2 / 2
壊滅後
しおりを挟む
どうでも良いのだと言わんばかりに
事実、どうでも良かったらしく
あの災害は悠々と街を通り過ぎて行った
ただ一人の宿敵へと向かって
バレリア壊滅の一報を受け、世界は混乱に陥った
情報収集及び救援の為、近隣諸国は兵士や冒険者からなる即席の部隊を派遣
中には数人の魔法使いも含まれて居り、街に到着次第、その現状を外界に伝える役目を担って居た
しかし
数日後
遠く離れた地で報告を待つ者達の耳に届いたのは、
「どうすれば良いか分かりません」と震える声だった
街が、あったのだろうか
華と呼ばれた、あの街が
膝を抱え、虚ろな目の人
宛も無く誰かの名を叫ぶ人
瓦礫、人、瓦礫、人、瓦礫
何をどうすれば良いのか
まず、何処から手を付ければ良いのか
これが現実なのか
皆が言葉を失くし立ち尽くす中
とある老兵だけは、迷いの無い足取りで瓦礫の中へと分け入った
戦争なんて何年振りだか
役立たずの方が良かったんだがなぁ
独り言ちながら、瓦礫の一欠片を退かす姿
それに釣られる様、部隊の面々は徐々に落ち着きを取り戻し、其々が持ち得る限りを尽くした
これくらいしか出来ないのだと
涙ぐむその姿が、生存者達の目にどれ程心強く映った事だろう
部隊がまず活動を開始したのは、嘗ての大通り
被害が余りにも広範囲に及んでいた為、あの惨劇から数日経過して尚、未だ手付かずの場所が幾つもあったのだが
一先ずは人数が多い所を、という判断であった
そんな、手付かずの内の一つ
大通りから少し離れた路地を、一人の聖職者が歩いて居た
教会こそ崩れてしまったが、命は助かったのだから
せめて犠牲者達の為に祈って回ろう
靴を失くし、擦り切れた足には血が滲んで居たが、痛みを堪えて歩き続けた
ふと、何処からか嗚咽交じりの声が聞こえた
聖職者は足を止め、周囲を見渡す
我が子を探す親が居た
泥塗れの手で、家があった場所を掘り起こしていた
傍らに置かれた襤褸布の包みには、虫が集って居た
どうか安らかに、と
祈る聖職者の胸倉を掴み、彼等は声を荒らげた
ふざけるな
安らかな訳あるか
何も知らない癖に
全部見付けた訳じゃない、絶対に生きてる
聖職者は俯き、ただ「すみません」とだけ返した
通りすがりの、薄汚れた服の子供が一瞬足を止め、すぐさま走り去る
街外れの古塔
崩れ落ちた嘗ての秘密基地
膝を抱える親友の隣に座り、変わり果てた街を眺めた
「酷いよな」
「うん」
「父ちゃんも母ちゃんも死んじゃった」
「うん」
「どうしたもんかね」
「うん」
「…生きてて良かったよ」
「…ん」
多くが奪われ、多くが遺された
しかしこの悲劇も、これより始まる壮大な戦いと、それに伴う犠牲のほんの一部に過ぎない
時が経つにつれ、人々の記憶は徐々に薄れていった
そして歴史は繰り返す
忘れた頃に牙を剝く
世界を変える事は容易ではない
それこそ、魔王や勇者でもない限り
だから
この拙い手記が、誰か一人を救う事を願って
どうか貴方は、普通に生きて、普通に死ねますように
事実、どうでも良かったらしく
あの災害は悠々と街を通り過ぎて行った
ただ一人の宿敵へと向かって
バレリア壊滅の一報を受け、世界は混乱に陥った
情報収集及び救援の為、近隣諸国は兵士や冒険者からなる即席の部隊を派遣
中には数人の魔法使いも含まれて居り、街に到着次第、その現状を外界に伝える役目を担って居た
しかし
数日後
遠く離れた地で報告を待つ者達の耳に届いたのは、
「どうすれば良いか分かりません」と震える声だった
街が、あったのだろうか
華と呼ばれた、あの街が
膝を抱え、虚ろな目の人
宛も無く誰かの名を叫ぶ人
瓦礫、人、瓦礫、人、瓦礫
何をどうすれば良いのか
まず、何処から手を付ければ良いのか
これが現実なのか
皆が言葉を失くし立ち尽くす中
とある老兵だけは、迷いの無い足取りで瓦礫の中へと分け入った
戦争なんて何年振りだか
役立たずの方が良かったんだがなぁ
独り言ちながら、瓦礫の一欠片を退かす姿
それに釣られる様、部隊の面々は徐々に落ち着きを取り戻し、其々が持ち得る限りを尽くした
これくらいしか出来ないのだと
涙ぐむその姿が、生存者達の目にどれ程心強く映った事だろう
部隊がまず活動を開始したのは、嘗ての大通り
被害が余りにも広範囲に及んでいた為、あの惨劇から数日経過して尚、未だ手付かずの場所が幾つもあったのだが
一先ずは人数が多い所を、という判断であった
そんな、手付かずの内の一つ
大通りから少し離れた路地を、一人の聖職者が歩いて居た
教会こそ崩れてしまったが、命は助かったのだから
せめて犠牲者達の為に祈って回ろう
靴を失くし、擦り切れた足には血が滲んで居たが、痛みを堪えて歩き続けた
ふと、何処からか嗚咽交じりの声が聞こえた
聖職者は足を止め、周囲を見渡す
我が子を探す親が居た
泥塗れの手で、家があった場所を掘り起こしていた
傍らに置かれた襤褸布の包みには、虫が集って居た
どうか安らかに、と
祈る聖職者の胸倉を掴み、彼等は声を荒らげた
ふざけるな
安らかな訳あるか
何も知らない癖に
全部見付けた訳じゃない、絶対に生きてる
聖職者は俯き、ただ「すみません」とだけ返した
通りすがりの、薄汚れた服の子供が一瞬足を止め、すぐさま走り去る
街外れの古塔
崩れ落ちた嘗ての秘密基地
膝を抱える親友の隣に座り、変わり果てた街を眺めた
「酷いよな」
「うん」
「父ちゃんも母ちゃんも死んじゃった」
「うん」
「どうしたもんかね」
「うん」
「…生きてて良かったよ」
「…ん」
多くが奪われ、多くが遺された
しかしこの悲劇も、これより始まる壮大な戦いと、それに伴う犠牲のほんの一部に過ぎない
時が経つにつれ、人々の記憶は徐々に薄れていった
そして歴史は繰り返す
忘れた頃に牙を剝く
世界を変える事は容易ではない
それこそ、魔王や勇者でもない限り
だから
この拙い手記が、誰か一人を救う事を願って
どうか貴方は、普通に生きて、普通に死ねますように
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~
桂
ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。
そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。
そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる