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第1章 水の研究者、異世界へ
第33話 後悔、償い
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「お久しぶりです」
思わず話しかけてしまった。
「ん? なんだ、お前……。あ、あぁ!! お前は、あの時の!」
どうやら奴隷商も俺のことを覚えてくれていたようだ。
「まさか能無しのお前がコロッセオで生き残るなんてな。まったく信じられんが、そのおかげで俺はこうして事業拡大に乗り出すことができた。感謝してるよ」
ん? どういう意味?
「意味が分からなさそうだな。せっかくの機会だから教えてやろう。私たち奴隷商は商品の奴隷をコロッセオに送る時、選別の意味で奴隷が勝つ方に賭けるんだ。だいたい興行師から受け取った金の半分を賭ける」
ほとんどの場合は戻ってこないが、と奴隷商が言葉を続ける。
「しかしお前は勝った! 能無しの異世界人が5級剣闘士を倒すなんて、いったい誰が予想できる! だからお前に賭けた金は、数百倍になって私の元に帰ってきた」
笑顔の奴隷商人が気持ち悪い。
さっさと殺してしまいたい。
「お前が稼がしてくれたから、私は強力な冒険者たちを雇ってエルフ狩りに来ることができたんだ」
……ま、まさか。
いや、そんな。
「ほら。そこにいる女エルフは、私が送り込んだ部下たちを幾度となく殺しやがった宿敵だ。コイツがいるせいで王都まで侵攻することもできなかった。でも今はどうだ! 私が連れてきた冒険者たちに手も足も出ず、そうして倒れている」
お、俺の。
俺のせい、なのか?
「全て貴様のおかげだ。いやー、本当に感謝してる。しかし今日ここで出会ってしまったのはダメだな。私たちの悪事を見られてしまった」
奴隷商人が腰の剣に手をかけたまま固まっている冒険者の方に近寄る。恐らく彼は、自分の指示があるまで冒険者が待機しているだけだと思っているのだろう。
「さよなら、能無しの異世界人よ。さぁ、グリード。アイツを殺せ」
「水よ、分離し 弾けろ」
グリードと呼ばれた男はまるで風船を握り潰したように膨らみ、パンッという軽い音を立てて弾けた。
「えっ……。な、なんだ? ひ、ひぃぃぃ」
ヒトの肉体が内側から弾け、臓物の破片が奴隷商の顔や体に飛び散っている。目の前で起きたことが理解できない様子で、彼はただただ狼狽している。
「俺さ、お前がそっちにいるって。お前が敵側だってことを知って喜んだんだ。これでエルフたちに加勢する絶対的な理由ができたって。復讐する絶好の機会だから、最高だって思ってしまった」
全て俺のせいだった。エルフを助けて報酬を貰おうなんて、俺が思っていいわけがなかったんだ。俺は、最低だ。エルフを頼ることなんかできない。
だけどせめて。
せめてこいつらだけは。
「俺が殺しておかなきゃ」
火魔法を使う冒険者を見た。口は動かせなくしてあるが、その眼には恐怖が浮かんでいた。慈悲の心なんて生じようがない。あの奴隷商人の手先になるような奴ってことは、お前も命乞いする人々を遊びながら殺してきたんだろ? だから俺も、最大限の恐怖を与えて殺さないとダメだよな。
「水よ──」
冒険者に手をかざす。まだ魔法は発動させない。最期に己がやってきたことを精一杯後悔できるよう、少し待ってあげる。その眼から大粒の涙が溢れ出て、ズボンの股間部分が汚く変色してきた。そろそろか。
「分離し 弾けろ」
魔法使いといっても、特に俺の水魔法に耐性があるわけではないようだ。剣士と同じように膨らみ、そして弾けた。
思わず話しかけてしまった。
「ん? なんだ、お前……。あ、あぁ!! お前は、あの時の!」
どうやら奴隷商も俺のことを覚えてくれていたようだ。
「まさか能無しのお前がコロッセオで生き残るなんてな。まったく信じられんが、そのおかげで俺はこうして事業拡大に乗り出すことができた。感謝してるよ」
ん? どういう意味?
「意味が分からなさそうだな。せっかくの機会だから教えてやろう。私たち奴隷商は商品の奴隷をコロッセオに送る時、選別の意味で奴隷が勝つ方に賭けるんだ。だいたい興行師から受け取った金の半分を賭ける」
ほとんどの場合は戻ってこないが、と奴隷商が言葉を続ける。
「しかしお前は勝った! 能無しの異世界人が5級剣闘士を倒すなんて、いったい誰が予想できる! だからお前に賭けた金は、数百倍になって私の元に帰ってきた」
笑顔の奴隷商人が気持ち悪い。
さっさと殺してしまいたい。
「お前が稼がしてくれたから、私は強力な冒険者たちを雇ってエルフ狩りに来ることができたんだ」
……ま、まさか。
いや、そんな。
「ほら。そこにいる女エルフは、私が送り込んだ部下たちを幾度となく殺しやがった宿敵だ。コイツがいるせいで王都まで侵攻することもできなかった。でも今はどうだ! 私が連れてきた冒険者たちに手も足も出ず、そうして倒れている」
お、俺の。
俺のせい、なのか?
「全て貴様のおかげだ。いやー、本当に感謝してる。しかし今日ここで出会ってしまったのはダメだな。私たちの悪事を見られてしまった」
奴隷商人が腰の剣に手をかけたまま固まっている冒険者の方に近寄る。恐らく彼は、自分の指示があるまで冒険者が待機しているだけだと思っているのだろう。
「さよなら、能無しの異世界人よ。さぁ、グリード。アイツを殺せ」
「水よ、分離し 弾けろ」
グリードと呼ばれた男はまるで風船を握り潰したように膨らみ、パンッという軽い音を立てて弾けた。
「えっ……。な、なんだ? ひ、ひぃぃぃ」
ヒトの肉体が内側から弾け、臓物の破片が奴隷商の顔や体に飛び散っている。目の前で起きたことが理解できない様子で、彼はただただ狼狽している。
「俺さ、お前がそっちにいるって。お前が敵側だってことを知って喜んだんだ。これでエルフたちに加勢する絶対的な理由ができたって。復讐する絶好の機会だから、最高だって思ってしまった」
全て俺のせいだった。エルフを助けて報酬を貰おうなんて、俺が思っていいわけがなかったんだ。俺は、最低だ。エルフを頼ることなんかできない。
だけどせめて。
せめてこいつらだけは。
「俺が殺しておかなきゃ」
火魔法を使う冒険者を見た。口は動かせなくしてあるが、その眼には恐怖が浮かんでいた。慈悲の心なんて生じようがない。あの奴隷商人の手先になるような奴ってことは、お前も命乞いする人々を遊びながら殺してきたんだろ? だから俺も、最大限の恐怖を与えて殺さないとダメだよな。
「水よ──」
冒険者に手をかざす。まだ魔法は発動させない。最期に己がやってきたことを精一杯後悔できるよう、少し待ってあげる。その眼から大粒の涙が溢れ出て、ズボンの股間部分が汚く変色してきた。そろそろか。
「分離し 弾けろ」
魔法使いといっても、特に俺の水魔法に耐性があるわけではないようだ。剣士と同じように膨らみ、そして弾けた。
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