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第2章 水の研究者、魔族と戦う
第63話 魔族の結託
しおりを挟むヒトが立ち入れぬ魔境の深部にて。
「イブロ殿」
「招集に応じ、馳せ参じました」
姿形がそっくりな2体の魔族が、別の魔族の前に膝まづく。
イブロと呼ばれたのは、魔王に次ぐ実力を有する魔族。
「アバディル兄弟よ。ゼオルとマイナの存在が消滅したことに気付いたか?」
ゼオルは雷魔法を使う魔族。マイナは水魔法を使う魔族だ。そのどちらもトールと戦い、消滅させられていた。
「マイナは我ら魔族の中で最弱」
「高ランク冒険者にでもやられたのでしょう」
「しかし、ゼオル殿も?」
「我らはまだそれを知りませんでした」
魔族の中で唯一の兄弟であるアバとディル。この2体はどちらも風魔法を使う。
「ゼオルはミスティナスで強力な魔力反応を感じ、勇者の出現ではないかと偵察に行ったのだが、戻ってこなかった。この魔境からもヒトの世界からも反応が消え、我の呼びかけにも一切反応がない」
「そ、それは……」
「なんと。では、既に勇者が召喚されているということですな?」
「その可能性は高い。先日も我が発生させた魔物の大群が、ほとんどヒトを殺めることなく殲滅させられている」
イブロの言葉を聞き、アバディル兄弟は顔をしかめた。
「例え勇者でないにしても、その存在は捨て置けませんな」
「えぇ。ヒトの世界に我らが楽園を気付くため、排除すべき存在かと」
「それでお前たちを呼んだ。どうやら此度は世界樹が大きく動いている。毎度我らの障害となるアレだが、干渉の度合いがいつもと違うのだ」
およそ100年周期の魔族発生。その度に世界樹は勇者一行に強力な魔具や、魔力を提供してきた。しかし人族個人と契約を結んだことはない。
今回は勇者がミスティナスを訪れるより前にエルフ族の危機が発生してしまったため、世界樹はトールと召喚契約を結ぶことにした。
「我はまず、あの忌々しき世界樹を燃やそうと考えている」
「なるほど。勇者の居場所は分からずとも」
「世界樹は逃げ隠れできませんからな」
「しかし世界樹の魔力は強大」
「我ら魔族の力を持ってしても、ミスティナス王都を守る結界は破れません」
「だからお前ら兄弟を呼んだのだ。我に力を貸せ」
アバディル兄弟を除けば、魔族は基本的に単独行動。
配下の魔物を率いることはあっても、魔族が複数で出現することはほぼなかった。
「まさか、イブロ殿を筆頭に我らでミスティナスを攻めると!?」
「イ、イブロ殿は、よろしいのですか?」
格下の魔族と共に出撃するとなれば、それは自身の非力を示すことになる。そのためイブロやゼオルなどの上位魔族は、これまで絶対にそれをやらなかった。
「……苦渋の決断だ。しかし我単独の力では、世界樹を燃やし尽くせんのは分かっておる。だが、だからこそ此度は必ずあの樹を燃やし、我ら魔族がヒトの世界を征服する足掛かりとするのだ」
イブロの決意は固かった。
そして上位魔族が下位の自分たちを頼ってくれたことに、アバディル兄弟は感銘を受けた。感動のあまり、その身を小刻みに震わせながら宣言する。
「わ、我ら兄弟」
「イブロ殿のために」
「「この命を捧げます」」
「よし。では、行くぞ」
「「御意!」」
こうして魔族が3体揃ってヒトの世界に攻めてくるという、この世界の長い歴史上でも最悪の状況が発生してしまった。
ただしそれは、世界樹によって予知されていた。
予知されても“彼”が居なければ、その襲撃は成功したかもしれない。
魔族たちは運が悪かった。
杖なしの状態でも上位魔族を瞬殺してしまう規格外の水魔法使いが世界樹から予知の内容を聞き、複数魔族による襲撃を予測していたのだ。
その魔法使いは、歴代最強と呼ばれた賢者が使っていたモノより遥かに高性能な杖を携え、世界樹から絶えず潤沢な魔力を供給される状態で魔族たちを待っていた。
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