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第3章 水の研究者、勇者を還す

第100話 仕返しタイム

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水よマイン回れディスドーヴ
「かはっ──」

 まずはオーソドックスに、回転する水の刃で魔王興行師の喉を切断する。

 しかしすぐに斬られた首が回復した。

 よし、まだいける!


水よマイン分離しレファフィリード 弾けろラツォート
「うぶっ!!?」

 魔王が水風船のように膨らみ、そして弾けた。

 ちなみに俺とミーナに魔王の血肉が飛んでこないよう、水の壁で守っている。


「……これは、ちょっとヤバいか?」

 魔王が復活してくれるか少し不安になった。

 数分後、はじけ飛んだ血肉が集まり、魔王は蘇った。

 良かった。
 心配させやがって。

 これで大丈夫なら、もう少し無理ができるな。


「ふ、ふざけるな! 我はまお──」

水よマイン双璧となりシュラム 押しつぶせリホルズ

 2枚の水の壁を作り出し、それを高速で合わせるようにして魔王にぶつけた。

 エルフの王国ミスティナスに攻め込んできた3体の魔族を葬った時の様に、魔王の身体は水塊の中でバラバラになっている。

 以前はこのまま魔族が消滅するまで殺し続けたが、今回は水の塊を解除する。


 しばらく待つと、バラバラになった肉片から魔王が復活した。

 次はアレをやってみよう。

 立ち上がった魔王に杖を向ける。

「ちょっ、ちょっとま──」
水のディポート 粒よマイン止まれディフシーク

 何か言おうとしていたが無視した。

 魔王の身体が一瞬で氷漬けになる。
 血液も全て凍らせた。

「ミーナもやる?」
「えっ、良いのかニャ!?」

 俺の背後でソワソワしてたから、彼女も魔王に攻撃したいんじゃないかって思ったんだ。ガロンヌさんにミーナ専用の鎧や手甲を作ってもらったが、彼女はまだそれを攻撃用途にはほとんど使っていない。

 全力で何かをぶっ壊すって気持ちいもんだ。

 破壊対象が世界を恐怖に陥れる魔王の肉体で、しかも何度でも蘇るって言うのなら、なにも遠慮する必要なんてない。

「全力で殴って良いよ」
「トール、ありがとニャ!」

 氷付の魔王にミーナが近づく。

 彼女から目に見えるぐらい濃密な魔力が放出された。

 その全ての魔力が拳に集められる。
 ちょっと空気がピリついた。

「せいニャ!!!」

 ミーナの拳が消えた。

 離れた場所にいる俺が彼女の拳を見失うほど超高速で、ミーナが魔王を殴った。

 凍った魔王が粉々になり霧散する。

「んー! さいっこうニャ!!」

 ミーナが気持ちよさそうにしていた。

「これでこの鎧も、魔王を一回倒したって箔が付いたニャ」

「ガロンヌさんに報告しなきゃね」

 少し待つが、魔王はその場で復活しなかった。


「あっ! アイツ、逃げようとしてんじゃん」

 肉体を粉々にされたことを良いことに、魔王はこの場から逃走しようとしていた。

 でも魔王の魔力は覚えたから、逃がしはしない。

 そもそも魔王の移動速度は遅かった。

 魔王と一緒にいた魔族が多分風魔法を使うんだろう。それでファーラムから離れたこの城まで高速で逃げて来られたんだ。


 ──***──

 魔王城から離れた森の中。

「こ、ここまでくれば」

 魔王は俺たちから逃げきれたと思ったのか、安堵の声を漏らしていた。

「なんで我がこのような──」

「魔王の癖に逃げるなよ」
「っ!? ひ、ひぃぃっ!!」

 背後から声をかけたら、魔王はわかりやすく動揺していた。

 俺とミーナの姿を確認すると、這うようにして逃げて行く。

 逃げ出すってことは、やっぱり死ぬのは苦痛なのか?

 何度死んでも生き返るって言ってたけど、本当にやりたい復讐は早めに実行しておいた方が良いかもな。


「俺がやられて一番痛かったのが、焼けた鉄の棒を押し付けられる拷問。でもここに鉄の棒なんて無い。だから、こうすることにした」

 杖を向けると魔王が慌てて立ち上がり、走って逃げだした。

 距離をとってくれて助かる。

 自分たちを守るための魔法を展開しなくて良いからな。


水よマイン加速せよレィーツ

 魔王を中心に、半径20メートルの水分を全て蒸発させた。

 蒸気になった水分子を更に加速させる。

「あ゛あ゛ぁ゛っ゛! あ゛づぅ゛い゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛!!!」

 水で焼く。
 これを常圧加熱水蒸気という。

 常圧加熱水蒸気を利用したオーブンなんかは温度が300~350℃とか。

 今、魔王の周囲はそんな温度になっている。
 
 通常の大気圧環境下ではこのぐらいの温度が限界。


 魔王は死んだらしく、反応が無くなったので魔法を一旦解除する。

 次の魔法に向けて魔王の周囲を分厚い水の壁で覆った。


「はっ。わ、我は、いったい──っ!? なんだ、この水は」

 生き返った魔王に、先ほど使ったものの上位互換魔法を放つ。

水よマイン加速せよレィーツ

 詠唱は同じ。

 しかし使用条件が異なれば、魔法は更なる効果を発揮する。

 今回は魔王を囲む水の内側だけをどんどん蒸発させていく。減った分の水は周りから回収し、魔王を取り囲む水の壁の大きさは絶対に変化させない。

 そうするとどうなるか。

 魔王がいる空間の蒸気圧がどんどん高まっていき、常圧加熱水蒸気では達成できない超高温へと温度が上昇していく。

 圧力を維持できれば、1000℃以上にすることも可能。

「ッツ…!! かひゅ──」

 丈夫な肉体を持つ魔族でも、高温高圧環境下ではまともに声も出せないようだ。


 さて、次はどの魔法を使おうかな?

 蒸し焼きになって地面に横たわる魔王興行師の復活を待ちながら、俺は次に使う魔法の検討を始めていた。
 
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