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フィランダーside
まだ、君はそこにいた
しおりを挟む婚約しても所詮は仮初の婚約者だ。どうしても出なければならない夜会や舞踏会では互いにパートナーとして振る舞い、月に1度義務的に、どちらかの家で逢瀬を重ねた。彼女と話す事はエディの話ばかりだ。マメな彼はしょっちゅう手紙を遣す。
世間的には婚約者がいるティナに他の男から手紙が届くのはよろしくないと言う事で、それは最初俺の元へ届く。封筒を入れ換えて、俺からだと言う体で彼女の自宅に転送した。
あまりに頻繁のためか、すぐに俺とティナは仲のいい幼なじみの婚約者だと言われた。
俺の両親からも、ティナの両親からも、そんなに恋しいのなら、早く結婚してはどうかと再三言われて、少し困り始めた頃。
辺境への派遣の打診が来た。
知見を広げるためのもので、将来を嘱望されている者にしか与えられない機会だ。
期間は3年。丁度よかった。
危険も伴う辺境への赴任。いつどうなるか分からないのに、結婚をする事で妻を縛りたくはない。そういう名文で何とかごまかして、俺は辺境へ旅立った。
そんな頃、ミリアーナは酔って彼女を口説こうとした先輩を、半殺しにした事で謹慎を受けていた。
明らかに相手が悪いし、身体を執拗に触ろうとしていたなどの目撃情報も多数で、彼女に非はなかったのだが、気が立っていたのか、彼女は少々やりすぎた、、、道具を使わず素手であったらしいのだが、相手の男は3日ほど生死を彷徨ったのだとか。
まぁいくら何でも加減は出来ただろう、という事で、数日の謹慎処分と第4騎士団に異動となったと、後からロドスに聞いて知った。
辺境での3年は刺激的だった。
やはり最前線であり緊張感が違う。そして何より兵のまとまりも良かった。
貴族の子息に平民出身や傭兵上がり、さまざまな立場の者たちが雑多にいるのに、皆そんなもの関係ないと言う様子で好き勝手につるんで酒を飲み、訓練に明け暮れていた。
言葉遣いも随分と悪くなった。
そんな中で出会って目をかけてくれたのが現在の第4騎士団の団長だ。
彼は辺境伯の子息と言う立場で侯爵位を持っているにもかかわらず、気さくで部下からも慕われていた。
おれより1年早く、王の要請で王都に赴任する時に、彼は俺が王都に戻った際には、副団長として引っ張るからな!と言っていた。
第4といえばミリアーナが配属されたところだ。
少し気分が高揚したが、よくよく考えてみて、彼女が既に第4を出ているだろう事に思い至る。
第4は平民と少数の貴族が所属する部隊だ。柄も第1、第2と比べると随分悪い。
そんなところに仮にも元総帥の娘で伯爵令嬢である彼女を長く置いておくわけがない。
彼女が第4に行ったのもちょっとした罰で、頃合いを見て第1か第2に戻されているだろう。
戻っても、遠目に姿を見ることしか叶わないかもしれない。
そう思っていたから、あっという間の辺境赴任を終えて、団長の言葉通り第4の副団長に就任して、団員の名簿を見て仰天した。
彼女が、ミリアーナがまだ第4にいたのだ。
引き継ぎ資料の中から団員個別の調書を見てみれば、、
彼女は再三の異動伺いを断っていた。
理由は第4が一番落ち着く!他に行ったらまた問題を起こすかも!と言う上層部に対する脅しのような理由だった。
試しに団長に、彼女の事をさりげなく聞いてみると。
「あぁ、あの跳ねっ返りな!腕は一級!女にしとくのがもったいねぇくらいだ!まぁ他で色々あったみたいだけど、ここでは上手くやってるみたいだな。身分もそれなりだし、実力もあるし、事務仕事も男どもに比べたら丁寧だし、副官補佐にどうだ?」
と提案が返ってきた。
副官補佐といえば、業務上は一緒にいる時間が増えると言うことで、、、さすがにそれは自分が持つのだろうか、と不安になった。
「適正を見て、考えさせていただきます」
即答できずに、その話を濁した。
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