他力本願のアラサーテイマー ~モフモフやぷにぷにと一緒なら、ダークファンタジーも怖くない!~

雑木林

文字の大きさ
218 / 239
七章 新生活の始まり

215話 大事な仕込み

しおりを挟む
 
 ──女性の遺体と、産まれ立ての赤ちゃん。
 その二人を何度も見比べて、私は盛大に狼狽えてしまう。

「えぇっ、えぇぇ……っ!? ど、どうしよう!? スラ丸っ、どうしたらいいの!? 赤ちゃん! 赤ちゃんだよ!!」

「!?」

 思わずスラ丸に掴み掛かったけど、この子はプルプルしているだけで、頼りにならない。
 一先ず、深呼吸を挟んでから、状況を推理してみる。

 恐らく、刺客は貴族の女性と一緒に、胎児も殺そうとしたんだ。
 しかし、奇跡的に刃が外れたのか、胎児だけは無事だった。
 瀕死の重傷を負った女性は、最後の力を振り絞って、出産したのかもしれない。

「……だとすれば、凄いね。母親って偉大だよ」

 まぁ、出産してから殺された可能性もあるし、刺客が態と赤ちゃんを見逃した可能性もある。
 スラ丸の視点から、私の本体のスキル【過去視】を使えば、答え合わせが出来るけど……必要ないかな。
 残酷な光景は見たくないので、過去を覗き見するのはやめておこう。

「見捨てる訳にもいかないし……スラ丸、この子を保護してあげて」

 私はスラ丸を保育器の代わりにして、赤ちゃんを入れておく。
 念のために、赤ちゃんにポーションを与えてから、へその緒を切っ──れない!
 へその緒が硬いとかじゃなくて、【他力本願】のデメリットである『攻撃不可』に、引っ掛かってしまったんだ。

 仕方がないので、スラ丸に消化して貰ったよ。
 それから、遺体の回収もしておく。
 貴族の女性だけじゃなくて、騎士や刺客の遺体、ついでに遺留品も、全部纏めてスラ丸に回収させた。

 ちなみに、赤ちゃんの性別は男の子だ。髪と瞳は真っ黒で、左の側頭部に一房だけ、白銀色の髪が生えている。

「この子、全然泣かないなぁ……。元気がない訳じゃ、なさそうだけど……」

 赤ちゃんは随分と大人しくて、ジーーーッと私を見つめているよ。
 余りにも可愛すぎて、何時間でも見つめ合えそうだ。
 私が指を差し出してみると、ギュッと握り締めてくれた。

「くぅーーーっ!! か、可愛い!! うちの子にしたい!!」

 とりあえず、一旦帰還して、これからのことを考えよう。


 
 赤ちゃんを連れて、イーシャを帰還させた後、私はローズに相談を持ち掛けた。

「──と、そんな訳で、どうしたらいいと思う?」

「どうもこうもなかろう。家に帰してやるべきなのじゃ。母親は既におらずとも、父親はおるかもしれん」

「あー、そっか……。そうだね……。そうだよね……」

 母性本能が刺激されていたから、私は自分で育てる気満々になっていたけど、確かに家に帰してあげるべきだ。
 赤ちゃんの命の恩人ということで、イーシャをメイドにして貰えるかもだし。

「うーむ……。折角助けたのに、これではイーシャが下手人の一味だと、思われ兼ねないのぅ」

「えっ、そうなの? 命の恩人なのに?」

「刺客の襲撃を受けて、赤子だけが生き残ったのじゃ。その赤子をダシにして、貴族家に取り入ろうとするメイド……。冷静に考えて、怪しさ満点であろう」

 ローズに指摘されて、確かに……と私は納得した。
 客観的事実を並べると、どう考えても怪しさ満点だね。

「でも、私にはスキル【偽装】があるから、審問官の追及を躱せるよ?」

 ここで私は、ローズに伝えていなかったスキルの詳細を説明した。
 彼女は感心したものの、意見を変えることはしない。

「其方は怪しさ満点の状態で、尋問を受けるのじゃぞ。であれば、審問官に身の潔白を証明しても、様々な憶測が飛び交うのではないかの?」

 ローズはそう言って、一本ずつ指を折りながら、飛び交うであろう憶測の例を挙げた。
 審問官が嘘を吐いているとか、私が無自覚なまま敵に手を貸しているとか、犯罪者としての記憶が封印されているとか、色々と考えられるみたい。
 レイヴンソードは帝国貴族の中でも、かなりの権勢を誇る公爵家なので、無数の搦め手を警戒している。というのが、ローズの予想だよ。

「うーん……。それじゃあ、イーシャを公爵家に入れるのは、諦めた方がよさそう……?」

「そうじゃの。今回ばかりは、難しいのじゃ」

 そっか、と私は肩を落として──ふと、悪魔的な発想が脳裏を過った。
 助け出した赤ちゃんを双子ということにして、イーシャを生後一週間くらいまで若返らせ、その双子の片割れにする。……これ、どうだろう?

 『赤ちゃんを助けた人間が、メイドとして取り入ろうとしている』と、この構図は怪しさ満点なので、採用出来ない。
 でも、『赤ちゃんを助けた人間が、颯爽と立ち去る』だったら、裏があるようには思われないよね。

 思われたとしても、私はすぐに立ち去る訳だし、尋問は出来ない。
 赤ちゃんイーシャは返却という体で、公爵家に押し付ける訳だけど……赤ちゃんに尋問はしないでしょ。

 この搦め手は、どんな警戒の網だって擦り抜ける気がする。
 とりあえず、ちょっとしたカバーストーリーを考えてみよう。
 あんまり難しくすると、自分が忘れてしまうから、出来るだけ簡単なやつがいい。

 『私は貴族の女性を助けたけど、彼女は既に致命傷を負っており、赤ちゃんを産んでから力尽きた』

 『私は貴族の女性から、赤ちゃんを公爵家のお屋敷に送り届けるよう、最期に頼まれた』
 
 『赤ちゃんは双子だった』

 これなら、イーシャをレイヴンソード公爵家の人間に出来る。
 幸いにも、髪と瞳の色は似ているんだ。私の黒髪黒目は光の当たり方次第で、深みのある綺麗な濃紺色に見えるけど……誤差の範疇だと信じよう。

 当然、容姿は似ていないので、疑われる可能性は低くない。
 しかし、血統を調べるマジックアイテムを使われたとしても、イーシャには【偽装】があるから問題ないよ。

 公爵家の娘という身分が手に入ったら、ルチア様に接触する機会が一気に増えると思う。
 保護した赤ちゃんの成長も見守れるし、一石二鳥の名案かもしれない。

 ……一つ、大きな問題があるとすれば、心情的に躊躇われることだよね。
 人様の家族の中に、異物として混入する訳だし、日に日に罪悪感が募りそう。

「で、でも、赤ちゃんが刺客に襲われたら、結界で守ってあげられるし……!!」

 私は大義名分を振り翳して、自分の心に『やれ!』と命じた。
 貴族の女性が刺客に狙われた以上、彼女の子供も狙われるかもしれない。
 そんなときに、私が双子のお姉ちゃんとして、この子の傍にいたら、結界で守ってあげられるよ。

 赤ちゃんが複数のスキルを持っているのは、かなり不自然なので、【対物結界】を先天性スキルということにして、他のスキルは【偽装】で隠そう。
 ルチア様に接触するには、イーシャの成長を待つ必要があるから、数年の時を要するかな。

 まぁ、ルチア様の美しさが陰るまでは、ルークスも暴走しないと思うし、きっと十年以上の猶予はある。
 並行して、早期解決の手段も探すけど、イーシャを公爵家の令嬢にする計画は、仕込んでおこう。

「ええっと、今後の注意事項は──」

 本体では常に、スキル【光輪】を使っておく必要がある。並列思考を維持して、イーシャを動かさないとね。
 結界師と音楽家、【対物結界】と【偽装】、これらの職業とスキルは、数年間も本体に戻せない。
 それと、自由に使える分身の数が減ってしまう。

 並列思考にも慣れてきたので、分身をもう一人増やして、動かす練習を始めようかな。
 あいうえお順で、ウーシャまでは出しているから、次はエーシャだよ。
 
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる

暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。 授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。

みそっかす銀狐(シルバーフォックス)、家族を探す旅に出る

伽羅
ファンタジー
三つ子で生まれた銀狐の獣人シリル。一人だけ体が小さく人型に変化しても赤ん坊のままだった。 それでも親子で仲良く暮らしていた獣人の里が人間に襲撃される。 兄達を助ける為に囮になったシリルは逃げる途中で崖から川に転落して流されてしまう。 何とか一命を取り留めたシリルは家族を探す旅に出るのだった…。

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

処理中です...