勇者召喚に巻き込まれた水の研究者。言葉が通じず奴隷にされても、水魔法を極めて無双する

木塚麻弥

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第3章 水の研究者、勇者を還す

第99話 最後の復讐対象

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「あ、ありえぬ! ななな、なんなのだ奴は!? なんだこの身体の震えは!?」

 魔族が拠点としている亡国の王城にて、魔王ネザフが叫んでいた。

 トールの声を聞いた瞬間から何故か身体が思うように動かなくなってしまった魔王。そんな彼を側近がこの城まで何とか逃がした。

「ネザフ様、お気を確かに。ここまでくればあのバケモノも追って来れないでしょう。もうご安心ください」

 こんな弱気な言葉を吐けば、いつもの魔王なら怒りをあらわにする。しかし今日の彼は、側近の言葉を聞いて安堵の表情を浮かべていた。

「いったい、あのバケモノは何なのだ! どうしてあんな規模の水魔法が使える!? まさかあのバケモノが真の勇者だとでもいうのか!?」

「ありえなくはないかと。普通の人族があれほどまでの魔法を行使できるはずがありません。恐らく女神から何らかのスキルを受け取った異世界人なのです」

「……クソがっ。あんなバケモノ、いったいどう倒せば良いと言うのだ!」

「倒す必要などありません」

「なに? それは、どういう意味だ」

「我々はただ待てばよいのです。アレは人族でしたので、ほんの100年ほど待てばあのバケモノはこの世から姿を消します」

 魔族にとって100年など大した年月ではない。

 ただ、少しでも早く世界を手中に収めたいという種族の本能により、魔族たちはこれまでも復活次第すぐ勇者や世界に対して攻撃を仕掛けてきた。

 しかし今回は訳が違う。

 戦えば確実に負けると分かる。

 魔王は不死である自分が倒されるとは考えないが、たったひとりで天災を引き起こす規格外の魔法使いに勝てるビジョンが見えなかった。戦えば同胞を失う。自身を含め13体いた魔族も、残された配下は側近のみになっている。


「……よし、100年待とう」

 魔王はトールと戦わないことを決めた。

「御英断です、ネザフ様」

「ゼオルやアウラたちが復活次第、再びこの世界に攻撃を仕掛けるぞ」

「御意」

 魔王はトールを無視することにしたのだが、それをされると高校生たちを元の世界に送り還せなくなってしまう。トールは魔王を逃がすわけにはいかなかった。

 だから彼は──


「こんにちは。魔王を倒しに来ました」

「覚悟するニャ」

 ミーナとふたりで魔王城までやって来た。


 ──***──

 その頃、ファーラム王城では。

「あれ、関谷さんは?」

「あの一緒にいた猫獣人さんもいなくなってる」

 トールたちがいなくなっていることにケンゴとシオリが気付いた。

「師匠、いったいどこに?」

 ここまで同行してきたトールの弟子、アレンも彼らの行き先を知らない。

「ま、まさか、逃げた魔王を追いかけて行ったとか?」

「そうだ、魔族たちってどうなったの!? ここに迫っていた魔物たちは!?」

 レンはまだ状況を把握できていなかった。

「俺の前に全部で6体の魔族が現れたんだけど、そのうち4体を関谷さんが倒した。マジで瞬殺だったよ」

「えっ?」

「関谷さんて、女神様からスキルもらってないんだよね」

 ケンゴの言葉に驚くアカリとシオリ。
 レンだけはなぜが納得した表情だった。

「やっぱりあの人が魔族を倒してくれたんだ」

「やっぱりって?」

「俺が目を覚ました時、まだ関谷さんがそこにいた。それで彼から凄い力を感じたから、俺のスキルで関谷さんのステータスを見てみたんだ」

「ど、どうだったの?」

「じつは凄いスキルもらってたりとか?」

「スキルは無かったよ。物理攻撃力とかも200くらいだったし。でも世界樹との契約とか、水の大精霊の加護っていう凄そうなのがついてた。そんで一番驚いたのは魔法攻撃力なんだけど──」

 レンは防衛戦2日目に魔王と聖結界を挟んで対峙した際、そのステータスを確認していた。魔法攻撃力が10万越えという、圧倒的なステータスだった。数万の魔物を蘇らせ、使役できてしまうのも納得の数値。

 そんな魔王のステータスを見ていたレンでも、トールのステータスは異常だった。


「関谷さん、魔法攻撃力が130万以上だったんだ」



 ──***──

 場所は再び魔王城。

 トールとミーナが、魔王たちと対峙する。

「き、貴様ら、いったいどうやってここを!?」

 身体を震わして小さくなっている魔王。彼を守るように側近が前に出ながらトールに問いかける。

「このお城の地下に水脈が流れてるんです。あなた後ろにいる魔王は魔力が多いみたいで、その魔力が水脈に溶け込んで流れて来てました。水って、巡り巡って海まで出てるんですよね。その海の水に触れて魔力流して索敵しました」

 トールが何をいっているのか側近には理解できなかった。

 彼らの常識では、そんなことできるはずがないのだ。

 しかしそれができてしまったから、トールたちがここにいる。


「特に怨みは無いんですけど、貴方たちを消さないとあの高校生たちを元の世界に還してあげられないんです。だから、申し訳ないですけど──」

 消えてください。

 そう言おうとして、最後のつもりでトールが魔王の顔を確認した。

 この時、彼は気付いてしまった。


 忘れようもない顔。

 この世界で唯一、トールが絶対に自身の手で殺すと決意した人物。

 魔王に身体を依り代にされたとは言え、その面影は残っていた。


「魔王って、お前。あの時の興行師じゃねーか!!」


 もう気づいてしまった。

 あふれ出す怒りを止められない。

 膨大な魔力がトールから放出されるのを感じ取り、側近が命を賭して魔王の身を救うために攻勢に出た。風魔法を身に纏い、全速力でトールに突撃する。

「魔王様に手出しはさせ──」
「邪魔だ!!!」

 あらかじめ用意されていた大量の水が、魔王の側近を吹き飛ばした。

 遠く吹き飛ばされた先で側近は水球に閉じ込められ、その命が尽きるまで身体を切り刻み続けられる。魔法を消す魔族が既に殺された以上、逃れる術はない。

 13体いた魔族も、残すは魔王ただ1体のみ。


「世界樹から聞いた。魔王は深夜に配下の魔物や魔族を復活させることができるって。だから俺は、今日中にお前を倒せば良いって思ってた」

 トールがゆっくりと魔王に歩み寄る。

「くっ、くくくるな。こっちに来るなぁ!!」

 魔王が闇魔法でトールを牽制しようとする。

 しかし全ての魔法がトールの水によって阻まれてしまった。

「闇魔法って、どんな原理で発動しているのかまだ解明されてないんだよな。だけど仲間の蘇生とか魔法無効化魔法以外の通常攻撃魔法は、魔力を高密度に充填させた物体で防げる。これは過去の文献に載ってたから知ってる」

 トールは足を止めない。

 魔王は後退りするが、身体が震えて思うように動けなかった。


「お前には他の魔族みたいなやり方はしない。一回ずつ、全部俺が殺してやる」

 魔族は数回殺した程度では死なない。
 それはトールも分かっている。

 ただし例外もいた。ハラシュという水魔法をつかう魔族は、一度殺しただけで消滅してしまったのだ。

「流石に魔王なら、そんなことはないよな。期待してるぞ」

 トールが最強の杖ハザクを構える。

水よマイン貫けクフィツァ
「ぐはっ」

 水が魔王の腹を貫いた。


「……ん? なんだ、この程度か?」

 一瞬で彼の腹の傷が消えた。

 それと同時に魔王の態度が急変する。

「この我の理解が追い付かぬほどのバケモノかと思ったが、所詮はヒトの身か。この程度の攻撃、数千回繰り返されようと我は死なぬ!!」

「へぇ、そう。水よマイン切り裂けザイル

 魔王の身体が水で真っ二つに切断させるが、まだ余裕そうであった。

「ふはははははっ。無駄無駄むだだぁぁああ! 我は、絶対に死なぬ!!」

 今回の勇者はこれで心を折った。

 過去に対戦した勇者たちもそうだった。

 魔王に死にたいと思わせ、彼を倒せた勇者は存在しないのだ。


 しかしそれは、トールにとって朗報だった。


「いいねぇ。死なないんだ、お前」

 ニヤリと笑うトール。

 その表情を見て、魔王ネザフは言いようのない恐怖を感じた。
 
「な、なぜだ。なぜ貴様は笑っている!? どう足掻いても我を殺すことは不可能だ。それなのに、なぜ笑っていられる!!」

「だって俺、貴方に復讐する機会をずっと心待ちにしていたんです。俺にしてくれた仕打ちの数々。それを水魔法でどう再現してあげようか、たくさんイメトレしてきたんです。でも興行師が人間のままだったら、俺が魔法を使えばおそらく一発で貴方を殺しちゃう」

 エリクサーを使ったり、聖女に蘇生してもらったりすれば長く復讐を愉しめるかもしれない。でもそんな個人的な復讐に、まだ高校生の子を巻き込むわけにはいかないとトールは苦悩していたのだ。

「でもアンタは魔族になった! それも、絶対に死なないって豪語する魔王に!!」

 歓喜しながらトールは杖を構える。

水よマイン加速せよレィーツ

 魔王の眼球の水分が一瞬で気化し、爆発した。

「うぎゃぁぁぁああああ!!」

 魔王は剣で斬られたり、槍で突かれる痛みには慣れている。火魔法で身体を焼かれたこともあるが、それも耐えられる。しかし脳を残した状態で目だけ爆破させられたことはなく、はじめて経験する痛みに絶叫していた。


「ほら、立てよ。この程度じゃ死なないんだろ?」

 最強の魔法使いとなったトールの復讐は、まだ始まったばかりだ。
 
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