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第3章 水の研究者、勇者を還す
第79話 元獣人姫 vs 獣人王
しおりを挟む「やっほー。お邪魔するニャ」
「失礼します」
夜遅く、俺とミーナは獣人王レオルの元を訪ねた。
「み、ミーナ先生!? それに、人族!!」
何故か俺に殺気が飛ばされる。
ミーナの発案で夜にこうしてこっそり訪問したわけだけど、なんで俺だけ怒られるんだろう?
レオルの執務室まで来る道中、衛兵さんには見つかった。だけどこの国の元姫であるミーナだと分かると、すんなり通された。
獣人の王国では、ある程度実力を認められた強者が獣人王に対してその座をかけて戦いを挑むことが認められている。獣人王はその挑戦をいつでも受けなければならない。衛兵さんたちには、それだと思われたみたい。
俺たちの目的はそれじゃないけど。
「貴様ぁぁああ! ミーナ先生と結婚したというのは、事実なのか!?」
あぁ、聞いたんだ。
それで怒ってるんですね。
ダズさんから、レオルはミーナに求婚していたということを聞いた。彼女のことが好きだったんだろう。そんなミーナを俺に盗られたとでも思ってるのかな。
「本当ですよ。ミーナは今、俺の妻です」
「で、では俺と戦え! 俺に負けるような男には、ミーナ先生を幸せにすることなんてできないからな!!」
またかよ。
でも俺たちのことを認めてくれないって言うなら仕方ない。
「わかりまし──」
「良いニャ。ウチが戦ってやるニャ」
戦いましょうって言おうとしたら、ミーナが先に答えてしまった。
「えっ。あ、あの。なんで、ミーナ先生が?」
「ウチよりトールの方が強いって認めてるからニャ。だからウチは、旦那に降りかかる火の粉を振り払うだけニャ」
旦那って言ってくれて、ちょっと嬉しい。
「いいの?」
「うん、任せて欲しいニャ」
「で、では俺がミーナ先生に勝てば俺のモノになってもらうぞ! それでいいな!?」
「大丈夫ニャ。さっさとやろうニャ」
ないとは思うけど、もしミーナが負けたら……。
その時は俺がレオルと戦って彼女を取り戻そう。
「ミーナ、気を付けて。頑張ってね」
「はいニャ! あいつぶっ飛ばしたら、キスしてニャ」
「うん。いくらでもしてあげる」
だから怪我せず帰って来て。
「行ってくるニャ」
執務室から出て、王座の間へと移動した。
そこでミーナとレオルが少し距離をあけて対峙する。
体格差は圧倒的だ。
小柄なミーナに対してレオルは2倍くらいデカい。
それでも俺は、ミーナが勝と信じている。
「それじゃ、始めるかニャ」
「えぇ……。行くぞ!」
レオルが大きく踏み込んだ。
頑丈そうな床が抉れる。
ミーナ目掛けて猛スピードで突っ込んでいく。
離れて見ている俺が何とか見える速度だった。もしこんな速度でガタイのいい獣人が怖い顔で向かってきたら……。魔法が使えるようになる前の俺なら、恐怖で動けなくなると思う。
そんな突撃を、ミーナは軽く避けた。
しかし、レオルはその動きを読んでいたようだ。
「ぜやっ!」
急停止し、その場で回し蹴りをミーナに放つ。
あれだけのスピードで突進しておきながら、瞬時に止まって攻撃を繰り出せるなんてヤバすぎる。
ミーナの横腹にレールの蹴りが入る。
──と思ったのだが、彼の蹴りはミーナの身体を素通りした。
「は?」
呆気にとられるレオル。
確実に捉えたと思ったのだろう。
「残像だニャ」
ミーナの身体がぼやけ、消えた。
「なっ!?」
「ほらほら」
「こっち」
「こっちだニャ」
レオルの周りに、何人ものミーナが現れた。
マジかよ! スピードに緩急をつけて残像を生み出すっていう、アレか!?
漫画の中だけの技かと思ってたよ!!
俺は凄く興奮していた。
体術の奥義を目の当たりにしている。
「く、くそ!」
「はい、外れニャ」
「がぁぁあああ!!」
「そんなの当たらないニャ」
レオルが手当たり次第ミーナに攻撃を仕掛けるが、本体には当たらない。
「ほら」
「ぐがっ!!」
ミーナに足をかけられ、レオルが転倒した。
「もう諦めろニャ」
「い、いやだ! 俺は俺の力で、ミーナ先生を──いや、ミーナを手に入れる!!」
レオルが纏うオーラが跳ね上がった気がする。
たぶん魔力を身体中に巡らせて、身体能力を向上させてるんだろう。
でもそれは、ミーナだってできる。
「ウチはトールの嫁だニャ。お前なんかに、絶対負けないニャ」
「な、なん、だと……」
レオルのとは違い、ミーナが纏うオーラはハッキリと目視できる。それだけ膨大な魔力が放出され、身体に纏われているんだ。
「これがウチの──」
ミーナの姿が消えた。
一瞬でレオルの目の前に現れる。
どう移動したのかすら見えなかった。
「本気のスピードだニャ」
レオルの腹部に強烈な拳が叩き込まれた。
彼は後方にあった玉座まで吹き飛び、その椅子を破壊して、更に後ろの壁に激突した。
身体がピクピクしてるので、まだ生きている。獣人って頑丈だな。
「トール、勝ったにゃ!」
褒めてほしそうにミーナが俺の所に走ってきた。
「お疲れ。あの分身するやつ、凄かったね」
「身体の輪郭に魔力を這わせて、急加速する瞬間、その場に魔力を残すイメージでやれば結構簡単だニャ」
たぶん、それを簡単にできるのは君だけだよ。
ミーナが俺を見上げてきた。
頑張ったご褒美のキスかな。
お任せあれ。
俺とミーナは本来の目的を忘れ、静かになった玉座の間でしばらくキスしながら抱き合った。
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