他力本願のアラサーテイマー ~モフモフやぷにぷにと一緒なら、ダークファンタジーも怖くない!~

雑木林

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六章 聖女の墓標攻略編

184話 下着泥棒

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 ──お風呂場まで移動してから、私はスキル【過去視】を使った。
 そうして、この場の過去の様子を覗き見すると、予想外の光景を捉えてしまう。
 なんと、丸っこいブタさんのぬいぐるみが、下着をハムハムと食べていたんだ。

 そいつの大きさは三十センチ程度で、金髪縦ロールのカツラを被っている。
 私には見覚えがないけど、ぬいぐるみと言えば、スイミィちゃんかな?
 彼女は丸っこいぬいぐるみが大好きで、自分の部屋に幾つも飾っていたはずだよ。 

『ふひっ、ふひひひひっ、美少女のおぱんちゅ、おいちいですわぁ……っ!! わたくしっ、感無量ですの……っ!!』

 ブタさんのぬいぐるみは、やや甲高い少女の声色と、お嬢様っぽい口調で喋っていた。
 もうね、この時点で私は理解したよ。このぬいぐるみが、ド変態だって。
 フィオナちゃんとスイミィちゃんの下着を食べた後、ぬいぐるみは浴場を覗き見して、二人が出てくる直前で立ち去った。

 私はその行方を追って、お屋敷の中を歩き──最終的に、スイミィちゃんの部屋に到着したよ。
 私に付いてきたフィオナちゃんとミケが、揃って首を傾げる。

「まさか、犯人はスイミィなの……? あいつ、あたしと一緒に、お風呂に入っていたわよ?」

「はにゃあ……? スイミィはメスにゃんだよ? どうしてメスが、同じメスのパンツを盗むのかにゃあ?」

「いや、スイミィちゃんは関係ないと思うけど……どうかな? とりあえず、犯人がこの部屋に入ったのは、間違いないよ」

 私がコンコンと扉をノックすると、スイミィちゃんがひょっこりと顔を覗かせて、部屋に招き入れてくれた。

「……姉さま、おはよ。……何用?」

「実は、丸っこいブタさんのぬいぐるみを捜しているの。それが、下着泥棒みたいで……」

 スイミィちゃんの部屋の中には、大小様々なぬいぐるみが、百個くらい置いてある。
 その大半が、丸っこいぬいぐるみだけど──あった! 金髪縦ロールなんて目立つ特徴があるから、すぐに見つかったよ。

「えっ、こいつが犯人なの? どう見ても、ただのぬいぐるみよね……?」

 フィオナちゃんが訝しげに、ブタさんのぬいぐるみを突っつくと、この子の目が少しだけ泳いだ。
 私はぬいぐるみの口に手を突っ込んで、ごそごそと中を漁る。

「──これ、だよね? 二人の下着」

 布を掴んだので引っ張ってみると、二枚の下着が出てきたよ。
 大人の勝負下着みたいなデザインの代物と、布面積が少ない紐の下着。
 前者は赤色で、フィオナちゃんのもの。後者は青色で、スイミィちゃんのもの。
 二人とも、おませさんだね……。私なんて、シンプルかつ安価な、白い木綿のやつなのに。

「これは確かに、あたしの下着ね。スイミィ、どういうこと?」

「……スイ、知らない。……この子、勝手に食べた」

 フィオナちゃんの問い掛けに、スイミィちゃんは小さく頭を振る。嘘を吐いている様子はないよ。
 だとすれば、ぬいぐるみが勝手に動いて、勝手にやったことだ。
 私たちがジトっとした目で、ぬいぐるみを凝視すると、ミケが何食わぬ顔で手を伸ばしてきた。

「この謎を解明するために、みゃーが二人のパンツを預かっておくのにゃ。調査結果は後日、ご報告させて貰いますにゃあ」

「「「…………」」」

 女子三人で白い目を向けると、ミケは耳と尻尾を萎れさせて、無言で手を引っ込めた。
 私はミケから視線を切って、再びぬいぐるみを見つめ、審判を下す。

「よく分からないから、燃やそっか」

「ひぇっ!? ま、待ってくださいまし!! わたくしっ、悪いぬいぐるみではありませんの!!」

 突然、ぬいぐるみが喋り出して、フィオナちゃんとミケが驚愕する。

「しゃ、喋ったぁ!? 何よこいつッ、魔物!?」

「にゃにゃっ、これはメスの声だにゃあ!! しかもっ、中々の美少女にゃんだよ!!」

 フィオナちゃんの疑惑通り、魔物だったら怖いね。
 人語を使える魔物という時点で、かなり知能が高いんだ。
 私はステホを使って、ぬいぐるみを撮影してみる。

 こうして判明したのは、種族名が『ゴースト』で、持っているスキルは【憑依】だということ。
 このスキルは、自分よりも弱い相手だったり、魂がない物体に乗り移れるスキルらしい。
 ゴーストは死霊系の魔物で、聖女の墓標にいるシスターゴーストの、進化前の種族だと思う。

「ぬいぐるみは乗っ取られているだけで、幽霊の魔物が本体みたいだよ」

「へぇ……。乗っ取りって、かなり凶悪な魔物よね? 早く始末した方がいいわよ」

「うん、そうだね。ここはスラ丸の【浄化】で──」

 私とフィオナちゃんが、幽霊退治の算段を付けていると、ぬいぐるみが涙声で叫ぶ。

「だ、だからっ、待ってくださいまし!! わたくしは悪いぬいぐるみ──もとい、悪い幽霊じゃありませんの!!」

「いやいや、下着を盗んだでしょ? なんの捻りもなく、普通に悪い幽霊だよ」

「うぐっ、そ、それは……その、お屋敷に住んでいる女の子たちが、余りにも可愛くて……つい、出来心で……」

「出来心って、免罪符にはならないよね。スラ丸、成仏させてあげて」

 私はスラ丸を掲げて、スキル【浄化】を使わせた。
 すると、ぬいぐるみが清涼な光に包まれて、『あばばばばば!!』と悲鳴を上げたよ。
 数秒後に光が収まると、ぬいぐるみから一人の少女が飛び出す。

 彼女の年齢は十代半ばで、ボリュームがある金髪縦ロールと、薄紅色の瞳を持っている。
 目尻が少し吊り上がっていて、なんだか悪役令嬢っぽい顔立ちかも……。
 服装は見窄らしい灰色の襤褸で、全身が半透明だから、如何にも幽霊って感じだね。

 ちなみに、彼女が外に出たことで、ブタさんのぬいぐるみから、金髪縦ロールが消えたよ。
 この髪型が憑依されている目印なら、物凄く間抜け……もとい、分かりやすい。

「ゆ、許してぇ……っ、許してくださいまし……!! わたくし、まだ死にたくありませんわ……!!」

「まだっていうか、もう死んでいるわよね」

 フィオナちゃんがそう指摘すると、ゴーストはポロポロと涙を零し始めた。

「それはそうですが……っ、生前は志半ばで処刑されてしまったので、このままでは死んでも死に切れませんの……」

 このゴースト、何やら訳ありらしい。
 私がフィオナちゃんとスイミィちゃんを見遣ると、二人とも判断に困っているみたいで、『任せる』とアイコンタクトを送ってきた。

「にゃあ、ご主人……。少しくらい、事情を聴いてあげたら、どうかにゃあ……?」

「うーん……。まぁ、そうだね。少しくらいなら……」

 ミケの提案に頷いて、私はゴーストの言葉に耳を傾ける。

「うぅっ、感謝致しますわ……!! まずは、自己紹介から……わたくし、名前はリリィと申しますの。元々は普通の人間で、このお屋敷で暮らしていた大商人の娘……の、影武者でしてよ。お仕事を全うした後に、気が付けばゴーストになっておりましたわ……」

 リリィの出自は、寂れた農村だったらしい。
 お嬢様の影武者だから、似非お嬢様ってことだね。
 このお屋敷で暮らしていた大商人は、何十年も前からスキル【収納】を使って、荒稼ぎしていた人物だ。

 そして、コレクタースライムの普及によって、一気に儲けが減ったので、魔物使いたちを殺すために暗躍していた。当然、既に処刑されている。
 連座で家族も処刑されたらしく、その際にリリィは影武者として、お嬢様の代わりに死んだとか……。

「つまり、リリィは悪いことをした訳じゃないけど、殺されちゃったってことね?」

「そうですわ!! その通りですわ!! わたくしは可哀そうなっ、似非お嬢様ですの!!」

 フィオナちゃんが確認を取ると、リリィは力強く肯定した。
 私は事の真偽を確かめるために、リリィの目を見て【過去視】を使う。
 これによって、彼女が本当のことを言っているのだと、理解出来たよ。

 リリィが生まれた農村は、件の大商人に多額の借金をしており、彼女は返済のために身売りしたんだ。
 そんな境遇でも腐らず、リリィは真面目に働いていた。
 影武者としての仕事がないときは、ポーション作りをしていたみたい。
 生前にも、お嬢様の下着を盗むという、言い逃れ出来ない悪事を働いていたけど……まぁ、総合的に見て、悪い子ではないのかな。

「リリィ、貴方はポーション作りが得意なの?」

「よくぞ聞いてくれましたわ!! 得意というよりも、わたくしの生き甲斐ですの!! 生前の心残りは、そこに関係しておりましてよ!!」

「ふぅん……。どんな心残りか、教えて貰える?」

 私が尋ねると、リリィは生き生きとした表情で、胸を張って夢を語る。

「わたくしっ、生やすポーションを作りたいんですの!!」

「生やす……? 生やすって、髪の毛とか?」

「違いますわよっ!! わたくしはっ、自分の股間に!! おちん〇んを生やしたいんですのッ!!」

「スラ丸、【浄化】して」

 私の命令に従って、スラ丸がリリィに【浄化】を浴びせる。
 彼女は再び『あばばばばばば!!』と、電気でも流されたかのような悲鳴を上げた。 

「……姉さま、落ち着く。……性別、ふくざつ」

 スイミィちゃんに諭され、私はハッとしてスラ丸を止めた。
 性別の問題は慎重に取り扱わないと、世間様が煩いからね。
 私が自分を戒めていると、フィオナちゃんが率直な疑問を口に出す。

「要するに、リリィは男になりたいの? 心身の性別が不一致ってやつ?」

「ち、違いますわ……。わたくし、心身共に女ですの……。でもっ、おちん〇んを生やして、可愛い女の子とイチャイチャしたいのですわぁ……」

 瀕死のリリィが胸の内を吐露すると、ミケが宇宙という概念を知った直後の、猫みたいな表情を浮かべた。

「ご主人……。このメスは一体、何語を使っているのかにゃあ……?」

「普通に人語だよ。多様性って、凄いよね」

 私、フィオナちゃん、スイミィちゃん、ミケ。四人で真顔を突き合わせて、これからどうしようかと話し合う。
 追い出すか、成仏させるか、その二択が真っ先に思い浮かんだけど……リリィは魔物だから、テイムという選択肢もある。
 ポーション作りに精通していて、情熱も凄まじいので、悪くない働き手になりそうだよ。

 でもなぁ、ド変態の下着泥棒だし、どうしたものか……。
 
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