからヌルっと、フィオナちゃんが顔を覗かせる。
「シュヴァイン……。あんた、あたしの目の前で、他の女とイチャイチャするつもり……? フフ、フフフ……。いい度胸ね……?」
フィオナちゃんの怒気と呼応するように、彼女の全身から灼熱の魔力が迸った。
街中で魔法をぶっ放されたら、洒落にならない。
シュヴァインくんは『ひぃっ!?』と悲鳴を上げて、スイミィちゃんの背中に回す予定だった両手をあげる。ホールドアップ、降参だよ。
「……フィオナ、おひさ。ばいばい」
「ばいばいはしないわよ!! あんたは相も変わらずのっ、泥棒猫っぷりね!?」
「……スイ、泥棒ちがう。……フィオナ、シュヴァインと別れた」
スイミィちゃんの言う通り、フィオナちゃんはシュヴァインくんと別れたんだ。
でも、まだまだ相思相愛らしい。シュヴァインくんの浮気性を治すために、フィオナちゃんは恋の駆け引き的なやつを仕掛けて、一時的に『友達以上、恋人未満』という、私には理解出来ない高度な関係を保っている。
「シュヴァインっ!! 今日から縒りを戻すわよ!! いいわね!?」
「う、うん……っ!! わ、分かった……!!」
フィオナちゃんがシュヴァインくんに、怒った顔を急接近させて、メンチを切りながら復縁を迫った。
シュヴァインくんは一も二もなく頷いて、めでたく恋人同士に戻ったよ。
どうせこれからも、破局と復縁を繰り返すんだろうなって、私はなんとなく察しちゃった。
「……シュヴァイン、スイも。……スイも、恋人なる」
「う、うん……っ!! わ、分かっ──」
「分かるなぁっ!! シュヴァイン!! あたしの許可なくっ、新しい女を作るんじゃないわよッ!! あたしが認めているのは、アーシャだけよ!? それを忘れないで!!」
スイミィちゃんも痴れっと、恋人の座に収まろうとしたけど、フィオナちゃんが透かさずブロックした。
シュヴァインくんのハーレムは、正妻であるフィオナちゃんの許可制らしい。
どういう訳か、私が認められているけど、そこに入るつもりは一切ないからね。
男性視点だと、羨ましいであろう三角関係。
それが繰り広げられている横で、ニュートは雨の日に捨てられた猫みたいな顔になっている。……雨、降ってないんだけどね。
大切な妹であるスイミィちゃんと、再会の喜びを分かち合うはずが、酷くあっさりした挨拶で終わってしまったんだ。落ち込むのも無理はない。
余りにも居た堪れないので、私が声を掛けてあげよう。丁度、渡さないといけないものもあるし。
「ニュート、これを受け取って」
「──ッ!? ど、どうして、アーシャがこれを持っているんだ……!?」
私が一刺しの凍土を差し出すと、彼はハッとなって詰め寄ってきた。
「ええっと、ライトン侯爵から貰ったんだけど……手紙を読んで貰った方が、早いかな」
私は一刺しの凍土と一緒に、ライトン侯爵から貰った手紙をニュートに押し付ける。
彼はそれを読んで、諸々の事情を把握した後、『今後はワタシが妹の面倒を見る!!』と啖呵を切った。
そうだよね、お兄ちゃんだもんね。
「アーシャ、そっちの子は誰なの?」
そう尋ねてきたルークスの視線の先には、私の背中に隠れているリヒトくんの姿があった。
普段の快活な彼は鳴りを潜めて、すっかりと人見知りを発症させている。
「この子はリヒトくん。元王子様で、今は普通の庶民だよ。私が面倒を見ることになったから、仲良くしてあげてね」
「そっか、分かった! オレはルークス、よろしく!」
「う、うぬ……。よろしくしてやらないことも、ないのだ……」
リヒトくんは少し前まで、友達が皆無だった。
『王子』という大きな肩書もなくなったし、いきなり同年代の子供たちに囲まれて、接し方が分からなくなっているっぽい。
どうやって、フォローしたものか……。
私が悩んでいると、トールが突っ掛かってきた。
「オイっ、アーシャ!! また男を拾いやがったのか!? クソ眼鏡を拾ったときと、同じパターンじゃねェか!!」
「人聞きが悪いから、男を拾ったって言い方、やめてね」
「事実だろォがッ!!」
まぁ、確かに事実だけど、邪な気持ちは皆無だよ。
新年祭でトールとの蟠りを解消したので、私はお友達として、物怖じせずにお願いする。
「トール、リヒトくんを気に掛けてあげて。頼れる兄貴分になってくれたら、私は嬉しいよ」
リヒトくんは身分と父親を同時に失って、不安で堪らないはずなんだ。味方は一人でも多い方が、彼も心強いと思う。
私の真剣な眼差しに、トールはたじろぎながらも、渋々と承諾してくれた。
「うっ……くっ、チッ! わーったよ!! オイっ、リヒトとか言ったかァ!? テメェっ、俺様のことは兄貴って呼べ!!」
「い、いきなり何を言い出すのだ……? ハッ!? ま、まさかっ、我らは物心が付く前に生き別れた兄弟!? 生まれたばかりの兄貴は魔物に攫われて、成長した我は兄貴を探す旅に出た。そして、旅の途中で伝説の剣を手に入れ、勇者として魔王を倒す使命を授かる。勇者リヒトの旅の果てに待ち受けていたのは、恐ろしき魔王となっていた兄貴だった……!! 悲しき運命の物語が、幕を開けて──」
リヒトくんが中二病の発作を起こして、あり得ない妄想を展開させたけど、トールの拳骨を食らって中断させられる。
「意味分かンねェこと、ペラペラ囀ってンじゃねェぞ!! テメェ、冒険者登録は済ませたのか!?」
「ま、まだなのだ!! 兄貴!!」
「ンじゃァ、俺様が色々と教えてやるぜ!! 付いて来いやッ!!」
トールはリヒトくんを引き連れて、冒険者ギルドへと向かってしまった。
これからみんなで、新居を選びに行く予定だったんだけど……まぁ、いいか。あの二人は抜きでも。
「アーシャ、オレもトールたちに付いて行くよ。また後で合流しよう!」
ルークスはそう言い残して、トールたちの後を追い掛けて行った。
これで、新居を選びに行くメンバーは、私、シュヴァインくん、フィオナちゃん、ニュート、スイミィちゃんの五人になったよ。
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