だいすきなひと

高塚しをん

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#7

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それからと言うものの、学校ですれ違うと沙絵先輩は必ず私に声をかけてくれるようになった。たいていは友達と一緒だ。沙絵先輩も相当な美人だけど、いつも一緒にいる友達も綺麗な人だ。類は友を呼ぶと言うやつか。

教室が同じ階なので、割とよく会う。沙絵先輩は、会う度に、前にくれたキャンディをひとつくれた。

その日も移動教室へ行こうと階段を上がるところで、沙絵先輩に呼び止められた。

「あー!珠理ちゃんだぁ」

「こんにちは」

「あれ、今日おだんごなんだねー」

いつもは下ろしている髪を、その日はたまたまおだんごにしていた。沙絵先輩はそれに気づいたのだ。

「おだんご可愛い!」

すると横にいた、沙絵先輩の友達がすかさず言う。

「沙絵さー、そうやってナンパすんのやめなよ。だからチャラいって言われんだよ」

「別にチャラくないしぃ。可愛い人を可愛いと言って何が悪いのだ」

「いやいや、そう言うのを人に言いまくるのがチャラいんだって」

「うるせーよ」

私、完全に置いてきぼり。ポカンとしてると、沙絵先輩の友達が言った。

「ごめんね、沙絵ってホントズカズカ来るでしょ?」

「い、いえ…」

ズカズカ来ませんとも言えないこのズカズカ具合だが、美人だから許されるのか。美人て得ね。

「でもさぁ、沙絵、悪い子じゃないから。珠理ちゃんは沙絵のお気に入りなんだよ」

「えぇ!?」

お気に入りって何!?と思わず変な声が出てしまう。

「おいサヤカ。訳のわかんねーこと言うんじゃねえよぉ。ごめんね珠理ちゃん、コイツも悪いヤツじゃないんだよー」

「あぁ、いえいえ…」

「だって沙絵言ってたじゃん。2年の珠理ちゃんが可愛いとかなんと…」

「ま、そういうわけで!珠理ちゃんまたねー!あ、飴あげる!」

サヤカさんとおぼしきその友達が発言し終わらないうちに、沙絵先輩は私にキャンディーを渡してサヤカさんを引きずって行ってしまった。

お気に入りですか。

お気に入り。お気に入り。お気に入り。何の意味もないことなんだろうけど、何せワタクシ色々と疎いもので、そういうのちょっと気になってしまうのだ。

まぁでも、サヤカさんの言う通り、正直言うと沙絵先輩はチャラい風だ。誰にでも愛想が良いし、後輩に取り囲まれているところもよく見かけるけれど、ハグしたり、髪の毛を触ったりなんていうスキンシップも激しい。

悪い人じゃないっていうのはわかる。けれど、可愛いっていうその言葉も、簡単に口から出るものなのだろう。
私は他の女の子とは違う。可愛いと言われたからって、キャーキャー喜んだりしない。

…とか言うけど、私も一応女の子だ。

可愛いとか言われると、気には、なる。
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