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第3章 水の研究者、勇者を還す

第80話 水の大精霊

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「レオル、起きろニャ」

 倒れて気絶していた獣人王の頬をミーナが強めに叩く。

 そんな手荒なことして良いのかと思っていると、レオルが意識を取り戻した。

「う、うっ。俺は……、そうか。俺は、負けたんですね」

「死なないように手加減してあげたんだから、ウチに感謝しろニャ」

 あれで手加減してたのか。
 やっぱりミーナ強すぎ。

「では、ミーナ先生。俺に代わって、王になりますか?」

「それは嫌ニャ。しばらくレオルがやっといてニャ。でもトールがいつかこの国を欲しいって言ったら、その時は王座を明け渡してニャ」

「……承知致しました」

 ミーナに対してレオルが膝をつき、深く頭を下げた。

 これが獣人か。
 負けたら絶対服従。

 厳しいけど、シンプルでわかりやすい。

 自分の意志を貫きたいなら強くなればいい。


「レオルにお願いがあるニャ」

「何なりとお申し付けください」

「トールが投獄される原因になった、水の大精霊に会いたいニャ」

 俺はもうあまり恨んではいないけど、ミーナは直接会って文句を言いたいらしい。

 文句を言うつもりはないが、俺は水の魔法使いなので、その水を司る大精霊ってのには会ってみたいと思う。それでこうして獣人王の元を訪ねたんだ。

「承知しました。本来は獣人王以外が大精霊様に謁見することはできないのですが、俺はミーナ先生に負けた身。ご要望にお応えしましょう。こちらへ」

 俺とミーナはレオルに案内され、城の地下に向かった。


 ──***──

「ここに水の大精霊様がいらっしゃいます」

 ぼんやりと全体が明るい不思議な空間だった。

 世界樹の所の地下水脈と同じような感じ。

 石の台座が中央にあり、その下部から水が流れ出て空間の外へと流れ出ていた。

 ここが獣人の王国グラディムの水源だという。

 たった一体の精霊が一国の水を維持しているなんてすごすぎる。

「大精霊、どこにいるニャ?」

「いつもは中央の台座に佇んでおられるのですが……。今日はいらっしゃいませんね。お出かけ中でしょうか?」

「ちょっと冒険してみても良いかニャ?」

「ど、どうでしょう。少なくとも俺には、ミーナ先生を止める権限がありません」

 レオルが困っている。

 そんな彼を気にせず、ミーナは地下空間の探検に行ってしまった。

「俺、ミーナを追いかけますね」

「はい。俺はここで待っています」

「ちなみに大精霊って、どんな姿なんですか?」

「美しい人型をしていらっしゃいます」

「わかりました。ミーナと一緒に探してみます」

 レオルにはここで待機してもらい、俺はミーナと大精霊を探すことにした。


 ──***──

「ミーナ。どこだー?」

 この空間、思っていたよりずっと広い。

 俺は結構な速度で走り去ったミーナを見つけられないでいた。 


「ん、あれは……」

 小さな泉があった。

 そこで小さな妖精が水浴びをしている。

 この世界に来て初めて妖精を見た。
 体長30センチほど。
 背中に羽が生えている。

 ザ・妖精って感じ。

 大精霊の付き人みたいな存在なのかな?

 この妖精さんに、水の大精霊の所在を聞いてみよう。

「あのー」

「えっ? な、なに!? あんた誰!? どこから入ってきたの!」

 妖精が泉から出て、そのまま飛んで俺から逃げていく。

「あっ、ちょっと待って」

「こっちに来ないで!!」

 せっかく手がかりを見つけたのに、逃げられてしまう。

 逃がすまいと、魔法を発動する。

水よマイン舞えリクォード

 泉の水を使って妖精を拘束した。

「ちょっ! な、なによコレ!? なんでこの水、私の言うことを聞かないの!?」

「少しお話を聞きたいだけです。危害は加えません」

「私を拘束するなんて。あんた、タダじゃすまないわよ! この国の獣人みんながあんたを──って。あ、あれ? あんた、もしかして」

 妖精さんの顔が青くなる。
 俺を見て、怖がっている?
 そんな感じだった。

「あんたね! この国に災いをもたらす水魔法使いは!!」

 ……えっ、俺?

 俺はてっきり、獣人王の勘違いで拘束されたと思っていた。俺とは別の魔法使いがいて、そいつがこの国に災いをもたらす存在なのだと。

 もしかして、俺がそう災厄なんですか?

「その顔。私が予知で見た!」

 予知か。

 世界樹も予知という能力で魔族が攻めてくることを知り、俺にエルフの王国ミスティナスの危機を教えてくれた。

 この妖精さんも予知が使えるんだ。

「俺は何も悪いことなんてしてませんよ」

「嘘よ! だって私は見たもん!! あんたが、地面に倒れた獣人王を見下ろす姿を! いったいレオルに、何をしたの!?」

 倒れた、獣人王……?

「あっ!」

「その表情、思い当たることがあるみたいね」

 いや、あれは違うでしょ。

 だって倒したのは俺じゃなくミーナだ。

 俺は気絶しているレオルが無事か確認するために彼を覗き込んだだけ。

「たぶんそれ、勘違いです」

「まだしらばっくれるのね。でも予知は他にもあるわ。貴方は天候を操り、この国に巨大なひょうを降らせる。そんなバケモノ級の力があるはずよ!」

 うん、それはできる。
 というか既に実行済み。

 ミーナの元親衛隊長であるダズさんと戦った時、俺の実力を見せたくてやった。


「そして最後の予知は、今まさに現実のものになってる」

「というと?」

「水魔法を使って、水の大精霊である私を拘束するの! そんなこと、水魔法を使う魔族でも出来ないはずなのに!!」

 ん? 今、なんて?

「あんた、いったい何者なのよ! 私を拘束して、何がしたいの!?」

「あの……。もしかして、水の大精霊様、ですか?」

 嫌な予感がして、水魔法による拘束を解除した。

「そう。私は水の大精霊ウンディーネ。さぁ、次はあなたの番よ。私の問いに応えなさい! 何が目的なの!?」

「俺はトールって言います。この国に来ていきなり拘束されたので、俺は悪いことなんてしませんって言いに来たんですけど」

 でも、俺じゃなくなかった。
 大精霊様が予知したこと、全部やってた。
 

 この国に災厄をもたらす存在は、俺で間違いなかったようだ。
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