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第9章 使、命
第363話 兄妹
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昼過ぎに部屋を訪れた兄は、とてつもなく疲れた顔をしていた。
「大丈夫?」
さすがに疲れが出ているのかと心配になって聞いてみれば、彼は軽く首を横に振って頭を抱えた。
「橋の火事、、、どうやらうちの関係者が関わってる可能性がな、、、しかし確証がない」
本当に参ったと、頭を抱えた兄はそれ以上を言わなかったが、なんとなく翠玉にはそれだけで理解出来てしまって、、、かける言葉が見つからなかった。
「その、、引き継ぎは何時ごろ?」
翠玉の言葉に兄は両の目頭を押さえて唸る。
「早ければ明日、、、遅くても明後日には来るだろうな。そういうわけで、お前の顔を見に来られるのはこれで最後かもしれない。あの方にお前の存在を知られるのは良くないと、冬将軍とも意見が一致した。」
「そうなの?」
首を傾けると、兄はため息と共に頷く。
「湖紅の冬将軍の妻が、俺の妹だという事は知られている事だが、、、その妹が湖紅の戦術一切を取り仕切って、董伯央を退けたなんて言ったら、あの人、絶対にお前に接触しようとする。あの人の相手をさせるなんて、腹の子に良くない。」
いったいどう言う事なのだろうか、結局話は見えないが、冬隼と兄が2人でそういう方針でと決めたのならば、現在守られるだけの翠玉は従うのみである。
ぽんぽんと兄の大きく節くれだった手が頭を撫でた。
「達者で、、元気な子を産めよ。清劉の件は、産後の体調とよく相談して無理はするな。冬将軍ともその辺りの話は付いている。お前なしでも出来る様に調整は効くからな。くれぐれも体調第一だ。分かったな?」
念を押すように言われて、翠玉は苦笑する。
夫と兄の根回しの速さには驚く。
本当に翠玉の体調が万全になっていない限りは、参加は認めない、、、互いの間で、そう話しがついているのだろう。
「大丈夫。ありがとう兄様。」
礼を言うと、兄はさらにぐしゃぐしゃと翠玉の髪をかき回して目を細めた。
「義姉上様と、逢吏と翠苓にも、よろしくお伝えして?」
「あぁ。お前の懐妊を知ったら、きっと喜ぶよ。実は発ってしばらくして宇麗からも懐妊の知らせが来た。おそらくお前より少し早いくらいだ」
「えぇ!すごい偶然ね。おめでとう兄様」
驚いて、兄を見上げると兄は少し照れ臭そうに笑った。
「3人目だからな、彼女は慣れたものだよ。忙しければ、慌てて戻らないでもこちらは何の心配もいらないと言ってよこしたよ」
「さすがに3人ともなると頼もしいのね?」
1人目で何もかも初めての翠玉には、羨ましい限りである。
色々不安な事も多くて、悪阻が落ち着いたら書庫の妊娠に関する文献を片っ端から読み漁ろうと、今から思っているくらいなのに。
こんな事なら、義姉上に色々聞いておくべきだったと惜しく思うけれど、あの頃はまさか自分が妊娠するなんて露ほども思っていなかったのだから仕方ない。
王都に戻ったら、泉妃や高蝶妃に聞いてみよう。
そんな事を考えていると。兄の頭を撫でる手が止まった。
「俺はまたハラハラするしかない日々だ。冬将軍もお前の安静が明けたら毎日お前の挙動にハラハラするだろうよ。頼むから、大人しくしてやってくれよ」
とてつもなく思い詰めたように真剣な兄の顔がそこにあって、つい翠玉は吹き出す。
「分かったわ兄様。約束は出来ないけど肝に命じとく!」
「おい華南!頼んだぞ!このじゃじゃ馬は信用ならん。きちんと手綱を握っていてくれ」
翠玉に言ってもダメだと理解した兄の矛先は、後ろに控えていた華南に向いた。
「ふふ、承知いたしましたわ。お任せください」
ニコリと微笑んだ華南の笑顔は底が知れなかった。
「大丈夫?」
さすがに疲れが出ているのかと心配になって聞いてみれば、彼は軽く首を横に振って頭を抱えた。
「橋の火事、、、どうやらうちの関係者が関わってる可能性がな、、、しかし確証がない」
本当に参ったと、頭を抱えた兄はそれ以上を言わなかったが、なんとなく翠玉にはそれだけで理解出来てしまって、、、かける言葉が見つからなかった。
「その、、引き継ぎは何時ごろ?」
翠玉の言葉に兄は両の目頭を押さえて唸る。
「早ければ明日、、、遅くても明後日には来るだろうな。そういうわけで、お前の顔を見に来られるのはこれで最後かもしれない。あの方にお前の存在を知られるのは良くないと、冬将軍とも意見が一致した。」
「そうなの?」
首を傾けると、兄はため息と共に頷く。
「湖紅の冬将軍の妻が、俺の妹だという事は知られている事だが、、、その妹が湖紅の戦術一切を取り仕切って、董伯央を退けたなんて言ったら、あの人、絶対にお前に接触しようとする。あの人の相手をさせるなんて、腹の子に良くない。」
いったいどう言う事なのだろうか、結局話は見えないが、冬隼と兄が2人でそういう方針でと決めたのならば、現在守られるだけの翠玉は従うのみである。
ぽんぽんと兄の大きく節くれだった手が頭を撫でた。
「達者で、、元気な子を産めよ。清劉の件は、産後の体調とよく相談して無理はするな。冬将軍ともその辺りの話は付いている。お前なしでも出来る様に調整は効くからな。くれぐれも体調第一だ。分かったな?」
念を押すように言われて、翠玉は苦笑する。
夫と兄の根回しの速さには驚く。
本当に翠玉の体調が万全になっていない限りは、参加は認めない、、、互いの間で、そう話しがついているのだろう。
「大丈夫。ありがとう兄様。」
礼を言うと、兄はさらにぐしゃぐしゃと翠玉の髪をかき回して目を細めた。
「義姉上様と、逢吏と翠苓にも、よろしくお伝えして?」
「あぁ。お前の懐妊を知ったら、きっと喜ぶよ。実は発ってしばらくして宇麗からも懐妊の知らせが来た。おそらくお前より少し早いくらいだ」
「えぇ!すごい偶然ね。おめでとう兄様」
驚いて、兄を見上げると兄は少し照れ臭そうに笑った。
「3人目だからな、彼女は慣れたものだよ。忙しければ、慌てて戻らないでもこちらは何の心配もいらないと言ってよこしたよ」
「さすがに3人ともなると頼もしいのね?」
1人目で何もかも初めての翠玉には、羨ましい限りである。
色々不安な事も多くて、悪阻が落ち着いたら書庫の妊娠に関する文献を片っ端から読み漁ろうと、今から思っているくらいなのに。
こんな事なら、義姉上に色々聞いておくべきだったと惜しく思うけれど、あの頃はまさか自分が妊娠するなんて露ほども思っていなかったのだから仕方ない。
王都に戻ったら、泉妃や高蝶妃に聞いてみよう。
そんな事を考えていると。兄の頭を撫でる手が止まった。
「俺はまたハラハラするしかない日々だ。冬将軍もお前の安静が明けたら毎日お前の挙動にハラハラするだろうよ。頼むから、大人しくしてやってくれよ」
とてつもなく思い詰めたように真剣な兄の顔がそこにあって、つい翠玉は吹き出す。
「分かったわ兄様。約束は出来ないけど肝に命じとく!」
「おい華南!頼んだぞ!このじゃじゃ馬は信用ならん。きちんと手綱を握っていてくれ」
翠玉に言ってもダメだと理解した兄の矛先は、後ろに控えていた華南に向いた。
「ふふ、承知いたしましたわ。お任せください」
ニコリと微笑んだ華南の笑顔は底が知れなかった。
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