後宮の棘

香月みまり

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第9章 使、命

第351話 目覚め

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ヒヤリと冷たい感触で隆蒼は目を覚ました。


ぼんやりと歪む視界に映ったのはこちらを覗き込む華南の顔で、まだ自分は走馬灯を見ているのだろうかと考えた。

「走馬灯にしては、切り替わらないなぁ」

心の中で呟いたつもりが、口に出ていたらしい。


目の前の華南の顔が、キッとキツくなって。

ゴンっ

「いてっ!」

額になかなか強烈な痛みが走った。

あ、痛い夢じゃないのか。

「いつまで死んだ気になってるのよ!生きてるんだから現実見なさいよ!」

意識を失う前とあまり変わらない華南の剣幕に、隆蒼は、ぼんやりと宙をみつめて、そして目の前に手をかざすと、開いて握って、、、。

「生きてる」


「当然でしょう!睡眠作用と一時的に神経麻痺を起こす毒だったんだから!」

拍子抜けしたわ、と息をつく華南は不機嫌な顔をしていながら、それでもどこかホッとした様子だった。


「傷の影響で熱があるけど、それくらいならあんたなら1日もあれば治るでしょう?」

そう言って彼女は傷口の当て布を確認している。


「ああ、それは問題ない。むしろ今からでも動ける」

「それはやめときなさい。私は翠玉様と午後には州府に戻るけど、あんたはしばらくここで養生してなさい」

その言葉を聞いて、隆蒼は慌てて身体を起こす。
咄嗟に華南の腕を掴んだ。

「大丈夫だ!俺も戻る!」

「バカ言わないでよ!あんたじゃ護衛の足手まといよ!翠玉様だって動けないんだから!」


心の底から勘弁してくれと言う華南の言葉に隆蒼はさらに目を剥く。

「翠玉様が!?怪我でもなさったのか!?」

殿下に申し訳が立たない!そう思ったのだが、それにしては目の前の華南は平然と笑っているのが気になった。

「大丈夫よ。まだ確定じゃないけど、、多分ご懐妊されてるみたいなのよ。」

これはまだ非公開ねと、言われ、隆蒼の感情はどこへ行っていいのやらわからなくなった。

だから言い方を間違えた

「殿下のお子、、なんだよな?」

「殴るわよあんた!翠玉様がそんなアバズレにみえる!?」

そして華南の不況を買った。

「ここに来る直前に気づいてたみたいなのに、あの方何にも言わないのよ!その上あんなに暴れて!」
ぷりぷり怒りだす華南の横顔を隆蒼はマジマジとみつめた。


そしてもう一度、華南の腕を引いた。

「お前、大丈夫か?」

驚いた華南の顔が隆蒼を見上げていた。
そしてしばらくして、その顔が困ったように笑った。

「大丈夫よ、もう随分前の事なんだから。あの人とも別れたし」

心配しないで、とやんわりと、二の腕を掴んだ手にもう片方の手を重ねられた。


その華南の手の温もりに隆蒼はなぜかあの口づけの暖かさを思い出した。


気がついたら、華南の柔らかそうな唇に口付けていた。
実際に柔らかくて、やはり暖かかった。


すぐに逃げるように唇を離す。

こちらを見上げる格好になっていた華南の綺麗な瞳が隆蒼を捉えていた。


「ヘタクソ」

「悪かったな!」

経験がないんだから仕方ないだろうと、拗ねる。

華南に惚れたのが16の頃だ。それからずっと一筋できたのに、どこでそんなものを学ぶと言うのだ。

そう心の中で言い訳をしていたら、ふわりと華南の顔が近づいてきて


チュッという軽い音と共に、離れぎわに下唇を、柔らかく食まれた。


そして離れた華南の顔は、今までに自分が向けられた事がない妖艶な微笑みだった。


「俺はお前以外の女は考えられない。例え子が持てなくても、お前が近くにいればそれでいい」


華南の少しクセのある髪を彼女の耳にかけてやると、彼女は口を尖らせた。


「私は欲しいわよ!頑張ってくれる人じゃないと無理」

「最悪の話だ!それは俺だって頑張るさ」

「まず脱童貞してから言いなさいな」


揶揄うような華南の言葉に隆蒼は憮然と答える。

「そっちは違う」



「は!?」

どういう事だと、思わず睨みつけた華南に、隆蒼は視線を泳がせた。

「その、なんだ……軍という物は男世帯で色々と付き合いが……」

「あぁ、要は素人童貞なわけね!」

合点したと声を上げる華南に隆蒼は大きくため息を吐く。

「お前は少し、慎みを持て」

「まぁ、軍という物は男世帯で時には女を捨てなければならない時もあるわけで……」

「それはオレの前でやらなくていい、というかお前も随分な地位にいるんだから、もうそんな事しなくてもいいだろう」
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