後宮の棘

香月みまり

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第9章 使、命

第365話 王都の憂

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碧凰訝の来訪から2日経って、湖紅碧相連合軍は、紫瑞軍からの休戦協定に、条件をつけた。

目論見通り、それは紫瑞軍にとっては受け入れがたいもので、紫瑞軍の天幕が慌ただしくなったのが見て取れた。



「返事はまだ来ない。おそらく奴らは日没くらいに返答をよこすだろう」

寝台脇の椅子に腰掛けた冬隼の言葉に翠玉は頷く。

「夜陰に紛れて撤退するのね。そして最後に橋を燃やす」


「そうなるだろう」

「うちは、本当に出る幕ないわね」

呆れたように笑えば、冬隼も困ったような笑みで応じた。


「それが、緋堯の条件だからな」

「まぁ、あとは碧相と緋堯で勝手にやってもらうしかないわね!それにしても、碧凰訝って敵にしたくないわねぇ」

感心して息を吐くと、冬隼の表情が少し沈む。
凰訝と対面した後、冬隼は彼の人となりを狂人と形容した。

まるで、戦を狩のように楽しんでいるようだと。

自身が狩場に着くまでに、獲物の足止めをしたくて、橋を燃やした。休戦交渉の只中だと言うのに、そんな事はお構いなしで。

無茶苦茶だ。

おそらく翠玉の立てる策は、こういう将には通用しない。本能で全て見破り、本能と自身のうずきで行動して、勢いで突破する。
今回、冬隼と兄の機転で、接触が無かったことに胸を撫で下ろす。


互いに得体が知れないままの方がいい。


冬隼の大きな手が伸びてきて、髪を撫でる。


「一通り片がついて、国境線防衛の目処が立ったら、王都に戻る事になる。皇太后と東左が片付いた今、以前ほど危険ではないにせよ。なにが起こるか分からない。護衛は十分厚くするつもりだ」

神妙な冬隼の言葉に翠玉は苦笑する。

そんな大袈裟な、、、とも言っていられる状況ではないので頷く。

ここ数日やることもないので、この件に関してゆっくり考える時間があった。  

冬隼の手に手を重ねる。


「そのことなんだけど……後宮で起こっているアレコレは、どう考えても皇太后だけの仕業とは考えられないわよね?」

冬隼の唇がキュッと引き結ばれる。

多分、彼も同じことを思っていたのだ。皇太后の最期に呟いた言葉……あれを直接聞いたのは冬隼である。

「烈とも話したのだけど……李蒙と一緒にいる時に私を襲ってきた刺客達は、どう考えても質が低かったわ。東左があんな中途半端な事をするはずがないと思う。そう考えると……皇女殿下と第3皇子殿下に毒をけしかけた人間が、私に対する警告として送ってきたのではないかと思うの」

「いつの間に烈と……」

呆れたように呟く冬隼に肩をすくめる。

「私の周りに影を配してあることくらい分かってるもの。彼らに烈を呼びださせたの」

なにしろ時間はいっぱいあるから!と笑えば、冬隼は渋い顔をして、大きく息を吐いた。


「確かに、それはある。あれはお粗末すぎるからな。そう考えると。まだ後宮で何かを飼っている人間がいるというのか……」

「最近の後宮の様子は何か聞いてる?」

翠玉の問いに、冬隼は眉間にシワを刻む。


「特には……。廟妃と第3王子が後宮を出て、都の外れの離宮に移って、泉妃は少しずつ体調が安定してきているくらいだな。皇后陛下が爛皇子の教育に回って、本格的な世継ぎ教育が始まったとは聞いている」


異母姉あねも大人しくしているのね?」

「そのようだな。なにか気になるのか?」

考え込んでいると、冬隼が首をひねる。

「ん~、異母姉というよりその母親がね、よく刺客を使っていたのよ。何度も殺りあったけど……手強いのから、しょぼいのまで色々使っていたから、まさかその一部かな、とか思ったのだけど。流石にね?」

国が違えば勝手も違う。しかも異母姉が嫁いだ頃、あの女は異母兄あにを皇太子に持ち上げるのに必死だった。貴重な手駒を減らすことなど考えられない。


「とにかくこの前から、なんだか色々が腑に落ちないのよね~それが何なのか分からないんだけど」

自分の膝に頬杖をついて考え込む。

冬隼の手が頭をポンと叩く。

「あんまり根を詰めて考えるなよ」

まぁ言っても無理だと思うが……と冬隼はつけ加えた。よく分かっている。

「大丈夫!ちゃんと休んでるわ!でも時間がありすぎるのよ~。あと3日が待ち遠しいわ」

3日後には翠玉の安静が解除になる。

翠玉には待ち遠しい、そして冬隼には少々不安な日々が始まる。


ふと冬隼は、義兄の言葉を思い出す。

「産まれるまで、気が休まることはないから、覚悟しておけ。ただでさえ妻が翠玉なんだからな!」


まさにその通りだなと、大きく息を吐いた。
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