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第2章 水の研究者、魔族と戦う
第62話 再会
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「久しぶりに来たな」
「相変わらず壮観ニャ」
世界樹に召喚され、エルフの王国の王都付近までやって来た。
何度見ても空を覆う世界樹の枝に圧倒される。
「そう言えば、今は人族が王都に入れる状態? 前に奴隷商人がここ攻めてきたんだから、入国制限とかされてるんじゃない?」
『現在そのような制限はありません。商人やその護衛など、身分のはっきりしている人族の入国は認められています。この国だけでは得られる物資がさほど潤沢ではありませんからね』
エルフが作る高性能な装飾品を他国に売り、他国からは食料や貴金属類などを購入しているらしい。
俺が読んでいたラノベや漫画ではエルフとドワーフは犬猿の仲だという作品が多かったが、この世界はそれが真逆らしい。エルフ族と最も友好的なのがドワーフ族で、互いに技術交流などもなされているとか。
独自の文化を構築し、他者を受け入れないってイメージがエルフにはあったが、どうやらそんな感じではなかった。
『例え人族が入国制限されている状態であっても、トールさんとミーナさんは私が入国できるようにさせます』
「別に王都には入らなくても良いかな。食料とか、テントとかの野営道具も持ってきてるから」
世界樹を守るのに、王都に入る必要はない。世界樹のそばにいて、準備さえできればそれで良いんだ。
それから俺はまだ、ララノアを裏切ったような感じでお別れしたことに対して負い目がある。出来れば彼女に会いたくない。
『また私のそばには来て下さらないんですか?』
「ここだってすぐそばじゃん。枝の下には入ってるし」
『……私の本体は幹の部分なので、それに触れるくらいはしてほしいです。一度触れていただければ、トールさんに更なる魔力を贈ることも可能です』
まだ魔力くれるんですか。
ちょっと悩む。
「ちょっとやりたいことがあるから、魔力は欲しいかも。でも、幹に触れるってことは王都に入らないといけないよね?」
水魔法で空を飛んでこっそり入っちゃうこともできるけど。
『まだララノアに会いたくないんですか? 彼女はトールさんに会いたがっていますよ。姉のラエルノアを助けてくれたことにお礼を言いたいと』
「うーん、そう言われてもなぁ……」
どうしても気が乗らない。
何度も遊んで仲良くなった人と連絡が途絶え、久しぶりに連絡しようとしても相手に迷惑なのではと考え、躊躇ってしまうような状態だった。
『トールさんは今回も自分からララノアに会いに行かないだろうと思っていたので、あらかじめ私が呼んでおきました』
「えっ」
「トールさん!」
声がして振り返ると、エルフの少女がいた。
俺とミーナがミスティナスに来て最初に会ったエルフ。前に会った時と変わらない翡翠色の短髪は活発そうな印象を受ける。彼女がララノアだ。
「や、やぁ。久しぶり」
「お久しぶりニャ!」
ララノアはスタスタと近寄ってきて、俺の腰に抱き着いた。
「あの、ララノアさん?」
ミーナの視線が突き刺さる。
俺は悪くないでしょ!
「もう、逃がしません」
「いやいや。逃げないって」
「私にお別れの言葉もなくいなくなって……。それからこの国に魔族が攻めてきた時もトールさんが撃退してくれたって、お姉ちゃんから聞きました。なのにすぐいなくなっちゃたって。どう考えても私から逃げてますよね? 私と会うの、嫌なんですか? 私のこと、嫌いになっちゃったんですか?」
「……ごめん。そんなことはないよ」
「だったら、どうして!?」
ララノアの目には溢れそうなほど涙がたまっている。
「この国が人族に襲われたの、俺のせいなんだ」
俺がコロッセオで生き残ったから、奴隷商人は冒険者を雇う資金を手に入れてミスティナスまで奴隷狩りにやって来た。
「そのことは世界樹様から聞きました。トールさんは悪くないって」
「えっ。世界樹に?」
『当然でしょう。この国の恩人を恨むようなことがないよう、全てのエルフに伝えています。とはいえ、事の顛末まで説明したのはララノアとラエルノア、それから王族たちだけにですが』
契約を結んでいる俺にしか聞こえない念話で世界樹がそう言ってきた。
「私は、トールさんが悪いだなんて思いません。自分の命を守るために戦うのがダメだなんて考えたくありませんから」
ララノアが俺の顔を見上げてくる。
涙を流しているが、眩しいほどの笑顔だった。
「私のお家に来てください。お姉ちゃんを助けてくれたお礼をさせてください。この国を救ってくれた感謝の気持ちを伝えさせてください。どうか、お願いします」
『魔族という脅威を排除したトールさんに、この国のエルフたちは強い感謝の念を抱いています、でもそれを言葉で伝える対象がどこにもいないので、みんな困っているんです』
俺は世界樹から枝とかエリクサーを貰っているから、魔族を倒した報酬は十分もらっているつもりだった。でも助けられた側はそうでもないらしい。
「わかった。ララノアについていくよ。ミスティナスでやらなきゃいけないことがあるんだ。王都の中を案内してもらって良い?」
「は、はい! お任せください。ミーナさんも、来てくださいますよね?」
「トールが行くならついてくニャ。でもウチはエルフを守ったりしてないけど、王都に入れてもらえるかニャ?」
「大丈夫ですよ」
『えぇ。大丈夫です。もし拒むエルフが居れば、私が黙らせます』
俺の左手の甲に刻まれた世界樹の紋章が輝き、そこから声が響いていた。
「せ、世界樹様!?」
『ララノア、トールさんたちのお世話をよろしくお願いしますね』
「かしこまりました! 精一杯かんばります」
少し緊張して強張った表情だが、彼女からは使命を全うしようという強い意気込みが感じられた。
「ではトールさん、ミーナさん。こちらへ」
「はーい」
「よろしくニャ」
ララノアに案内され、俺たちはミスティナス王都に向かった。
「相変わらず壮観ニャ」
世界樹に召喚され、エルフの王国の王都付近までやって来た。
何度見ても空を覆う世界樹の枝に圧倒される。
「そう言えば、今は人族が王都に入れる状態? 前に奴隷商人がここ攻めてきたんだから、入国制限とかされてるんじゃない?」
『現在そのような制限はありません。商人やその護衛など、身分のはっきりしている人族の入国は認められています。この国だけでは得られる物資がさほど潤沢ではありませんからね』
エルフが作る高性能な装飾品を他国に売り、他国からは食料や貴金属類などを購入しているらしい。
俺が読んでいたラノベや漫画ではエルフとドワーフは犬猿の仲だという作品が多かったが、この世界はそれが真逆らしい。エルフ族と最も友好的なのがドワーフ族で、互いに技術交流などもなされているとか。
独自の文化を構築し、他者を受け入れないってイメージがエルフにはあったが、どうやらそんな感じではなかった。
『例え人族が入国制限されている状態であっても、トールさんとミーナさんは私が入国できるようにさせます』
「別に王都には入らなくても良いかな。食料とか、テントとかの野営道具も持ってきてるから」
世界樹を守るのに、王都に入る必要はない。世界樹のそばにいて、準備さえできればそれで良いんだ。
それから俺はまだ、ララノアを裏切ったような感じでお別れしたことに対して負い目がある。出来れば彼女に会いたくない。
『また私のそばには来て下さらないんですか?』
「ここだってすぐそばじゃん。枝の下には入ってるし」
『……私の本体は幹の部分なので、それに触れるくらいはしてほしいです。一度触れていただければ、トールさんに更なる魔力を贈ることも可能です』
まだ魔力くれるんですか。
ちょっと悩む。
「ちょっとやりたいことがあるから、魔力は欲しいかも。でも、幹に触れるってことは王都に入らないといけないよね?」
水魔法で空を飛んでこっそり入っちゃうこともできるけど。
『まだララノアに会いたくないんですか? 彼女はトールさんに会いたがっていますよ。姉のラエルノアを助けてくれたことにお礼を言いたいと』
「うーん、そう言われてもなぁ……」
どうしても気が乗らない。
何度も遊んで仲良くなった人と連絡が途絶え、久しぶりに連絡しようとしても相手に迷惑なのではと考え、躊躇ってしまうような状態だった。
『トールさんは今回も自分からララノアに会いに行かないだろうと思っていたので、あらかじめ私が呼んでおきました』
「えっ」
「トールさん!」
声がして振り返ると、エルフの少女がいた。
俺とミーナがミスティナスに来て最初に会ったエルフ。前に会った時と変わらない翡翠色の短髪は活発そうな印象を受ける。彼女がララノアだ。
「や、やぁ。久しぶり」
「お久しぶりニャ!」
ララノアはスタスタと近寄ってきて、俺の腰に抱き着いた。
「あの、ララノアさん?」
ミーナの視線が突き刺さる。
俺は悪くないでしょ!
「もう、逃がしません」
「いやいや。逃げないって」
「私にお別れの言葉もなくいなくなって……。それからこの国に魔族が攻めてきた時もトールさんが撃退してくれたって、お姉ちゃんから聞きました。なのにすぐいなくなっちゃたって。どう考えても私から逃げてますよね? 私と会うの、嫌なんですか? 私のこと、嫌いになっちゃったんですか?」
「……ごめん。そんなことはないよ」
「だったら、どうして!?」
ララノアの目には溢れそうなほど涙がたまっている。
「この国が人族に襲われたの、俺のせいなんだ」
俺がコロッセオで生き残ったから、奴隷商人は冒険者を雇う資金を手に入れてミスティナスまで奴隷狩りにやって来た。
「そのことは世界樹様から聞きました。トールさんは悪くないって」
「えっ。世界樹に?」
『当然でしょう。この国の恩人を恨むようなことがないよう、全てのエルフに伝えています。とはいえ、事の顛末まで説明したのはララノアとラエルノア、それから王族たちだけにですが』
契約を結んでいる俺にしか聞こえない念話で世界樹がそう言ってきた。
「私は、トールさんが悪いだなんて思いません。自分の命を守るために戦うのがダメだなんて考えたくありませんから」
ララノアが俺の顔を見上げてくる。
涙を流しているが、眩しいほどの笑顔だった。
「私のお家に来てください。お姉ちゃんを助けてくれたお礼をさせてください。この国を救ってくれた感謝の気持ちを伝えさせてください。どうか、お願いします」
『魔族という脅威を排除したトールさんに、この国のエルフたちは強い感謝の念を抱いています、でもそれを言葉で伝える対象がどこにもいないので、みんな困っているんです』
俺は世界樹から枝とかエリクサーを貰っているから、魔族を倒した報酬は十分もらっているつもりだった。でも助けられた側はそうでもないらしい。
「わかった。ララノアについていくよ。ミスティナスでやらなきゃいけないことがあるんだ。王都の中を案内してもらって良い?」
「は、はい! お任せください。ミーナさんも、来てくださいますよね?」
「トールが行くならついてくニャ。でもウチはエルフを守ったりしてないけど、王都に入れてもらえるかニャ?」
「大丈夫ですよ」
『えぇ。大丈夫です。もし拒むエルフが居れば、私が黙らせます』
俺の左手の甲に刻まれた世界樹の紋章が輝き、そこから声が響いていた。
「せ、世界樹様!?」
『ララノア、トールさんたちのお世話をよろしくお願いしますね』
「かしこまりました! 精一杯かんばります」
少し緊張して強張った表情だが、彼女からは使命を全うしようという強い意気込みが感じられた。
「ではトールさん、ミーナさん。こちらへ」
「はーい」
「よろしくニャ」
ララノアに案内され、俺たちはミスティナス王都に向かった。
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