50 / 148
本編前のエピソード
兵の道
しおりを挟む
猫の手が人の手ぐらいになると、俺は陸に上げられた。人の配置替えを行うためだ。
フビットみたいなやつは、塩の期間中ずっと船の上にいることになる。塩の取引が最盛期となり猫の手が必要なぐらいに忙しくなると、また船に乗る。
今の俺に与えられた任務は歩くことだ。
決められた順路をひたすら歩く。家から用事を言い付けられることもあるが、街から街へひたすらに歩く。立ち寄った集落で頼まれ事をこなし、また歩き始める。荷を引く馬に負けない足腰となるまで、次の段階へはいけない。
給金を貰うが食費程度で、旅の資金は風を出している家が受け持つ。俺でいえばホロイ家だ。治安維持を含めた地域貢献の他に、若いものに経験を積ませる意味合いから頻繁に行われる。
そんなわけで…、
見て分かるように、俺は刈った草で畑の中に身を隠す場所を作っている。少し離れた背の高い木には袋を仕掛け済みだ。
この村に立ち寄ると隣町まで荷を運ぶ、違う家の風に話しかけられた。胸に付いている木でできた紋を見ると、自分が荷を届けて帰ってくるまでこの地に留まることを告げられる。
それまでにやるべきことが、これで終わる。
海に人が集まるこの時期は、どこも人手が足りなくなるので頼み事はよくある。普段は一人でこなせるものみを行い、それ以外のものはホロイ家に手紙を書く。
たまに、このように村の仕事を手伝うことがある。風にとっては儲けにならない話だが、違うものを手に入れるために、都合が合えば頻繁に請け負う。
これを済ませてしまえば暇になるので、剣でも振っていようと思っている。
どの村にも風ならば誰でも使える一画があり、そこに一人用の幕を張っている。面白がった風の人が稽古をつけてくれることもある。
ただ歩いているだけの生活が続くと、こういった出来事は良い刺激になる。
リュートは草の中に身を潜り込ませ、出来栄えを確かめる。
その夜、風の人と共に畑近くの館に招かれた。
「お招きいただきありがとうございます」
「さあさあ、どうぞ中へ」
気前よく家の主人は中へ招いてくれた。
「リュートです。ありがとうございます」
「おやおや、それはどうも」
通された部屋には食事が用意されていて、村長を家の主人と共に村の人と囲んで夕飯を共にした。
今はこれが一番ありがたい。
初めは物珍しさに保存食を好んで食べた。それに飽きると料理をし始めたのだが、とにかく面倒くさい。幕を張り、食べ始める頃には夜も深くなっている。近くに風の人がいれば火を起こすが、一人の時はどうしても保存食に手が伸びてしまう。
温かいスープに心が救われる。
「最近マシマシが畑に出始めましてね」
村長が話し始める。
机の上は片付けられており、代わりに各々の飲み物が置かれている。
「今年は早いですね」
「そうなんですよ。それで困ってしまい、お願いしました」
家の主人は申し訳ないと頭を下げた。
村の近くにはマシマシの繁殖地がある。新しい縄張りを求めたマシマシが、畑にいたずらを
しているらしい。
「早めに対処しないと後々大変ですからね」
「こんな頼みで申し訳ないのですが、弓を使える者が出てしまっているので、皆さんにお声を掛けさせていただきました。お引き受けしていただいてありがとうございます」
「いえいえ、これも風の縁です。気を遣わないでいただきたい」
主人は恐縮しつつ頭を下げる。
「もちろん、それぞれの家には手紙を送らせていただきます」
「私の方は結構です。ホロイ家にのみお送りください」
「いやいや、これは全く」
風の人は馬に乗っていた。
荷は馬車で運ぶような大きのものではない。一般的な手紙や小さいものは馬車に詰め込まれて運ばれる。運ぶ荷の大切さは運ぶ者の格式からも分かる。
このような手柄などいらないと断られた村長は、苦笑いを浮かべて頭を掻く。しかし、このような人を食事代で雇えるので、村としては大助かりである。
軽い懇談会が終わると、机をそのまま使わせてもらい明日の打ち合わせをした。
マシマシの群れは若い個体が多く、縄張りを追い立てられた群れではなく新しくできた群れではないかということ。ボスがしっかりとしているので危険を察知するのが上手く、畑を餌場にされると大変なことになる。と主人が事の重大さを語る。
この村の畑はどれも比較的広い。林もよく手入れされている。塀を築かずとも畑と林の距離を十分確保するだけで獣害の対策となる。そんな畑はマシマシに弱い。
木から降りると素早く畑まで渡って、野菜を盗み食いをする。すぐに逃げるため一回の被害は少なくできるが、そのための労力は大きくなる。それに収穫前の大事な野菜をマシマシにくれてやる筋合いはない。
村の人は言葉を選びながら、それぞれ同じようなことを言う。
一箇所だけ畑と林を結ぶ橋がある。マシマシなら通れる程度に間隔を空けて木が植えてある。
ボスは畑の際に立つ一番大きな木から周りを警戒しているらしい。必ず村人の姿が見えると群れは森へと戻っていく。
村人との手順の確認が終わると、二人はさらに打ち合わせをする。
村が寝静まると、二つの影が物音を立てずに動き出す。
闇夜でも器用に歩く風の後を、もう一つの影がついていった。
フビットみたいなやつは、塩の期間中ずっと船の上にいることになる。塩の取引が最盛期となり猫の手が必要なぐらいに忙しくなると、また船に乗る。
今の俺に与えられた任務は歩くことだ。
決められた順路をひたすら歩く。家から用事を言い付けられることもあるが、街から街へひたすらに歩く。立ち寄った集落で頼まれ事をこなし、また歩き始める。荷を引く馬に負けない足腰となるまで、次の段階へはいけない。
給金を貰うが食費程度で、旅の資金は風を出している家が受け持つ。俺でいえばホロイ家だ。治安維持を含めた地域貢献の他に、若いものに経験を積ませる意味合いから頻繁に行われる。
そんなわけで…、
見て分かるように、俺は刈った草で畑の中に身を隠す場所を作っている。少し離れた背の高い木には袋を仕掛け済みだ。
この村に立ち寄ると隣町まで荷を運ぶ、違う家の風に話しかけられた。胸に付いている木でできた紋を見ると、自分が荷を届けて帰ってくるまでこの地に留まることを告げられる。
それまでにやるべきことが、これで終わる。
海に人が集まるこの時期は、どこも人手が足りなくなるので頼み事はよくある。普段は一人でこなせるものみを行い、それ以外のものはホロイ家に手紙を書く。
たまに、このように村の仕事を手伝うことがある。風にとっては儲けにならない話だが、違うものを手に入れるために、都合が合えば頻繁に請け負う。
これを済ませてしまえば暇になるので、剣でも振っていようと思っている。
どの村にも風ならば誰でも使える一画があり、そこに一人用の幕を張っている。面白がった風の人が稽古をつけてくれることもある。
ただ歩いているだけの生活が続くと、こういった出来事は良い刺激になる。
リュートは草の中に身を潜り込ませ、出来栄えを確かめる。
その夜、風の人と共に畑近くの館に招かれた。
「お招きいただきありがとうございます」
「さあさあ、どうぞ中へ」
気前よく家の主人は中へ招いてくれた。
「リュートです。ありがとうございます」
「おやおや、それはどうも」
通された部屋には食事が用意されていて、村長を家の主人と共に村の人と囲んで夕飯を共にした。
今はこれが一番ありがたい。
初めは物珍しさに保存食を好んで食べた。それに飽きると料理をし始めたのだが、とにかく面倒くさい。幕を張り、食べ始める頃には夜も深くなっている。近くに風の人がいれば火を起こすが、一人の時はどうしても保存食に手が伸びてしまう。
温かいスープに心が救われる。
「最近マシマシが畑に出始めましてね」
村長が話し始める。
机の上は片付けられており、代わりに各々の飲み物が置かれている。
「今年は早いですね」
「そうなんですよ。それで困ってしまい、お願いしました」
家の主人は申し訳ないと頭を下げた。
村の近くにはマシマシの繁殖地がある。新しい縄張りを求めたマシマシが、畑にいたずらを
しているらしい。
「早めに対処しないと後々大変ですからね」
「こんな頼みで申し訳ないのですが、弓を使える者が出てしまっているので、皆さんにお声を掛けさせていただきました。お引き受けしていただいてありがとうございます」
「いえいえ、これも風の縁です。気を遣わないでいただきたい」
主人は恐縮しつつ頭を下げる。
「もちろん、それぞれの家には手紙を送らせていただきます」
「私の方は結構です。ホロイ家にのみお送りください」
「いやいや、これは全く」
風の人は馬に乗っていた。
荷は馬車で運ぶような大きのものではない。一般的な手紙や小さいものは馬車に詰め込まれて運ばれる。運ぶ荷の大切さは運ぶ者の格式からも分かる。
このような手柄などいらないと断られた村長は、苦笑いを浮かべて頭を掻く。しかし、このような人を食事代で雇えるので、村としては大助かりである。
軽い懇談会が終わると、机をそのまま使わせてもらい明日の打ち合わせをした。
マシマシの群れは若い個体が多く、縄張りを追い立てられた群れではなく新しくできた群れではないかということ。ボスがしっかりとしているので危険を察知するのが上手く、畑を餌場にされると大変なことになる。と主人が事の重大さを語る。
この村の畑はどれも比較的広い。林もよく手入れされている。塀を築かずとも畑と林の距離を十分確保するだけで獣害の対策となる。そんな畑はマシマシに弱い。
木から降りると素早く畑まで渡って、野菜を盗み食いをする。すぐに逃げるため一回の被害は少なくできるが、そのための労力は大きくなる。それに収穫前の大事な野菜をマシマシにくれてやる筋合いはない。
村の人は言葉を選びながら、それぞれ同じようなことを言う。
一箇所だけ畑と林を結ぶ橋がある。マシマシなら通れる程度に間隔を空けて木が植えてある。
ボスは畑の際に立つ一番大きな木から周りを警戒しているらしい。必ず村人の姿が見えると群れは森へと戻っていく。
村人との手順の確認が終わると、二人はさらに打ち合わせをする。
村が寝静まると、二つの影が物音を立てずに動き出す。
闇夜でも器用に歩く風の後を、もう一つの影がついていった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
秘書と社長の秘密
廣瀬純七
大衆娯楽
社内の調査のため、社長・高橋健一はこっそり秘書・木村由紀と不思議なアプリで入れ替わることに。
突然“社長役”を任された由紀と、自由に動ける立場を手に入れた高橋。
ふたりの秘密の入れ替わり作戦は、どの様な結末になるのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる