死にたがりの悪役令嬢はバッドエンドを突き進む。

采火

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死にたがりの悪役令嬢は

ハッピーエンドを掴みとる?4(side.スーエレン)

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「スーエレン嬢、落ち着くといい」

 周りの見えていない私の耳に重低音の声が響く。
 顔をそちらに向ければ、セロンに目線で座るように促される。あ、はい、すみません。

 ソファに座り直すけど、なんだか居心地が悪い。本当にエルバート様は普段外で何を言っているの……。

「大丈夫、スーエレン様はちゃんとエルバート様に愛されてますよ」

 他人事のように言うヒロインをジト目で睨めば、にっこりと笑い返される。む~、どれだけ睨んでも堪えない……! このヒロイン、メンタル強くないですか!?

「それにエルバート様がスーエレン様を好きな理由はよく分かるというか、なんというか……」
「え? 本当? 教えてくれる?」

 お茶を濁すようにヒロインが言うけど、私はそれが一番知りたいの! 教えて!

 じぃっとヒロインを見つめていると、ヒロインは人差し指を立てて「内緒」とか言ってくる。
 何でよ! 一言! 一言言うだけじゃない!

 つい拗ねてしまって頬を膨らませるという、非常に令嬢らしからぬ事をしてしまったら、ヒロインに笑われる。

「ふふ、そういうとこだよ。そういうところが、エルバート様がスーエレン様を好きな理由じゃないかなぁ」
「意地悪ね。よく分からないわ」

 顔によく出るところ? でもそれって記憶を取り戻す前の私には当てはまらないのでは?
 謎が謎を呼んだだけだよ……教えてよ……ヒロインの癖に……。

「……あなたはヒロインだからまだ気ままでいいけれど、私はエルバート様の好意で生かされてるに過ぎないの。訳もわからずただ愛を享受するだけの今の状況が、とても怖いのよ」

 ヒロインがあんまり意地悪を言うものだから、思わず嫌味が出てしまう。
 私の言葉に、ヒロインだけじゃなくて、セロンとアイザックまでも息を飲んだ気配がした。

 しまった、自分で蒔いた種だけど、重たい空気になってしまうのは申し訳ない。慌てて話題を転換しようと思ったら、ヒロインが突然立ち上がった。そしてテーブルを回って、私に飛び付いてく、る!?

「ふぇ!?」
「大丈夫、大丈夫だから」

 ヒロインの声が震えてる。首に回ったヒロインの腕が、ぎゅっと私を強く抱き締めてくる。

 何がヒロインにそうさせたのか分からなくて、私は驚きのあまりに固まってしまう。

 だけど耳元で囁かれた言葉は、ひどく優しくて。

「あなたにはエルバート様がいるの。だからバッドエンドの心配はしなくていいの。未来を知っていたあなたが百合の花を求めた理由を私は知ってるつもり。でも、せっかくの人生なんだから無駄にしないで。自殺は、絶対駄目」

 セロンやアイザックに聞こえないようにひっそりと話すヒロインの声は、とても切実で。

 出会って二回、ほぼ他人の私を心の底から案じているのがよく伝わってきた。

「……私が生きる事で、何か良いことがあるの?」
「私が嬉しい。一緒にハッピーエンドを目指しましょうよ。私はもう二度とバッドエンドで人生を終わらせたくないの」

 気づかなければいいのに、ヒロインの言葉の意図を知ろうとして、その真意に私は気づいてしまった。

 二度とバッドエンドで人生を終わらせたくない。
 その言葉の意味。

 きっと彼女の前世の死に際はそんなに良いものでは無かった。だから今世では幸せになろうと奮闘しているんだ。そのためには死にたがっていた私ですら、生かそうとする。

 なんて強欲なんだろう。
 なんて眩しい存在なんだろう。

 だからこそ、彼女はヒロインとして選ばれたんだ。

 無気力な私と違う、生に執着を見せて一生懸命に駆け抜けていく女の子。

 私は恐る恐るヒロインを───シンシアを抱き締め返す。シンシアなら、その眩い光で私の道も先導してくれるかな。バッドエンドじゃない、その道を。

「シンシア、私も幸せになりたい。悪役令嬢でも、なっていいのかな」
「当然。最近の悪役令嬢はヒロインより幸せになれるんだよ?」

 二人で顔を見合わせて笑い合う。
 そうだね、悪役令嬢のハッピーエンドだって最近では王道といっても過言じゃない!



 こうして私とシンシアは親友になった。
 セロンやアイザックそっちのけで、エルバート様が帰ってくるまで二人で沢山お話をする。前世の事、今世のこと。

 シンシアがセロンルートを目指す限り、隣国とのごたごたは避けられない。当の本人であるセロンには聞こえないように内緒話をしながら、またおいおい相談に乗ることを約束した。

 私とシンシアが初めから砕けて話せていたのが不思議らしく、護衛に徹していたアイザックから質問されたときには「昔、名前も知らずに一度会っていたことがある」と苦し紛れに言い訳をしたりして、時間を忘れるくらいに話し続けた。

 時間を忘れすぎて、仕事から帰って来たエルバート様に鍵をかけていたはずの部屋から出ていたことがバレてしまったんだけど。

 でも結局、部屋への軟禁(もはや監禁)は駄目だと、シンシアやセロンから厳しい口調で駄目出しをされていたので、私としては怪我の功名。外出はエルバート様と一緒じゃないと駄目らしいけれど、一人でお屋敷とお庭を自由に行き来できるのは嬉しい。

 三人が帰ったあと、シンシアと親友になったのだとエルバート様に伝えたら、とても複雑そうな顔で「それは良かった」と言ってくれた。エルバート様の独占欲が強いことは知っているけれど、それでもシンシアと友情を築くのを祝福してくれたのが嬉しくて、初めて私からエルバート様にキスをした。

 リアル恋愛に関して初心者な私はまだ、エルバート様から向けられる愛すべてに答えることはできないと思う。

 でも、シンシアと一緒にハッピーエンドを目指すことにしたから。

 その決意を込めて、初めて自分からエルバート様に口づける。
 恥ずかしくて、触れあうだけの幼い口づけになってしまったけれど。

「エルバート様、私、エルバート様を生涯かけて愛しますので、よろしくお願いしますね」
「っ、え、エレ!」

 本当なら結婚式とかで言うべきなんだろうけれど、その時の私はまだ物事に流されているだけだったから。

 今からでも遅くはないはずだと思ってエルバート様に告げれば、私のキスの何倍も深い大人のキスが返ってくる。ひぃっ、羞恥でゆだる!!

 ぷすんっと、蒸気を出してフリーズしていると、さっと横抱きにされてしまう。え? どこ行くの?

「え、エルバート様? どうしました?」
「エレがとても可愛いから、寝室に行くんだよ」

 甘く囁かれる言葉に、私は思わずエルバート様の胸元に顔を埋めた。は、恥ずかしい!

 でも、これからする事に期待してないとも言えず……。

 やっぱり私、エルバート様に絆されているのかもしれないと思いながら、エルバート様によってベッドに沈められました。
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