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フィランダーside
さぁパパにキスをして
しおりを挟むミリィと初めて出会ったのは、彼女の家の中庭だった。
その年入学したばかりの士官学校で意気投合したロドス・ブラッドレイの自宅に招かれ、その日は少し緊張していた。
だってロドスはあこがれの騎士団総帥の息子で、今日はその父上に会えるというのだ、それどころか剣術の指南までしてくれるという。
「父は中庭で先に準備運動をしているよ、そんな緊張しなくていい。家では普通のおじさんだから、むしろ色々幻滅するかも、、、」
そう笑う友人に、引きつった笑みを返して中庭に出る。
すでにカンカンと打ち合う音が聞こえてきて、意識は自然とそちらへ向かった。
庭が見えてくると、青々とした芝の上で、剣を操る大きな男と、それを受け止めたり、いなしたりしている子供の姿が見える。
自分達より少し歳下だろうか、陽の光を浴びてキラキラと輝く金の長い髪を後ろでくくり。ひょろりと華奢なその身体は重そうなその剣撃をひらりとかわして、そして攻めに転じた。
「おぉ!そうくるか!」
相手の大人は楽しそうに声を上げる。
ガンガンと剣を振るう子供の筋も悪く無い、、というか上手い。
「だが甘い!そら!おっやるなぁ、そら!」
大人は楽しそうにその子供を翻弄している。
子供も必死にそれについていくが、それも長く続かなかった。
何回目かの剣撃を受けて、握力がなくなったのだろう。ガランと子供の手から剣が落ちた。
「ふははは、パパの勝ちだぁミリィ!随分と上手くなったもんだなぁ!悪くなかったぞぉ!さぁパパの頬にキスしておくれ~」
大人の方が、大きな声で快活に笑うと、剣を落として立ち尽くす子供に近寄っていく。
一瞬、子供の両手がギュッと握られたのがわかった。
そして、寄ってきた大人の男性の、髭の濃い頬に乱暴にキスをして、くるりとこちらを振り向いて、走ってきた。
こちらを振り返って、はじめてそれが女の子である事に気づいた。
そして、悔し涙を浮かべている、そのヘーゼル色の瞳に心を奪われた。
その女の子は、目の前に突如として現れた俺と、ロドスを一瞬だけキツく睨んで、そのまま脇を通り過ぎて建物の方へ走り去って行った。
唖然とそれを見送っていると、隣にいたらロドスがやれやれと息を吐いた。
「また拗ねたのか、、、妹だ。負けず嫌いで負けるといつもあぁなんだ。気にしなくていい。その内戻ってくる」
そう説明して、彼はスタスタと、妹とは反対側に向かって歩き出す。
彼には姉と妹がいるのは聞いていたが、まさかあんなに幼い令嬢に剣が使えるとは、、、さすが名門騎士の家庭だと、感心した。
「父上!友人のフィランダー・ウォーレンを連れてまいりしました」
「あぁロドスか!やぁフィランダーはじめまして。エイブス・ブラッドレイだ。」
そう快活に笑ったのは、先程の大人。
やはり彼が憧れのブラッドレイ総帥だった。
一気に胸が跳ね上がった。
「はじめまして!よろしくお願いいたします」
「はは、そんな緊張しなくていいよ。変な力が入ると怪我をするからな」
緊張で硬くなった俺に、総帥は快活に笑った。
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