【完結】負けず嫌いが過ぎて、王子と婚約することになりました〜ただ言い返してただけなのに、どういう訳か気にいられてます〜

ぽぽよ

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19ゴーシュの報告とエドワードの焦り

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 ※エドワード視点


「フランシーヌに釣書が届きました」

 エドワードは頭の中が真っ白になった。

 その後もゴーシュの報告は続くも、ほとんど頭に入らなかった。

「……フランは?……彼女はなんと言っているのですか?」

 やっと出た言葉は酷く震えていた。

 会話をしていた、ゴーシュ、父、アレクシスが一斉にエドワードを見た。

「孫はまだ子どもです。異国に嫁がせるなど、断固として拒否いたします」

「当然です!」

 エドワードは声をあげた。

「サリーム殿下はとうに成人していて、奥方も既に二人いるそうです……そんな相手に、フランを……」

 不安が足元から這い上がって来ていた。 
 父が渋い顔をした。

「だがな……バシャール国は大国だ。断ったら関係が悪化するかもしれない」

「……そうですな」

 ゴーシュの表情が曇った。
 暗い顔をする大人たち、良くない空気だと思った。
 このままでは、フランシーヌを差し出そうと言い出しそうで、不安で胸が押しつぶされそうになった。
 止めなければ、絶対に。阻止しなければ。
 エドワードは声を張り上げた。

「フランを政治の道具にするのですか!?僕は反対です!僕はーー」

「エドワード」とアレクシスが言葉を遮った。

「何ですか!?」

 思わず強い口調で振り返った。
 アレクシスが笑っていた。
 こういった場面でさえも余裕のあるアレクシスが、癇に障った。

 エドワードは鋭い目でアレクシスを睨みつけた。
 アレクシスが愉しげに口端をあげた。

「随分と慌てているな」

「慌ててなんか……」

 否定したが、鼓動は早かった。漠然とした不安が無性にエドワードを急き立てていた。

「慌てているよ。落ち着きなさい。まるで檻の中の獣みたいだ」

 アレクシスがくつくつと笑った。

「何でそんなに慌ててるの? フランシーヌは君の友人なんだろう? 友人の縁談に、どうしてそこまで取り乱す?」

「それは……!」

 エドワードは言葉に詰まった。

「フランは……大切な友人だから……」

「ふうん。友人、ね」

 アレクシスが途端につまらなそうな顔をした。
「エドワード殿下」とゴーシュが呼んだ。

「殿下。反対してくださるお気持ちはありがたいのですが、問題はそう単純ではないのです」

「……どういうことですか?」

「バシャール国は、我が国にとって重要な貿易相手国です。今回の求婚を断ることはできますが……」

 ゴーシュが言葉を選ぶように続けた。

「デビュタントが終われば、正式な縁談として再び持ち込まれる可能性が高い。今のままではその時に断る理由がありません……」

「……理由がないとどうなるのですか?」

「外交上、断る理由がないのであれば、あちらの要望に応える他ありません……」

 全身から血の気が引いていくのが分かった。

「そんな……何か、方法は……」

「ないわけではないのですが……」

 ゴーシュが言葉を濁した。

 重い沈黙。

「じゃあ、僕が貰ってあげようか」 

 静寂を切り裂いたのは、アレクシスの妙に明るい声だった。

「……は?」

 エドワードは目を見開いた。

「形だけでも僕の婚約者にすれば、バシャール国は手を出せないだろ」

「ちょ、ちょっと待ってください!」 

 エドワードは慌てて叫んだ。

「叔父上が、フランを!?」

「そうだよ?バシャール国の変態王子よりは、まだ僕の方がマシだろう?」

 エドワードは、ぐっと言葉に詰まった。
 会ったこともない異国の王子よりは、アレクシスの方が、少なくともフランシーヌのことを知っている分、マシかもしれない。

 アレクシスはフランシーヌを無碍にはしない。理屈では、確かに悪くない案だと思った。

 だが、心の奥で何かが激しく拒絶していた。そんな未来は見たくなかった。



「……嫌だ」

 気がついたら声が漏れていた。

「叔父上でも、嫌です」

 エドワードは真っ直ぐアレクシスを見つめた。アレクシスの目が細まった。

「ふーん、なんで?」

「それは……」

 エドワードは言葉に詰まって、俯いた。
 アレクシスがため息を吐いた。

「……僕が嫌だと言うならば仕方ない。お前が動くしかないな

「僕が……動く?」

「そうだよ」

 アレクシスが、ぽんとエドワードの肩を叩いた。

「お前の婚約者になれば、バシャール国も簡単に手を出すことはできない。第一王子の婚約者ならば、政治的な重みが伴う」

 エドワードは、ぽかんと口を開けた。

「僕の……婚約者……?」

「そう。お前がフランシーヌを婚約者にすればいい。それが一番確実で、一番簡単な方法だ」

「でも、僕は……」

 エドワードは言葉に詰まった。

 以前、フランシーヌに言った言葉を思い出した。
『僕に異存はない』と彼女に告げた。
 あの時は、本当にそう思った。純粋に、ただ一緒にいて楽しいからと、それだけで、深く考えてなどいなかった。
 でも、今は違う。
 それだけではない。
 顔も分からぬ異国の王子がフランシーヌを奪おうとしている。
 例え、政治的な理由があろうと、合理的な理由があろうと、彼女が幸せだといったとしても、どうしたってエドワードの中に強烈な嫌悪感が生まれる。

「一緒にいて楽しい」という簡単な理由だけでは、ない。

 それはアレクシスでさえ受け入れられない。
 誰であっても気に入らない。

 どうしてこれほどまでに拒絶したいのか。
 なぜそんなに気に入らないのか。
 ただの友情であるなら、形だけの婚約でも気にしないはずなのに。

「いっその事、フランシーヌに聞いてみようか?僕とお前、どっちの婚約者がいいかって」  

 エドワードの心臓が、大きく跳ねた。

「それは……」

 エドワードは、喉の奥が詰まったような感覚に襲われた。聞けない。聞きたくない。

 アレクシスとフランシーヌが脳裏に浮かんだ。

 楽しげに話して、アレクシスはフランシーヌの髪に触れて、フランシーヌは大人しくそれを受け入れている。

 エドワードは、いつも複雑な気持ちでそれを見ていた。

「彼女は僕とエドワード、どっちを選ぶと思う?」

 心臓が握りこまれたような痛みが走った。
 フランシーヌは、アレクシスを選ぶような気がした。
 エドワードは、友達だから。
 友達だと言い合っているのだから。

 だがもし――もし、フランシーヌが「アレクシス様の方がいい」と答えたら?

 アレクシスは大人で、余裕があって、魅力的だ。自分なんかよりずっと。

 フランシーヌがそう答えたら、自分は……。
 エドワードは拳を強く握りしめた。

「……聞きたくないです。もし叔父上を選ばれたら……」

 エドワードは胸を押さえた。

「すごく、苦しい。どうしてなのかは、分からないけど……」

「ふーん。なるほどね」

 アレクシスが愉快そうに笑った。
 父が重いため息をついた。

「アレクシス、あまり引っ掻き回すな」

 父の呆れた声が聞こえて、ゴーシュが言った。

「殿下。お考えになる時間は差し上げますが、あまり長くはありません。どうか、お早めに――」

 その時、扉が激しく開け放たれた。
 転げるように侍女が入ってきた。
 ローレン家のシエナだ。

「シエナ!どうした!」

 ゴーシュが叫んだ。

「も、申し訳、ありません!」

 肩が揺れるほど息が荒い。額に汗が滲んでいる。

 嫌な予感がした。

「よい、申せ」父が許可を出すと、シエナがゴーシュに縋り付いた。

「大旦那様っ!」

 シエナの悲鳴のような声が部屋に響く。

「お、お嬢様が、大変なのです!今すぐ、お屋敷に――大旦那様っ!お嬢様がっ!」

 取り乱して、同じ言葉ばかりを繰り返す。

「落ち着いて。何があった?」

 アレクシスが侍女の肩に手を置いた。シエナは数度、大きく息を吸う。

 心臓がヒリヒリした。

 侍女が泣き出しそうな顔でゴーシュを見上げた。

「返事を貰いに来たと――サリーム殿下が、屋敷に来ております」


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