勇者召喚に巻き込まれた水の研究者。言葉が通じず奴隷にされても、水魔法を極めて無双する

木塚麻弥

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第1章 水の研究者、異世界へ

第34話 交渉

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「ひ、ひ、ひぃぃぃぃぃっ!!」

 奴隷商人が情けない声を上げて、地面を這いながら俺から逃げていく。恐怖を感じすぎて立てなくなったようだ。その姿を見ても、見逃してやる気にはならない。

「なぁ、どこ行くんだよ。エルフを攫いに来たんだろ? 逃げるのか? 雇った冒険者たちに払った金の分、エルフを捕まえて稼がなくて良いのか?」

「そ、そうだ! 金、金をやる!! お前が望むだけ、いくらでも」

「……ほう」

「だから私の仲間になれ。い、いや、仲間になってください」

 ここで俺の心の中の悪魔が俺に囁いた。人身売買で私腹を肥やすこのクズを絶望させる最高の方法を思いついてしまったんだ。

「わかりました。仲間になってあげます」

「ああ、ありがとう!」

「それでまず私にくれるというお金ですが、貴方が現在保有する資産の半額を要求します。それ以下は認めません」

「は、半分だと?」

「嫌ならいいです。今すぐ貴方を殺すだけなので」

「くっ! お前ら、エルフを盾にしろ!!」

 あらら、交渉は決裂したみたい。

 奴隷商人の部下たちは10人ほどいて、そいつらが馬車に乗せられていたエルフの少女たちを盾にしようと動き始めた。

「俺にとって他人のエルフが人質になるとでも?」

「貴様はそこの女エルフを守っていた。異世界人様はみんなお優しいからな。さぁ、エルフたちを殺されたくなければ、私たちを見逃せ!」

 良く分かってるじゃん。
 エルフを盾にされると俺は困る。

 俺と同じ種族だとしても、お前らみたいなクズより可憐なエルフの少女たちの方がこの世界にとって何百倍も生きている価値がある。

 だから人質にするために剣を向けるなど、絶対に許さない。

「お、おい! お前たち、なんで動かないんだ!!」

「動けないよ。彼らの身体は今、俺の魔法で拘束されてるから」

 冒険者だけじゃなく、とりあえずこの場にいる人族全員に水魔法で小さな怪我を負わせていた。誰かひとりくらいはまともな奴がいるんじゃないかと思ったが、望みはなさそうだ。今すぐ全員殺せるが、あまり俺がやりすぎるのは良くないかも。

 エルフたちだって、こいつらに復讐したいはず。だから動けないようにだけしておく。


「貴方の指示に従って動ける部下はいないみたいですね」

「わ、わかった! 私の資産の半分をお前に渡す! だから私だけでも助けてくれ」

「それでは貴方が隠してる金の場所を教えてください。あるんでしょ? 貴方しか知らない秘密の隠し場所が」

 こういう金に汚い奴は腹心の部下にも本当に大切な金庫の場所は教えないって漫画で読んだ。コイツもそうだろうと思ったから鎌をかけてみる。

「そ、それは……」

 この反応、ほんとにあるみたいだ。

「別にそこの金を全部もらおうってんじゃないです。貴方が俺を裏切らない保証が欲しいだけですよ。金を稼ぐ才能がある貴方とは、これからも仲良くしたいですから」

 奴隷商人を絶望させるための嘘でも、こんなクズと仲良くしたいなど言っていて反吐が出る。しかし、もう少しの我慢だ。

「わ、私の屋敷の地下に、隠し金庫がある」

「どうやってそこに入るんですか?」

「屋敷の入口に飾ってある甲冑を操作するんだ。右に回せば隠し扉が開く仕掛けになっている。なぁ、ここまで話したんだ。ほんとに見逃してくれるんだよな!?」

「えぇ。貴方の言葉が嘘じゃなければね」

「私は取引では嘘をつかない。信じてくれ」

 誰がそんな言葉信じるか、バーカ。

 霧による索敵魔法の応用で、俺は奴隷商人の心音が良く聞こえるようにしている。その鼓動は最初激しく、俺と会話するごとに徐々に落ち着いていった。

 はじめてやってみたが、こんなにもわかりやすく典型的な嘘つきの心音を聞かせてくれるなんて。ある意味感動する。

「……いいでしょう。交渉成立です」

 どうせ甲冑操作したら毒針とか出てくるんだろ。もしくは落とし穴が動作するトリガーになってるとか。でも金がコイツの屋敷のどこかに隠されている可能性は高いと思う。上手い嘘つきは真実の中に嘘を混ぜることで自分の言葉が全て真実だと自分自身を騙す。そうして他人にもその嘘を信じさせるらしい。

 とりあえずコイツの屋敷は全部破壊して、金を探してみよう。

 今回は俺のせいでこの国が襲われたと言っても良い。だから俺は、ミスティナスには入れない。例えララノアやラエルノが問題ないと言ってくれてもダメだ。

 ミーナの身体の傷を消してあげたくて、過去の傷も治る薬を求めてここまで来たけど諦める。代わりに奴隷商人から金を貰って、それで何とかできないかってことを思い始めていた。
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