オッズ

兵馬俑

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高配当

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「なんちゅう格好で寝てんねん」

 拓也は頻繁に瑠衣のマンションに訪れるようになった。

 桜庭との行為は激しさを増していた。意識を飛ばすのは当たり前で、出血が伴うこともある。直後は歩くこともままならず、拓也に介抱を頼まざるを得ないのだ。

「痛い……ロキソニンちょうだい」

「まっとき」

 拓也は呆れたように言い、常備してあるロキソニンと水の入ったコップを持ってやってきた。

 ベッドに乗り、全裸の瑠衣を抱え起こす。瑠衣が痛みに顔をしかめると、つられるように拓也も眉根を寄せた。

「自分、そのうち殺されるんとちゃうか」

 首に刻まれた痕を指でなぞりながら、拓也は言った。

「社会的地位がある人だから、大丈夫」

「気い失うまでヤられて何が大丈夫やねん。被害届出せんで」

「出すわけないじゃん。桜庭さんは恩人だよ」

 拓也には全部話した。自分は恋人ではなく愛人で、援助してもらっていること。

 大学の友人には絶対に知られたくないことも、拓也には包み隠さず話すことができた。きっと見下しているからだ。自分より下の人間には繕う必要がない。股間を晒すことも平気だった。

「自分見てっと、イライラするわ」

 拓也はうんざりしたように言い、ベッドを降りた。寝室を出ていく。間も無くキッチンから水を流す音が聞こえてきた。今日は何を作ってくれるのだろう。拓也の料理は素朴だが美味しい。

 料理ができるのを待つ間、スマホでボートレースレース中継を見た。丁度奥秀人のレースが始まるところだった。奥秀人は2号艇で、1番人気だ。

 6艇がスタートを切った。第1ターンマークで1号艇が他を引き離し、2号艇と3号艇は接触したことによって遅れを取った。そのまま順位は変わることなく、結果は「1-5-4」で決まった。普段なら気にも留めないオッズに視線がいく。三連単の配当は9500円……これは妥当、なのだろうか。

「できたで」

 と、そこへ拓也が盆を持ってやってきた。ラーメンどんぶりがふたつ乗っている。

「ちゃんぽん」

「美味しそう」

「やろ? そこらへんの料理屋より美味いで」

 拓也はベッドにあぐらをかいて座り、重ねた盆を一枚、自分の前に引き寄せた。その上にどんぶりを置く。二つの盆は、こうしてベッドの上で食事するために買ったものだ。育ちの良い人間とはできないようなことも、拓也とならできた。

「ねえ」

「ん?」

「三連単の配当が9500円ってどうなの? 1-5-4で」

「まあ妥当やろ。なんで?」

「いや……ちょっと気になったから」

「奥は八百長してへんよ」

「わかってるよ……」

「はよ、食い。シェフが目の前におるんやで」

 急かされ、瑠衣は箸を取った。温かい麺をひとくちすする。

「美味しい」

 自然とため息のような声が出た。拓也が「やろ」と目を細める。その顔を見たら、ふいに恥ずかしさが込み上げた。さりげなく足を揃え、股間を隠す。

「自分の体、もっと大事にしいや」

 麺をすすりながら、拓也はなんでもないことのように言った。

「金なら芹沢が払ってくれるやろ。稼いどるんやから」

「無理に決まってるじゃん。一緒に暮らしてたの、六歳までだし。それに兄さんの稼いだ金は兄さんのものだよ」

「せやけどそのうち体壊れんで」

 拓也が顔を上げる。鋭い視線を浴びながら、瑠衣は黙々と麺をすすった。

「瑠衣」

「……食べ切れるかな」

「何かあってからじゃ遅いんやで」

「何もないよ。桜庭さんはいい人だよ」

「どこがや」

「このマンションも、生活費も、桜庭さんが払ってくれてるんだよ。だから僕は成績を落とさずにいられる。アルバイトなんてしてる暇ないんだよ」

「芹沢を頼り」

「だから、兄さんとはもうずっと離れて暮らしてるんだって。お金だけ頼るなんてできないよ」

「嫌われるんが怖いんか」

「……」

「いいから芹沢を頼り。別に贅沢したいわけちゃうやろ。大学卒業するまでの一年半、可愛い弟のためなら毎月十万くらいポンと出してくれるやろ」

「……」

「こんなこと知ったら、悲しむで」

 カッと頭に血が昇った。

「なんだよさっきからっ! 自分の体をどう使おうが僕の勝手だろっ! いちいち口出しすんなよっ!」

 威勢よく言ったものの、鋭い眼光にたちまち怯んだ。俯き、「ごめん」と謝る。

 返事はない。伺うように彼を見ると、痛ましそうな目とかち合った。そんな目で僕を見るなと、また怒りが込み上げる。哀れなのは、学歴も金もないお前の方だ。

「お腹いっぱい。ごちそうさま」

 盆ごとちゃんぽんを突き出す。拓也は自分の分を平らげると、瑠衣が残した分を食べ始めた。

 ギャンブル狂いの拓也は常に金がない。だから呼べば来てくれる。ここに来れば食事にありつけるからだ。

「明日はステーキが食べたい」

 拓也は小さく笑った。

「心配せんでも、明日もきたるよ」

 瑠衣が言葉を変えて誤魔化しても、拓也はいつも、瑠衣の心の不安を見透かす。
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